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 チェリーちゃんが女将さんのお店に寄生してから一週間が経ちました。

 その間、私も目を光らせていたのですが、意外なことに何もありませんでした。

 あの素行不良のふしだらクラゲが大人しく生活をしていました。

 チェリーちゃんは昼間、女将さんの家の家事などを手伝ったりして過ごし、夜は客としてお店で飲む。

 そんな日々を繰り返し、八日目の昼間になりました。


 女将さんは食材の調理を、チェリーちゃんはお店の清掃をしていました。

 お客さんが来るはずのない時間、そのはずなのに、店の引き戸が外から開かれました。

 二人はお互いに会話をせずに熱心に仕事をしていたため店内は静かなもので、余計にその音が乱暴に響いたのです。



「お~ぅ。邪魔するでぇ」



 サングラスをかけた、アワビが店内に入ってきました。

 女将さんのお知り合いでしょうか?

 それにしてもアワビがサングラスって……

 その関西弁はとても下品に響きました。



「あ……ちょっと、困ります! 外で、外でお話を伺いますから!」



 慌てたそぶりで女将さんは叫びます。

 チェリーちゃんは何も言わずにじっとアワビを睨みつけていました。



「なんやぁ? おぅ、ワレ。おのれ、従業員雇う金があるんやったら、はよ借金返さんかいやコラ。……あん? なんや、ガキかいな? なんやコイツは?」


「シャングリラさんは旅人の方で……その……」


「ほーん……子供やないんか? はっはーん……おぅコラ女将! どういうこっちゃ! おのれ乳繰りあっとる暇があるんか?」


「そ、それはあなたには関係のないことです……」


「もうええ! おぅ、そこのクラゲ! おのれが女将の何かは知らんけどな、このアマはうちに借金しとるんやど? おのれはそれを知っててここに転がりこんどるんか?」


「やめてください! シャングリラさんは本当に何も関係ないの!」


「おのれはだぁっとれ!!!! コラ、クラゲ! 何とか言わんかいやっっ!!」



 な……なんて粗野で乱暴な言葉遣いなんでしょうか……

 ここまで威圧的な言葉遣いを私は聞いたことがありません……

 威嚇する人は本当は弱いなんて聞いたことがありますが、いざ目の前にすると足がすくみあがってしまうかもしれません。

 チェ、チェリーちゃんは大丈夫なのでしょうか?



「にゅわ」


「なにぃ? そうか、クラゲは喋れんのんか。はんっ!! まぁええわ。おぅクラゲ! どうせ何も聞いとらんのやろうから教えといたるわ!」


「や、やめてっ!」


「うるさいわいっ! このアマはなぁ、元々は第一おさかなちゃんパラダイスで普通の主婦をしとったんや。愛する旦那と息子の三人暮らしで幸せな家庭っちゅーやつを築いとったわけや。それをこのアマ、不倫で全部壊しくさって、一家離散させた挙句にこの町に流れてきよったんや。どうしようもない女なんや。それで逃げてきたこの町でワシ等に金借りてこの店はじめよったんやで。おぅ女将! 二百五十万、きっちり返してもらうでぇ!」


「そ、そんな! 私が借りたのは百万円で、利息がついてもそんな額には……!」


「やかましいわい! たった今利息が増えたんじゃ! なぁ、クラゲのお兄ちