クマノミのハッカイさん、イソギンチャクのサゴジョーさんを仲間に加え、珍宝一行はさんご礁のトンネルを抜けました。
トンネルを抜けた先は、日の光があまり届いていないのか、なんともどんよりとした雰囲気が漂っています。
海底は暗い場所のほうが多いのですけど、さんご礁のトンネルと比べるとどうも身震いしてしまいます。
ごつごつした岩しかない、殺風景な景色がまたなんとも……
「やれやれ……ケツが締まらなくて気持ちが悪いぜ」
「ハッカイ……助けてもらってそれはないですわ」
「しかしよ、なんつーか、体の中の空気が常に漏れ出る感覚っつーのか。ほれ、パクパクしてるだろ?」
「見せなくてもいいですわ!」
……ゲンジョーさん、お供にする人選を間違えているのではないでしょうか。
周りの風景が変わってもお構いなしですね。
誰彼構わず襲い掛かってくる危険人物がいるという話でしたが……
このどんよりした海域にうっすら恐怖心を覚えているのは私だけなのでしょうか。
「にゅ~わ! にゅ~わ! にゅわにゅわぁ~」
珍宝は相変わらず先頭を泳がされています。
あらあら……ご機嫌じゃないですか……
「これ珍宝。サゴジョーさんの話では危険人物がいるとのこと。あまり離れすぎてはいけませんよ」
「にゅ」
「……!」
ボココ……という音を立てて、珍宝の触手の隙間から気泡がいくつもこぼれ出ました。
さっきから、なんと品のないメンバーなのでしょうか……
ゲンジョーさんはウニですから表情こそ分かりませんが、私でしたらこめかみに青筋が浮いていたでしょうね。
あら、ゲンジョーさん、やはり相当頭にきたのでしょうか、針と針を合わせてお経を唱えようとしています。
「くっっっせ!!!!」
一行の動きが突然の見知らぬ声に止まってしまいました。
え、今のって誰の声なのでしょう?
「てめぇ! 人に屁かけといて何のつもりだ! ああん?」
「な、なんですか? どこから声が? 珍宝なのですか?」
「にゅ? にゅにゅにゅ」
ゲンジョーさんに聞かれ、珍宝が触手をブンブンと振っています。
「俺じゃねぇぞー」
「わ、私も違いますわ」
「ここだここ! 目ン玉かっぽじってよぉぉぉく見てみやがれ!」
一行は声の聞こえた頭上を見上げました。
そこにはよぉく見てみないと分からないほど小さな生き物がいます。
皆さんも水族館で見たことがあるのではないでしょうか。
クリオネですね。
あらかわいい。
「そこのクラゲだな! 俺に屁をかましやがったのは! 動物園みてぇな臭いだったぞ! 何食ったらあんな臭いになるんだ! ぶっ殺してやる!」
……言葉遣い以外はかわいいのに……