えっと……旅……ですか?
このクラゲ、チェリーちゃんも旅の途中ですが、なぜゲンジョーさんはチェリーちゃんと一緒に?
「……現世を生きる全ての人に手を差し伸べることこそ私の修行です……チェリーとやらは、御使い様のお言葉によれば罪深いとのこと……そうであればなおのことです」
う、う~~~~ん……そこまで仰るのであればお好きになさればいいと思いますが……
ゲンジョーさんは、岩の下敷きになって苦しんでいるチェリーちゃんの額に手のひらをあてました。
「にゅ……わ」
すると、突然チェリーちゃんを苦しめていた岩が光りだしました。
そして岩は轟音をあげながら、縦に真っ二つに割れて倒れてしまいました。
す、すごい……!
ゲンジョーさんの力なのでしょうか?
「い、いえ。これは私の力などではありません……御使い様のお力では?」
私ではありません。
……どちらでもないとすれば恐らく作者さんのお力でしょう。
岩が割れ、倒れたおかげでチェリーちゃんの体ができてきました。
「なんと……このような奇跡を起こせるとは……釈迦如来様……い、いえ、もしや阿弥陀如来様……?」
違う……とも言い切れませんね。この世界の中ではそうなのかもしれません。悟りを開いているようには見えませんけど。
あ、あらあら、ゲンジョーさん、突然拝んでしまいました。
ウニですからよくは分かりませんが、二本の針をしきりに摺り合わせているので恐らくそうでしょう。
「なんと有難いことか……今だ未熟なこの私などの前に……なんと、なんと……」
ゲンジョーさんは相変わらず拝んでいます。
一方チェリーちゃんは気絶してしまっていますね。
あちゃー。
当たり前ですが、相当苦しかったのでしょう。
これからゲンジョーさんに旅に駆り出されるとも知らずに……
……あ、そうです! いいことを思いつきました!
ゲンジョーさん、少しいいですか?
「はい。御使い様、なんなりと」
チェリーちゃんはとても素行が悪く、目を離すとすぐに悪行に走る癖があります。
「そうですか……私との旅の中で改めてくれるとよいですが……」
そこで、チェリーちゃんが何か良くないことをしたとゲンジョーさんが判断したらお経を唱えてください。
そうすればチェリーちゃんに天罰が下ります。
「ウ、ウニの身の私にそのような大それたお力をお与えになるなど……しかも私は修行中の身です。どうかお考え直しください」
ゲンジョーさんに力を与えるわけではなく、罰を下す力は私の力です。
罰を与えるかどうかの判断を、ゲンジョーさんに委ねるだけです。
そしてゲンジョーさんもチェリーちゃんと旅をすれば分かります。
この者は天罰を与えねば理解できないのです。
やだ、私ったらすっかりその気になっちゃってる……
「……? 最後に何か仰いましたか?」
いいえ、何も。
それと、これ以降は私の声は聞こえない素振りをしてください。
よろしいですか?
「……分かりました。これも修行と考え誠心誠意努めさせていただきます」
これでチェリーちゃんがゲンジョーさんの言うことを聞くでしょう。
ゲンジョーさんは修行僧ですから、とても清く正しい旅になるに違いありません。
ナレーターとしての腕がなります。
私がこの職に就く前に思い描いていたような、絵本のような世界のナレーションができるかもしれません。
世界はこんなに美しいのに、チェリーちゃんだけが穢れている。
労働とはいえ、そんな穢れのみを追いかけてナレーションすることには、もう疲れました。
次回からが非常に楽しみです!