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precious treasure

「にゅ……ひっ」


「……気が付きましたか?」



 気を失ってから待つこと一時間、チェリーちゃんがようやく目を覚ましました。

 頭がぼんやりしているのでしょう。

 チェリーちゃんはしきりに周囲を見渡しています。

 あ、ようやく見慣れない人、ゲンジョーさんの存在に気が付いたようです。



「私はゲンジョーという旅の僧です」


「にゅ……にゅわ?」



 ぷっ。チェリーちゃんったら。

 きょとんとしたまま、これはこれはご丁寧にと言わんばかりに頭を下げています。

 状況がまるで飲み込めていないので当然ですね。



「この山は花果山といって、現世で大きな罪を犯した者が通ると岩に封じられるという言い伝えがあります」


「……にゅひ?」



 (ゲンジョーさん、ちゃんと教えた設定を喋ってくれてますね)

 ゲンジョーさんの話を聞いたチェリーちゃんは怪訝そうな表情をしています。

 だからなんだとでも言いたそうな顔です。



「私は旅の僧と言いましたが、西にある国へ有難い経典を取りに行く途中です。私の国にあった経典は途中で失われており、完全な経典を国に持ち帰ることが私の使命です」


「にゅーにゅー」



 チェリーちゃんはゲンジョーさんの言葉を無視して泳ぎ始めました。

 背中越しに触手を振っています。

 聞く耳持たないという言葉がぴったりの失礼極まりない態度です。



「……はぁ……致し方ない。観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時……」



 そもさん(ポソッ。

 立ち去るチェリーちゃんに対して、ゲンジョーさんがお経を唱え始めました。

 いったい、なんのいみがあるのでしょーか?



「にゅ~にゅにゅ~……にゅ……にゅ? にゅわ……にゅにゅっ……にゅわあああああああああああああああああああ!!!!」



 ああっ! チェ、チェリーちゃん! どうしたのでしょうか? 突然頭を抱えて苦しみ始めました!

 (作者さん、ナイスです! 分かってる!)

 チェリーちゃんはあまりの苦しみに耐えかねて、その場で蹲ってしまいました。

 ゲンジョーさんも少し驚かれていますが、チェリーちゃんのもとへ歩み寄りました。



「ご、ごほんっ、人の話は最後まで聞きなさい。これからあなたは私と共に西の国を目指しなさい。大きな罪を犯した者を改心させ、苦しみから救うことも私の役目。旅の果てであなたも大きな徳を得ることでしょう」


「にゅ、にゅひぃ……」



 チェリーちゃんは目を回しながら拒絶しています。

 逃げようとしていますが、ゲンジョーさんが数珠を胸の前で構えて見せると抵抗しなくなりました。

 よほど痛かったのでしょう……



「あなたは喋ることが出来ない様子……早いですが名前が分からないので法名を授けましょう。……そうですね……珍宝ちんぽう……今日からあなたは珍宝ちんぽうと名乗りなさい。よろしいですね?」


「にゅわ!?」



 珍……ぽ……いえ、なんでもありません。

 さすがのチェリーちゃんも呆けてしまってます。



「では参りましょう。目指すは西……行きますよ、珍宝!」


「にゅ? にゅわっ!? にゅにゅにゅ!」



 こうして旅の僧、ゲンジョーさんとお供の珍宝の旅が……ぷぷ……始まりました。

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