ホッケのジャン君と別れた後、私はすぐに魔法の言葉を使いました。
純真無垢な子供達にとんでもないことをしでかした罰です。
いえ、あれはもう性犯罪の域だと思います。
見過ごすことはできません。
魔法の言葉の効果は六時間経った今、ようやく発揮されました。
いつ天罰が下るのかと思っていたところでした。
チェリーちゃんは、ジャン君と別れ、街を出て、とても深い海溝を通り過ぎようとていました。
海溝の底から伸びてきている海底火山の頂上も眼下に見えていて、丁度いいと一休みしているところでした。
何もない空間から突然大きな岩が現れ、チェリーちゃんは岩の下敷きになってしまったのです。
「にゅ、にゅわぁあああああああああああああああああああああああ!」
いい気味です。
「にゅ! にゅ!」
チェリーちゃんは触手と体の半分が岩の下敷きになってしまい、抜け出すことができなくなってしまったようです。
……ぷっ。
「にゅひぃ! にゅにゅ? にゅにゅにゅ! にゅわぁ!」
私に何か言っているのですか?
にゅーにゅにゅーにゅ言われても私には理解できませんね。
どうせ私には助けることはできないのですから、大人しくしていたらどうですか。
さて、チェリーちゃんも動けないようですから紅茶でも入れてこようかしら。
「にゅがぁーーーーーーーーーー!」
-------------------------------------------
おはようございます。
…………あ……まだ挟まってる……
あれから三日が過ぎました。
相変わらずチェリーちゃんは岩に挟まれたままです。
叫び声をあげたり、もがいたりしていたのは最初の一日だけでした。
今ではもうピクリとも動きません。
……さ、さすがに罰が重すぎではないでしょうか……
最初はいい気味だと思いましたが……チェリーちゃん? チェリーちゃん!
「……………………にゅ」
よかった……し、死んではないようですね。
でも、もう時間の問題かもしれません。
どうしましょう……どういうつもりか作者さんに聞きに行ったほうがいいのでしょうか……
……あら?
一匹のタカアシガニが海底火山をゆっくりと登ってきます。
真っ直ぐ、こちらの方へ向かってきていますね。
タカアシガニの背にはウニが乗っています。
「おや? これは奇妙な。クラゲの子供がこのような場所でどうして岩の下敷きに……」
喋ったのはウニの方でした。
ウニはタカアシガニの背中から降り、チェリーちゃんの前に立ちました。
「にゅ……ひっ」
「む。息があるのですか。これも仏の導きか。これクラゲの子供、まだ喋れるのなら、なぜ岩の下敷きになっているのか教えてはくれないか? ここは山の山頂。どうすれば岩の下敷きになれるのか……」
「…………にゅぅ」
チェリーちゃんは元々喋ることができません。
喋れたとしてももう体力があまり残っていないのでしょう。
「喋ることができない……そうですか。お声だけが聞こえる、あなた様は仏様でしょうか? それとも仏様の御使いですか?」
…………?
え?
も、もしかして……私の声が聞こえるのでしょうか?
「ええ、このクラゲの子供の傍に来てから、はっきりとあなた様のお声が聞こえます」
さ……作者さんの仕業でしょうか。
えっと……こほんっ。
私は仏ではありません。
この場合、作者さんが仏ですから、私は使いの者と言ったほうがいいかもしれませんね。
「左様でしたか……なんとも有難いことだ……それでは、この子供も御使い様ということですか?」
このクラゲは御使いではありませんし子供でもありません。
見た目は子供に見えますが四十の大人です。
大変な罪を犯したので、罰を与えているところでした。
「なんと。それは……ふむ……」
あなたはそこのタカアシガニさんと旅をされているのですか?
「これは申し遅れました。私はゲンジョーという者。遥か西にある仏の国へ、有難い経典を取りに行く修行の途中でして。それと、このタカアシガニは野生種ですので言葉を喋ることはできません。懐いてくれているので足代わりにしているのです」
はぁ……経典……ゲンジョー……どこかで聞いたような。
「もしよろしければ、この罪深きクラゲ、私と共に旅をさせてはくださいませんか?」