「くぅん…」
と鳴いて甘えてくるコユキを、
「ぶるる」(大丈夫。お姉ちゃんが一緒だよ)
と言って宥めてあげる。
これがここ最近の私の朝の日課になった。
そのあとエマさんとバティスさんから朝ごはんをもらって一緒に食べる。
「ぶるる」(今日もご飯美味しいね)
とコユキに声を掛けると、
「きゃふ…」(うん。でもルークが一緒じゃないから…)
と寂しそうな返事が返って来た。
「ぶるる」(寂しいのは私も一緒だよ)
と優しく声を掛けてあげる。
すると、コユキは少し驚いたような顔で、
「きゃふ?」(ほんと?)
と聞いてきた。
「ぶるる」(うん。お姉ちゃんも寂しいけど、我慢してるんだよ)
と私の正直な気持ちを話す。
その答えにコユキは、不思議そうな顔をして、
「きゃん」(なんで我慢するの?)
と聞いてきた。
私は一瞬答えに困る。
しなくていい我慢ならしたくない。
でも、ルークも一生懸命働いてるんだから、私も我慢しなくっちゃって自然と思ってた。
だからコユキの質問に、
「…ぶるる」(お姉ちゃんだからかな?)
と曖昧に答える。
するとまたコユキは、
「きゃん」(お姉ちゃんだと我慢しなきゃいけないの?)
と聞いてきた。
また答えに詰まる。
お姉ちゃんだから我慢しなきゃいけないなんて誰も決めてない。
でも、私がしっかりしなかったらルークが困っちゃうし、コユキのことも泣かせてしまうかもしれない。
だから私は、ルークがいなくても大丈夫って自分に言い聞かせてきた。
そう考えると、段々泣きたい気持ちになってくる。
でも、
(ここで泣いちゃだめよ)
となんとか自分に言い聞かせ、
「ひひん」(お姉ちゃんだから我慢できるんじゃなくて、我慢できるからお姉ちゃんなのよ)
とコユキに向かって少し作ったドヤ顔でそう言ってあげた。
「きゃん!」(そっか。お姉ちゃんってすごいんだね!)
と言ってコユキが無邪気な笑顔を見せてくる。
私はその無邪気な顔がとても可愛らしく見えて、思わず、
「ぶるる」(うふふ。そうよ。すごいのよ)
と言いながら、たくさん頬ずりをしてしまった。
「きゃん!」(お姉ちゃん、くすぐったいよ)
と言って笑うコユキの楽しそうな顔を見ていると、私まで元気になってくる。
私たちはさっきまでのしんみりした空気が嘘だったみたいに明るい声で、
「ひひん」(今日は何して遊ぼうか?)
「きゃん!」(うんとね。…かけっこ!)
と言うと、さっそく今日という楽しい一日のスタートを切った。
お昼。
ご飯を食べて眠くなったコユキが敷き藁の上で丸くなる。
私も横になってそんなコユキを首元に抱き寄せた。
たくさんかけっこをしてたっぷりご飯を食べたからコユキはすっかりご機嫌みたい。
そんな様子にほっとして、私もゆっくりと目をとじる。
(ルーク、私頑張るからね)
と心に誓い、コユキの体温を感じていると、私もいつの間にか眠ってしまっていた。
ハッとして目が覚める。
(いけない、いけない。お姉ちゃんなんだからしっかりしなくっちゃ)
と思って目を開けるが、コユキはまだスヤスヤと眠っていた。
(ふぅ…)
と一安心して、優しくコユキを起こす。
すると、コユキはすこしぐずって、
「くぅん…」(ルーク…)
と寝言でルークを呼んだ。
「ぶるる」(大丈夫、お姉ちゃんがいるよ)
と優しく声を掛ける。
その声に、コユキは、
「くぅん…」
とまた甘えるように鳴いて、私に頬ずりをしてきた。
(うふふ)
と微笑みながら、そのくすぐったさを受け止める。
そして、
「ぶるる」(そろそろ起きないと晩ご飯が食べられなくなっちゃうよ)
と、微笑みながら声を掛けてあげた。
午後も軽くかけっこをして遊ぶ。
かけっことは言ってもコユキは私に乗ってるだけ。
私はコユキが落ちないように、わりとゆっくり走ってあげるが、それでもコユキには十分な速さだったみたいで、
「きゃん!」(お姉ちゃん速い!)
と嬉しそうに私の上ではしゃぎ始めた。
コユキの楽しそうな声を聞いていると私もついつい楽しくなってはしゃいでしまう。
「ひひん!」(じゃぁ、もうちょっと速く走るね!)
と声を掛けると、ほんの少しだけ速度を速めて村の草原を駆け回った。
やがて空が赤くなり始めたのでおうちに帰る。
コユキはまだ遊びたかったみたいだけど、
「ぶるる」(エマさんに『めっ』てされてご飯抜きになっちゃうよ?)
と冗談で脅すと、コユキは、
「きゃん!」(ご飯!)
と言って、今度は、
「きゃん!」(早く帰ろう!)
と言ってきた。
「ぶるる」(もう…)
と苦笑いでおうちに戻る。
そしたら、ちょうど晩ご飯をエマさんが運んできてくれて、
「今日もコユキはお外でライカちゃんと一緒がいいのよね?」
と言ってコユキには普通のご飯、私にはたっぷりのニンジンを用意してくれた。
「ひひん」(いただきます)
「きゃん」(いただきます)
と言ってさっそく食べ始める。
「ぶるる」(美味しいね)
という私にコユキも、
「きゃん!」(うん。美味しい!)
と言って笑顔を向けてくれた。
きっといっぱい遊んだからかな。
コユキの寂しい気持ちはほんのちょっと薄れてくれたみたい。
そんなことを思いながら、私も美味しく晩ご飯を食べた。
ゆっくりと日が落ちて、辺りが暗くなっていく。
エマさんが食器を下げて2人きりになると、またコユキが、
「きゃう…」(ルークまだかな…)
と言って寂しそうな顔になった。
私も、心の中では、同じことを思っているけど、そこはなんとか我慢して、
「ぶるる」(明日もお姉ちゃんといっしょにたくさん遊ぼうね)
と声を掛ける。
「きゃん!」(うん!)
と元気よく返事をしてくれるコユキに安心して、
「ひひん」(じゃぁ、今日はおやすみしよっか)
と声を掛けた。
夜の黒い空にいっぱいの星がキラキラしている。
(この星、きっとルークも見てるよね)
と思うと、私の寂しい気持ちもほんのちょっとだけ薄れたような気がした。
(ルーク。早く帰って来てね)
と星にお願いをして、横になる。
いつものように私の首元にコユキがやって来て、ころんと丸くなった。
ちょっとのくすぐったさを感じて、「うふふ」と笑う。
するとコユキも、「きゃふぅ」と嬉しそうに鳴いて、そのまま目を閉じてしまった。
私もゆっくり目を閉じる。
(きっと明日も楽しくなるよね)
そんなことを思って楽しい気持で眠りに就く。
(きっとルークも、私たちと同じで、明日が楽しみって思いながら寝てるんだろうな)
と思うとなんだか心が強くなったような気がして、
(明日もお姉ちゃん頑張るぞ)
と思えてきた。
私の首元でコユキがもぞもぞと動いた。
(うふふ。くすぐったい)
と思いつつ、コユキをしっかりと抱き寄せる。
そして、私はその温もりを感じながら、今日もちょっと寂しいけど、とっても幸せな眠りに落ちていった。