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会議をしよう そのいち

 ももこの取り計らいによって食事に信者達も混ざり、最終的には宴会の体を成した。

 それはそれは幸せに満ち溢れた食事会となり、ももこも知らない料理を次から次へと食べて回っていた。

 そして一気に疲れが出てしまったのか、ももこはそのまま自分の席で眠りに落ちてしまう。



「ももこ様……復活なされたばかりで余程お疲れであったのであろう。そこの二人、ももこ様をお部屋へお連れしなさい。そしてこの後すぐに、この場所で全員参加の大会議を行う。ももこ様の護衛以外は全員、会議に出席するように」


「かしこまりました。大僧正」



 白装束達はなるべくももこの身体に触れないように担架に乗せ、そしてももこのために用意してあった寝室へと向かっていった。



「皆の者、今ももこ様をお連れした者達が帰ってき次第、緊急で大会議を行う!」



 大会議とは。

 月に一度の教団幹部の定例会議と違い、邪心教信者全員が参加し、教団の運営や方針などを話し合う会議である。

 この会議は半年に一度行われる。


 大僧正は会場の白装束達に聞こえるように大きな声で宣言をした。

 邪神復活が成功したのだ。白装束達も緊急で大会議があることは薄々分かっていたため、各々が静かに大僧正の言葉を聞いていた。

 大僧正は下の者の忌憚のない意見を吸上げてくれるため、この大会議は概ね好評である。

 全ての白装束がとまでは言わないが、ほとんどの者が何かしら意見を発言する。

 そしてこの会議で決まったことは実現され実際に教団の運営に反映されていくのだ。

 この大会議を心待ちにしている者もいるほどであった。



「大僧正、ももこ様をお連れした者が戻ってまいりました」


「おお、早かったな。では早速始めよう。皆、席に着きなさい。今回は緊急であるからな、食事をしながらの会議としよう」



 白装束達は、大僧正のこういうフランクな一面にも好感を持っていた。

 大僧正はそう宣言しながら早速自身の皿に盛られている料理に手をつけ始めた。白装束達もそれを見て安心して食事をしながら大僧正の話を聞く。



「何点か議題はあるのだが……まずは再確認といこう。この教団本部に勤めている者は全員知っていることだがとても重要なことだ。邪神であらせられるももこ様の能力だ。三つ……一つ目は命令。ももこ様の命令やお願いには邪神様特有の力があり、それには逆らえない」



 白装束達は頷きながら食事を進めている。大僧正の言うように教団の人間には共有してある情報であった。



「そして二つ目、地下二階の宝物庫の扉を開くことができる。教団に伝わる文献では三百年前にももこ様がお造りになられた様々な道具が保管されているはず」



 これも全員が知っていることである。邪神にしか開くことができないとされているその扉を掃除する当番が組まれている程である。



「最後だが三つ目……これが最も重要なことなのだが……この館にももこ様がいらっしゃるとき、館にいる他の人間は時間の経過に比例して、ももこ様の虜になってしまう……というものだ……つまり我々も既にこの力の影響を受けているということになる。光栄なことだがな」



 白装束達がざわついた。

 もちろん三つ目の力も全員が知っていたことだ。

 しかし改めて言葉にされて揺らいでしまう。

 ももこを可愛いと思っていた自分の気持ちが、邪神の力によるものであるのかと。



「静かに。気持ちは分かる。この件は後で話し合おうではないか。とりあえず、ももこ様のお力のことを念頭に話を進めていきたい。そういう意味での再確認である」



 白装束達から軽い拍手が沸き起こる。同意を意味する拍手である。



「ありがとう。では……そうだな、一番軽い議題から片付けていこうか。実はな、この中に裏切り者かそれに準ずる背信行為をした者がいる。心当たりのある者は起立せよ」



 それまでの和やかな雰囲気は一転し、会場が静まり返ってしまった。



「聖天騎士団の二人組みが儀式に乱入してきたところを見ると、国に情報が漏れたと考えるべきだ……裏切り者か、農業部門や商業部門へ情報を流したものがいると思うのだが、正直に言いなさい。己の行いを、ももこ様に誇れるか? そして、ももこ様に危害を加えてしまうかもしれない過ちを恥ずべきではないか?」



 大僧正は決して大きな声は出さずに、ゆっくりと諭すように語った。

 そして一人の白装束が、わなわなと体を震わせながらフードを脱ぎ、立ち上がった。



「わ……私は……私は……聖天騎士団の団員です……」


「ふむ……そうか。情報を流していたのだな?」


「はい……し、しかし今では後悔しています! も、ももこ様はもっとおぞましく、邪悪な存在かと思っておりました……で、ですがももこ様は……その……」


「ももこ様は何だ? 続けなさい」


「も、ももこ様は……可愛い……とても愛くるしいお姿で……先ほども私に優しく接してくださった……邪悪な存在だとは思えない……そ、それに、これは私の保身ですが、全ての情報を流していたわけではありません! お願いします、許してください!」


「よし、許そう。後でどの情報を漏らしたのかは報告しておきなさい。他にはおらんか?」



 あまりにもあっさりした大僧正の受け答えに、頭を下げた裏切り者の白装束が、今度は急いで頭を上げて大僧正を凝視した。



「だ、大僧正! 私は裏切り者です!! そ、その、どのような処罰が下るのでしょうか……」


「ん? 処罰などない。ももこ様の可愛らしさが分かってさえいれば、その他の問題など瑣末なことである。どうしても許しを請いたければ我々と共に、今後の人生全てをももこ様に捧げなさい」


「だ、大僧正……!」



 ガタッという大きな音を立てて、次々と白装束が立ち上がった。

 その数五人。フードを脱いで大僧正を見つめている。

 皆、身体を震わせ涙を流していた。



「大僧正……俺は……以前、商業部門の友達に、ももこ様の能力を教えました……ももこ様の身を危険に晒す可能性を全然考えてなかった……俺は、俺は……大馬鹿ですっっっ!」


「私もっ! 私も、ももこ様復活の儀式がある日取りを、家族と農業部門の友達に教えてしまいました……す、すみませんでしたっっ!」



 立ち上がった白装束達は順に自身の罪を告白していく。

 そして大僧正はこれにも二つ返事で軽く答えた。



「いいのだ、お前達。許そう。後で報告だけはするようにな。もういいから座りなさい」



 着席を促され、立ち上がっていた白装束達はフードを被りなおして席に座った。

 大僧正がそれを待って言葉を続ける。



「今までの裏切りや背信行為は全て不問とする。我々は邪心様復活を目的としていたが、その実ももこ様の尊さを何も知らなかった。知らずにやったことだ、ももこ様以外に誰がその罪を咎められようか……しかしこれからは違う。いや、ももこ様の尊さの片鱗に触れた我々であれば、ももこ様を裏切ることなどできようはずもない、そうであろう? お前達……」



 大僧正の問いかけに、白装束全員が立ち上がった。

 盛大な拍手と歓声が会場を包む。

 大僧正は両手をあげ、静かにするようにジェスチャーをした。

 そしてさらに言葉を続ける。



「先にも言ったが、この館にももこ様がいらして、魅了の効果が出ているだけかもしれん……だから必要以上にももこ様のことが大切に思えてならんのかもしれん……だがな……だが……」



 大僧正が立ち上がった。

 拳を強く握り締め、感情的になっていることは見ているものには即座に分かる。

 白装束達は立ち上がったまま大僧正の言葉に聞き入る。



「だがしかしっ! この気持ちの全てがっっ本当にももこ様の能力のお陰なのか!? いや、私は違うぞっ! 違うのだっっ! 例えももこ様のお力がなくとも、可愛らしいももこ様を守って差し上げたい、一生を捧げても良いと思うこの気持ち……この気持ちは紛れもなく私だけのものだっっ! ももこ様の尊いこのお力は、私の気持ちを後押ししていただいているだけに過ぎないっっ! 皆、自分の気持ちに自信と誇りを持つのだっ! それは、まやかしでも作り物でもない! そして教団員が一丸となって、ももこ様にお仕えするのだっっっ!!!!!!」



 大歓声と拍手喝采が巻き起こった。

 白装束達はフードを脱ぎ、涙を隠そうとも拭こうともしていない。

 自分の気持ちを代弁してくれた大僧正の言葉に、全員が大きく頷き感謝をしていた。

 少し声を張り上げすぎた大僧正は、どさりと椅子に腰掛けて水を口に含んだ。



「ふぅ……軽い議題のはず……だったのだがな」


「大僧正、素晴らしいお言葉、ありがとうございます!」


「我らは、ももこ様と共にっ!」


「さぁお前達、座りなさい。気持ちは分かるが、まだ議題は残っているのだ」



 白装束は興奮冷めやらぬ様子だったが大僧正に促されポツポツと席に座り始めた。

 最後の一人が座ったのを見届けてから、大僧正は続けるのだった。

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