ユキさんの手を引いていたチェリーちゃんですが、泳ぐのをやめてその手を離しました。
ユキさんもチェリーちゃんに合わせて立ち止まります。
「どうしたの? チェリー君」
「にゅ」
チェリーちゃんの視線の先は、岩場のくぼみにあるゴミ捨て場でした。
あら? チェリーちゃんはユキさんを旅に連れて行きたかったわけではなかったのでしょうか?
「にゅーわ! にゅーわ!」
うずたかく積まれたゴミを前にして、チェリーちゃんは準備運動らしき動きを見せています。
軟体生物に運動が必要なのでしょうか。
これはもしや……
「チェ、チェリー君!?」
一切の迷いなく、チェリーちゃんはゴミの中に飛び込んでいきました。
クラゲだからできることでしょうが、ゴミとゴミのわずかな隙間に入っていきます。
……というか、慣れているのでしょうね。
そういう私もすっかり見慣れてしまい驚きもなくなってしまいましたが……
「にゅひー」
「チェリー君、突然どうしたの? もしかして探し物でもあったの?」
探し物といえばそうでしょう。
戻ってきたチェリーちゃんの手には、食べかけのおにぎりと、一口分も残っていないサイダーのペットボトルが握られていました。
確実に炭酸は抜けていることでしょう。
そして躊躇することなくおにぎりにかぶりつき、触手を使わずにサイダーをラッパ飲みしています。
ああ……ユキさん、唖然としてる。
普通はそうなりますよね。
私も初めて見たときは軽蔑すらしましたが、これはチェリーちゃんのよくある食事風景なのです。
食べ終わったのも束の間、またゴミ捨て場のほうへ視線を移しています。
ゴミの下敷きになっている段ボールに手をかけ引っ張り始めました。
ああ、寝床ですね。
……分かってしまった自分が嫌になりそうです。
「にゅ! にゅ!」
チェリーちゃんの力では段ボールを引き抜くことができないのでしょう。
相変わらず唖然としているユキさんのほうへ声をかけます。
「え、え、チェリー君?」
「にゅわ! にゅー!」
段ボールを
ようやく察したユキさんが段ボールを引っ張りました。
出てきた段ボールは汚れていて、所々が破れています。
ゴミなのですから仕方がありません。
チェリーちゃんは岩場の上に段ボールを敷き、ユキさんに構わず寝転んでしまいました。
ユキさんはチェリーちゃんの奇行に全くついていけていません。
「うわ、なんだあいつ。フローシャだ!」
「きったねー!」
近くを通りかかったイワシの子供たちがチェリーちゃんを見て笑っています。
チェリーちゃんは子供たちの声を気にすることもなく、頭上にある海面を見つめています。
太陽の光が反射し、波で揺れてキラキラとしています。
眩しそうに目を細めながら、今にも眠ってしまいそうです。
「チェリー君? えっと……どうしたの? なんでそんなことをしてるの? ……子供も見てるよ?」
「にゅ? にゅー……」
ユキさんに問われ、ササっとメモを書き手渡します。
「これが俺の自由」