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 珍宝とゲンジョーさんが和尚様とミチちゃんのお寺を旅立って一週間ほどが過ぎました。

 何かあればすぐに知らせるようにとのゲンジョーさんの命令を受けて、珍宝は少し先のほうを泳いでいました。



「ところで御使い様」



 なんでしょうか。



「珍宝には聞こえていないでしょう。そろそろ教えていただけませんか」



 なんのことでしょうか。



「いえ、ミチの法名のことでございます。なぜお止めになられたのです」



 やっぱりそのことですか……結局ミチちゃんの法名は最初のゲンジョーさんの案をやめさせて、月華げっかに落ち着きました。

 一時は本当にどうなるかと思いました……

 噴出したコーヒーがモニタとキーボードに大量にかかってしまい、しばらくお仕事ができなかったほどです。



「……天界のお言葉でしょうか? 私ごときにはお言葉の意味がわかりかねますが……」



 とにかく、思いとどまっていただいて良かったと言っています。

 あの名前は将来、ミチちゃんが傷付いてしまうとのお告げが作者さんからあったと、それだけ申しておきます。



「左様でございましたか。そういうことでしたら仕方がありませんな。納得いたしました」



 そうしたやりとりもしつつ、ゲンジョーさんはピンク色の美しいさんご礁のトンネルの中を泳ぎました。

 そしてしばらく泳いでいると、珍宝がしゃがみこんでいるのが見えました。

 げらげらと笑っているように見えますね。

 まーた、さぼっているのでしょうか。



「にゅひひひひひひっ!」


「これ、珍宝。往来で何をそんなに笑い転げているのですか」


「にゅわ? にゅーにゅー!」


「なんですか?」



 珍宝の指差す先、そこにはイソギンチャクとクマノミがいます。

 おや……クマノミの様子が少しおかしいですね。

 苦しんでいるように見えます。



「珍宝……他人の苦しみを笑うとは……なんたる外道……」


「にゅ? にゅにゅにゅ!」



 違う違うといったそぶりで触手を振っています。

 さらに、よく見てみろと、必死に指差していますね。

 一体なにを──────ああっ!!



「こ、これは……なんと……」


「にゅーわ」



 クマノミの……こ、肛門にイソギンチャクの触手が刺さっています……こ、これは一体……

 イソギンチャクとクマノミは共生関係ではなかったのでしょうか。



「も、もし、クマノミさん、大丈夫ですか?」


「カ……カヘ……ぬ、ぬい……て」


「これ、イソギンチャク! クマノミさんが苦しがっている! 早く触手を抜いておやりなさい。二人は友達ではないのですか! なぜこんなことを!」



 ゲンジョーさんに問い詰められ、イソギンチャクは焦ったのか、少し早口で答えました。



「旅のお坊さん、誤解ですわ! これはこのクマノミの望みなんですわ」


「な……なんですと?」



 しかしクマノミは口をパクパクさせ、苦しんでいるようにしか見えません。

 一体どういうことなのでしょうか……



「ク、クマノミの奴が、あまりに暇だからケツに触手を刺してくれって言ったんですわ! 私も最初は汚いから嫌だと言ったんですが、余りにしつこくて。それはもう毎朝毎朝、かれこれ一ヶ月以上お願いしてくるもんで……思い切って刺してやったらこの有様ですわ」



 さ、何も見なかったことにして旅を続けましょう。

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