チェリーちゃんはイカ頭さんと別れた街から離れ、この数日で随分遠くまでやってきていました。
進路は南。たまに西。気まぐれに北に行ったり、思い出したかのように東に向かったり。
ほぼほぼ南に向かっていますが、なんだかうろうろしているだけにも見えます。
どことなく、元気がないように見えます。
……別に心配をしているわけではありません。
あまりナレーションすることがないのも困ります。
今は街と街の間の街道の途中で小さな公園を見つけ、ベンチに座ってタバコを吸っています。
ホッケの子供たちが草野球をしているのを、フェンス越しにぼんやりと眺めながら、考え事でもしているのでしょうか。
懐に触手を伸ばし、取り出したスナック菓子をぽりぽりとつまみました。
それでも草野球から視線をはずしません。
……チェリーちゃん……
完全に浮浪者にしか見えませんね……
────────────────────────────
………………
…………………………お?
あぁ……
また繋がってるのね……
みんな、どもども……
おじさんね、珍しくアンニュイだよ。
多分、ヌメ彦……騙されてるんだろうなぁ……今頃ひどい目に合ってるんだろうなぁ……
そんなことばかり考えてるよ。
……え? 何でついて行ってやらなかったのかって?
そうだねぇ……
おじさんも最初はそのつもりだったんだけどね……
ヌメ彦のあの目を見たらさ……何も言えなくなっちゃったよ。
だってヌメ彦の人生なんだもん。
信じたものを信じきるのも、騙されて痛い目を見るのも、全部ヌメ彦の人生じゃない?
そう思ったらさ、おじさんが口出したり手を出したりできないよねって。なんかそう思っちゃった。
おじさんは自分が自由でいたいからさ。
他人の自由を最大限認めてあげたいんだ。
ヌメ彦の信じたものを曲げちゃったら、おじさんが自由じゃなくなっちゃうんだ……
なんて……別に深くもなんともないけどさ……
頭ではそう思ってても、やっぱりヌメ彦が心配だなぁと思ってね。
心配するのとお互いの自由はまた別件ってことで。
人の心って、ままならないよねぇ……
……はぁ
────────────────────────────
チェリーちゃん……草野球を見ながらタバコをふかして、そんなことを考えていたのですね……
チェリーちゃんは、短くなったタバコを携帯灰皿の中に捨てました。
再び泳ごうとしたそのとき、フェンスを越えた野球のボールがチェリーちゃんの足元に転がってきました。
「……にゅ?」
「ごめーん! そこのクラゲ君! ボールとって!」
声のかかったほうを見上げると、ホッケの少年がフェンスの向こうにいました。
眩しい笑顔をチェリーちゃんに向けながら、ボールをとってくれるのを待っています。
チェリーちゃんはボールを拾い、フェンスの向こう、少年が待っている場所へ泳ぎました。
「にゅわ」
「ありがとう! クラゲ君!」
「にゅー」
ボールを渡して立ち去ろうとしたときでした。
「待って! クラゲ君!」
「にゅ?」
「一人ならさ、僕たちと一緒に野球やらない?」