「にゅわ! にゅわ~」
チェリーちゃんはゴミ箱から拾ってきた食べかけのハンバーガーを、公園のベンチに座りながらおいしそうに頬張っています。
微塵も躊躇を感じさせません。
あれだけあったお金を全部使ってしまったわけですから、仕方がないと言えばそうかもしれません。
…………少しだけ哀れに思えてきました。
「……ボク、お父さんやお母さんはどうしたんだい?」
少しくたびれたスーツを着たイカのおじさんが、ハンバーガーにかぶりついているチェリーちゃんに話しかけてきました。
相変わらず、ほとんどの人から子供に見られてしまうチェリーちゃんです。
イカのおじさんは心配そうな表情を浮かべています。
「にゅわ?」
「さっきからボクのことを見てたけど……ゴミ箱なんて漁って……よければこれを食べるかい?」
「にゅ?」
イカのおじさんが差し出したのはアンパンでした。
しばらくきょとんとしてたチェリーちゃんでしたが、おじさんからアンパンを受け取るとすぐに袋から取り出して食べ始めました。
「お腹がすいていたんだね……ゆっくりお食べ」
おじさんはチェリーちゃんを優しく撫でてから、隣に腰をかけ、背もたれに深く身体を預けました。
なにやらとても疲れている様子です。
「にゅにゅ?」
「……ああ、いや、心配要らないよ。おじさんね、とっても疲れてるんだ……アンパン、おいしかったかい?」
「……にゅ」
チェリーちゃんは取り出したメモになにやら書き込んで、おじさんに渡しました。
そこには「どうしたの?」とだけ書かれています。
その文字を見たおじさんは、とても悲しい顔になり、あふれる涙をこらえているようです。
「……ボクはきっとお父さんやお母さんがいないんだろう? 一人で生きて大変だろう? それなのに、おじさんの心配もしてくれて……優しい子だね……本当に……優しい」
チェリーちゃんのご両親がいるかいないかは分かりませんが、正体はいい歳こいたおっさんですので当然一人で生きていますし、大変さは正直なところあまり感じないのですが、イカのおじさんには分からないことなので黙っておいた方が良さそうですね。
「おじさんね……あと十日もしない内に、会社をクビになっちゃうんだ……もともと窓際だったんだけど、今日ね、例え一円でも、なんの成果も出さないお前の人件費を払うつもりはないって大きな声で怒られちゃったんだ……会社にいるだけで損が出るって……」
「にゅ……」
「ボクにこんなこと言っても分からないね……ごめんね……おじさんね、家族がいるんだ。妻と子供が二人……おじさん、家でもあんまり大事にされてないから、今から帰るのが怖くてね……こんな昼間に帰ったら三人に袋叩きにされて殺されちゃうかもしれないよ……はは」
「にゅにゅ……」
確かにこんな話を聞かされても子供は分からないでしょう。
大人が聞いたら分かりますが、どうしようもないことです。
しかし殺されるとは、穏やかではありませんね……どんな家庭なのでしょうか。
「……でも、ボクに優しくしてもらって、話を聞いてもらってちょっとだけ元気が出たよ。ありがとうね、ボク。人に話を聞いてもらうなんていつ以来だろう。おじさん、頑張って家に帰って説明してみるよ……ボクも元気に頑張って生きるんだよ?」
おじさんは立ち上がり、力なく泳ぎ始めました。
「にゅわ!」
チェリーちゃんも立ち上がり、おじさんに声をかけました。
「これは……」
チェリーちゃんはおじさんに駆け寄り、メモを渡しました。
そこには「チェリー」と書いてあり、チェリーちゃんは自身を触手で指差しています。
「チェリーちゃん……か。ありがとう、チェリーちゃん。おじさんはね、イカ
「にゅわ!」
あらあら。
女性にしか優しくないチェリーちゃんが珍しいことですね。
……それにしてもイカ頭って……
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