イカ頭さんが補導されてから三時間後、交番からイカ頭さんが出てきました。
ようやく開放されたようです。
イカ頭さんは顔を真っ赤にして大泣きしています。
警察の取調べに対して、イカ頭さんは正直に包み隠さず全てを話しました。
そして今後はもう悪事を働かないことや、十分な反省をしていると判断され、厳重注意で済みました。
最終的には警官の方にさえ同情されていましたね。
交番から少し離れたところでイカ頭さんは立ち止まりました。
しゃくりあげながら嗚咽を漏らしています。
……これはさすがに可哀想だとは言えません。
悪さをしたことは事実なのです。
「うう……チェリー君……なんで……なんでぇ……」
ああ……
そういうことですか。
イカ頭さんは恐らく、チェリーちゃんに裏切られたと考えているのでしょう。
警官に連れて行かれたことは、多分人生で初めてのことで、そのショックもあるでしょう。
後悔もあると思います。
しかし、家族を捨て、これからずっと一緒に旅をし続けるものだと思っていたチェリーちゃんに裏切られたことが何よりショックなようです。
まぁ、クラゲですからね……どこに行ったのやら……
本来なら職務上チェリーちゃんを追いかけなければいけないのですが、どうしてもイカ頭さんが気になってしまい、イカ頭さんを追いかけてしまいました。
「ううぅ……どうして……どうしてなんだい、チェリー君……これから私はどうすれば……」
「にゅ」
あっ!
チェリーちゃん!!
泣き崩れるイカ頭さんの背中をさすっています。
ど、どの面下げて戻ってきたのでしょうか?
「チェ、チェリー君!」
「にゅ~わ」
「どうして、どうしてなんだい! なんで裏切ったんだい?」
イカ頭さんは泣きながら大きな声で怒鳴りました。
戻ってくるはずがないと思っていたチェリーちゃんに、安堵よりも理不尽なことをされた怒りが先に立ってしまっています。
当然でしょう。
「どうして……どうして……どうして戻ってきたんだいっ!」
「にゅわ?」
「だっておかしいじゃないか! 私を警察に差し出して逃げたのだから、そのままお金を持って逃げればいいだけじゃないのかい? なぜ……一体チェリー君は何がしたいんだいっ!?」
ごもっともです。
チェリーちゃんはその問いかけにしばし考えてからメモを渡しました。
『悪さをすれば捕まって当たり前』
「こ……これは……!」
「にゅ~わっ!」
ポンポンと、イカ頭さんの肩をたたきます。
はぁ……授業の一環だとでも言いたいのでしょう……
なんでしょうか、全く釈然としません……
「そ、そんな、悪いことをすれば捕まるなんて当たり前のこと……」
「にゅ~?」
「………………い、いや、そうだ。悪さをすれば捕まるんだ……私は言葉では理解していたけれど、本当の意味で理解していなかった……」
「にゅにゅ!」
「チェリー君……」
「にゅ?」
「人は悪いことをすれば、捕まったり、酷い目にあって当然なんだね?」
「にゅわっ!」
「思えば初めてチェリー君に会ったとき、君は公園のゴミを漁っていた……万引きしようと思えばできたのに……それをせずにゴミを……チェリー君、私に色んなことを教えるために、わざと沢山の悪事を働かせていたのかい?」
半分は面白かったというのもあったのでしょうが、恐らくはイカ頭さんの言うとおりでしょう。
……他にいい方法がなかったのでしょうか。
教えるにしても教える内容は他にもっとあるような気もします……
本当に今更ですが。
チェリーちゃんは再び、メモを書いてイカ頭さんに渡しました。
『自由には自由の度合いに応じて代償がある。旅は自由で楽しいけれど、イカ頭さんはそれでもシャングリラを目指すのかい?』
イカ頭さんは貰ったメモを握り締め、立ち上がりました。
迷いのない目になってます。
もうちょっと迷ったほうがいいと個人的には思います。
極普通に旅をするだけならその代償とやらも少ないのではないのでしょうか。
「行くよ……チェリー君。私は今まで大きな失敗を何度も何度もしたけれど、今度こそは大丈夫な気がするんだ。ありがとう、チェリー君!」
「にゅわっ! にゅわっ!」
二人は握手を交わしました。
お互いを熱い視線で見詰め合っています。
イカ頭さんは気付いていないようです。
悪さをすれば捕まって当然ですが、チェリーちゃんだけが捕まっていないことに……