突然ホッケの少年に野球に誘われてしまったチェリーちゃんでしたが、以外にも素直に仲間に入って野球をやりはじめました。
チェリーちゃんの正体を知っている私たちが見れば浮浪者にしか見えませんでしたが、子供から見たらやはりチェリーちゃんは子供にしか見えないのでしょうね。
チェリーちゃんは中年の体力をなんとかごまかしながら野球をしました。
時折漏れる「にゅわ」という小さな声が、もう決して帰っては来ない時代のかけがえのなさを思わせますね。
それにしても……余程ストレス発散をしたかったのでしょうね。
ようやく野球もひと段落して、少年たちは家路に着きました。
今はチェリーちゃんが座っていたベンチに、最初に声をかけてきたホッケの少年と二人でくつろいでいます。
「楽しかったねー!」
「……わ……にゅ……わぁ」
「あはは! 疲れすぎだよ! タバコなんて吸ってるからじゃない?」
「にゅ……わ」
「…………最初、不良かと思ったけど……よかったよ! 友達になれて!」
「……にゅ?」
ホッケの少年は胸ヒレをスッと差し出しました。
「僕、ホッケのジャンっていうんだ! また遊ぼうよ!」
差し出された胸ヒレを、チェリーちゃんは触手でそっと握りました。
そして急いでメモに書き込んで、ジャン君に手渡します。
「くらげのチェリー……君っていうの? えっと……友達になってくれたからお礼がしたい……? え、お礼なんていいよ!」
「にゅわぁ」
チェリーちゃんは椅子から立ち上がるとゆっくりと泳ぎ始めました。
ジャン君のほうへ触手をむけて、くいくいと動かします。
こっちへ来いということでしょうか?
「あ、まって! どこにいくんだよ?」
「にゅーわ」
公園には歩道にベンチ、そして野球をしたグラウンドの他にもちょっとした海草の茂みが沢山ありました。
海草の茂みはなかなか深く、かくれんぼもできそうですね。
そして、どこへ連れて行かれるのか分からずに不安そうな表情を浮かべるジャン君をよそに、チェリーちゃんは歩道を泳ぎ、そして茂みの中へ入っていきました。
「え、ちょっと、こんなところに何があるの?」
「にゅにゅ」
キョロキョロと、チェリーちゃんは何かを探しているような雰囲気です。
こんな茂みの中に何を探しにきたのでしょう?
あ、もしかして野生の食べ物か何かでしょうか?
なるほど、最近の子供たちには縁遠いものかもしれませんね。昔の子供はこういった遊びを──
「にゅわっっっ!」
──っと、チェリーちゃん、何かを発見したようですね。
何を発見したのでしょうか?
「チェ、チェリー君、どうしたの?」
「にゅわぁ! にゅへへ」
「こ、これは────!!!!」