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第12話初めての魔法01

フェンリルのもとから帰って来た翌日の朝。

私はさっそく庭に出て例の訓練を始める。

自分の中で魔力が循環するのを感じ、それが安定した所でさらに集中しその循環を維持するよう努めた。

やがて、体力の限界を迎えて集中を切る。

すると、私の側には手ぬぐいと水を持ったミーニャが立っていた。

「おはようございます。ルーク様」

と言うミーニャに、

「ああ。おはよう」

となんとか微笑んで返し、手ぬぐいを受け取る。

そして、次に水をもらうとそれを一気に飲み干し、

「ありがとう。生き返った」

と礼を言った。


なんとか立ち上がり食堂へ向かう。

私が食堂に入るとすでに父が席に着いていて、

「おはよう。調子はどうだ?」

と聞いてきた。

「おはようございます。ずいぶんとコツをつかんできました」

と答えて私も席に着く。

するとそこへエマとミーニャが朝食を運んできてくれた。

みんなで食事をしながら、

「そうだ。エマ。今度新しい料理を作ってみてくれないか?なに、簡単なやつだ。ただ炒めたジャガイモとベーコンとチーズを卵の中に入れてパイのような形に焼けばいいだけなんだが」

と言いつつ簡単なイメージを伝える。

するとエマは、

「あら。それは美味しそうですわね。かしこまりました。卵ならたくさんありますからさっそくお昼にでも作って見ましょう」

と笑顔ですぐに応じてくれた。

父も興味津々なようすで、

「なんだ?ミリアルドの所で出てきた料理か?」

と聞いてくる。

私はそれに少し苦笑いを浮かべながら、

「まぁ、そんなところです」

と少しお茶を濁して答えておいた。


そして、昼。

まだ完成には少し遠いスパニッシュオムレツを食べる。

しかし、パイのような見た目とこれまで経験してことがありそうでない味にみんな興奮し、我が家の食卓にはたくさんの笑顔がこぼれた。


(やはり食の力は偉大だな…)

と改めて思いつつ、午後も政務に精を出す。

私はこの領地と各村の地図を見ながら、現時点で実現できそうな改善点を探っていった。

農道の整備、用水路の延伸、やるべきこと、やりたいことはたくさんある。

しかし、大規模な工事はすぐには無理だ。

現状で出来ることは何だろうか。

そんなことを考えながら、地図や過去の整備事業に関する書類をひたすらめくっていった。


結局、今できるのは農機具の追加仕入れくらいしか思いつけずに一日の仕事を終える。

(まだまだ、これからだ)

私は自分にそう言い聞かせながら夕食を取りに食堂へ向かった。


夕食の席で父と仕事の話をする。

やはり父も大規模な工事に着手したいけれども予算と人手のやりくりに苦労しているという話だった。

(なにか突破口はないものか…)

と思いつつ、食事をする。

なぜかその日の食事はいつもより味が薄く感じた。


翌朝からも訓練をして政務に励むという日々を送る。

しかし、新しい農機具と村でも栽培が可能なのではないかと思われる葉物野菜の種をいくつか発注した程度の成果しか上げられず忸怩たる思いで時を過ごした。


そんな日々を1か月ほど過ごし、またフェンリルのもとへと出かける。

(さて、今度はどんな訓練を教えてもらえるのだろうか…)

