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主役

「これこれ、なんという言葉を使うのですか」



 乱暴な言葉を使うクリオネに対し、見るに見かねたのかゲンジョーさんが割って入ってきました。



「なんだおまえ? 話しかけてくるんじゃねぇよ。俺は今このクラゲと話してんだ!」


「そのクラゲは私の供。言わば従者のような存在です。名を珍宝と言います。珍宝の無礼は私の無礼です。話は私が聞きましょう」



 ゲンジョーさん、本当に人格者ですね。

 やっぱりシャングリラよりもゲンジョーさんと西の国へ旅をしたほうが珍宝のためになりますね。



「はぁ? 今なんつった? おいクラゲ、てめぇ、チンポって名前なのか?」


「にゅ……にゅーにゅ」


「なーーーーーーーはっはっは! 屁こきのクラゲにはお似合いの名前だなぁおい! はっはっは!」


 珍宝は触手を交差させ否定しています。

 しかし、クリオネは聞く耳を持とうとしません。



「珍宝は私が授けた法名です。何がそんなに可笑しいのですか!」


「なんだ、ウニ野郎。お前がつけたのか? 正気かおい?」


「ウニ野郎ではありません。私はゲンジョーという旅の僧です。クリオネさん、あなたも名乗っていただけますか?」



 クリオネはらしき部分を羽のように生えた足で一度こすります。

 もしかして名前を聞かれるのを待っていたのでしょうか。



「俺か? 俺の名前はゴクーってんだ。お前らもゴクーって名前くらいは聞いたことあんだろ? それが俺だ」


「いえ、聞いたことなどありません」


「な、なんだぁ? そうか、旅の坊主って言ってたな。よそ者か……ちっ」



 え……ゴ、ゴクーって……あらら。



「にゅ……? にゅわ……」



 あ、多分珍宝も同じことを考えてますね。

 最初から西遊記っぽいお話だなぁと思っていたのですが……

 そ、そうですか。

 てっきり珍宝が孫悟空になれるのかと思っていましたが……どうやら違うようですね。

 花果山に挟まれてフラグは十分だったのにもかかわらず、珍宝はただの珍宝だったようです。



「にゅひ……」


「珍宝? どうしたのです? 様子が……むっ、なぜ泣いているのですか?」


「ゲ、ゲンジョー様、こいつ! こいつですわ! この海域で誰彼構わず襲い掛かってるっていうやつですわ!」


「お、俺も聞いたことあるぞ! ゲンジョー様、下がってください!」



 サゴジョーさんとハッカイさんが身を挺してゲンジョーさんを守るために、ゴクーさんとの間に割って入ってきました。

 それにしても……


 ぷぷっ……


 っと、失礼しました。

 珍宝、泣いてたのですね。

 自分が主役だと思っていたのでしょう。

 魔法の言葉のせいというのもあったのでしょうが、いつものようにすぐに逃げ出さなかったという辺り、自分が主役のこの旅を気に入っていたのではないでしょうか。


 ……そう考えるとちょっと可哀想になってきましたね。



「なんだぁ? お前らは。俺の名前を知ってるって事はこの辺の奴らか? いいぜ、やってやる!」


「ゲンジョー様はその岩陰に隠れてくださいですわ!」


「このクリオネ野郎、俺のケツの中に収納してやる! 先手必勝!」



 とうとう、喧嘩が始まってしまいました。

 ゲンジョーさんはサゴジョーさんに言われたとおり岩陰に移動しました。

 ゴクーさんの頭から六本の触手が伸びています。バッカルコーンというやつですね。

 わぁ……クリオネの捕食って凄いとは聞いていましたが、確かに凄いですね。

 天使のような姿が角の様な触手が生えて、悪魔の様な姿に豹変してしまいました。

 サゴジョーさんとハッカイさんがゴクーさんを囲んで戦っています。

 珍宝は……あら?


 珍宝?


 珍宝の姿が見当たりません。

 ゲンジョーさんと一緒に岩陰に隠れたのでしょうか?


 ……珍宝……

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