と期待しつつ、また3日かけてフェンリルの待つあの場所へと向かった。


またあの場所に着き、いきなり現れたフェンリルに、

「お待たせいたしました」

と言って礼を取る。

「さっそく見せてもらいましょうか」

というフェンリルの求めに応じて、私はいつも通り魔力の循環を始めた。

魔力の循環が終わり、肩で息をしつつも、倒れることなくフェンリルに視線を向ける。

するとフェンリルはうなずき、

「ずいぶんと上達しましたね」

と言ってくれた。

「ありがとうございます」

と言って素直に頭を下げる。

そんな私にフェンリルはもう一度うなずくと、今度は、

「思ったよりも早かったですが、そろそろいいでしょう」

と、これまでよりも少し重たい雰囲気でそう言った。

私は半ば予想しつつも、

「そろそろ、と言いますと?」

と聞き返す。

するとフェンリルは予想通り、

「魔法を授けます」

と言った。


「練習にちょうどいい場所があります。ついて来なさい」

というフェンリルにライカと一緒について行く。

1時間ほどだろうか。

森の中を歩いて行くと、やがて大きな滝に出た。

フェンリルが私を振り返る。

そして、

「私が授けるのは水と風の魔法よ。見本を見せるから見ていなさい」

と言うと、何の準備も無く滝つぼの水をまるで竜巻のように巻き上げて見せた。

あまりのことに呆気にとられる。

しかしそんな私に、フェンリルは、

「いきなりこれをやれとは言わないわ。でも小さなものならできるようになるはずよ。自分の中で循環している魔力を水に流して風で流れを操作する感じでやってみるといいわ」

と言い、私にやってみるよう促がしてきた。


(いきなり言われても…)

と思いつつ、滝つぼのそばに向かう。

私は、

(おそらくこういうのはイメージの問題なんだろうな…)

と直感的に思い、まずはミキサーをイメージしてやってみることにした。

ひとつ深呼吸をし、イメージしやすいように手を水面に向ける。

そして、一点を中心にして水が撹拌される状態をイメージするとゆっくりと自分の体内で循環している魔力を水に流すよう操作してみた。

やがて水がゆっくりと動き出す。

(おっ!出来てる…)

と感動した瞬間、集中が途切れたのか、水の動きが止まってしまった。

ハッとして再度集中する。

すると今度はゆっくりとだが確実に、水がぐるぐるとまわり小さな渦を作った。

「そのまま続けなさい」

というフェンリルの声にうなずいて、今度はその渦がさらに早く回り巻き上げられて竜巻のようになる様をイメージする。

すると、私の全身から一気に魔力が抜けていくのを感じた。

それと同時に一気に水が巻き上がる。

流石に先ほどのフェンリルほどではないが、私の巻き上げた水の竜巻は私の身長を少し超えたくらいの所まで上がった。

不意に全身の力が抜ける。

私は思わずその場に座り込んでしまった。


「はぁ…はぁ…」

と肩で息をする私に、フェンリルが、

「驚いたわね。初めてにしては上出来よ」

と声を掛けてくる。

どうやら合格点をもらえたようだ。

私はそのことに安堵しつつ、乱れる息をなんとか整えようと肩で息をし続けた。


そんな私にフェンリルが、

「いい?大きな魔法を放つよりも威力を絞って魔法を操作する方がよほど難しいの。だから次は桶の水を小さな球にする練習をなさい。それに慣れてきたらさっきの魔法がもっと楽にできるようになるわ」

と声を掛けてくる。

私はそれになんとなくうなずくと、フェンリルもまたうなずき返し、一瞬でビー玉くらいの大きさの水の球を何個も作って空中に浮かべて見せた。

その水の球が凄い勢いで飛んでいく。

すると、次の瞬間向こう岸にあった岩にいくつもの銃痕のようなものが出来た。


唖然とする私に、フェンリルが、

「いい?魔法はこういう使い方もできるの。使い方を間違えないでね」

という言葉を掛けてくる。

私はフェンリルのその言葉から、それまでにない重みを感じた。

(なるほど、これは自分をしっかり持たねばならんということだな…)

ということを感じ、しっかりとした言葉で、

「世のため、人のためになるような使い方をしよう」

と応じ、まっすぐにフェンリルを見つめる。

すると、フェンリルは私の返事に満足したのか、重々しくうなずいて、

「また来月ここに来なさい」

と言うと、また一瞬で私の前から消え去ってしまった。


とりあえず、滝つぼで手ぬぐいを絞り軽く汗を拭う。

そして、その日はその場で野営をすることにした。

澄んだ水の中で小魚が泳ぐのを見て、

(ああ、村で魚の養殖はできないだろうか?いいタンパク源になると思うが…)

などと考えつつ、簡単な飯を食う。

そして、その日もライカに寄りかからせてもらってゆっくりと体を休めた。


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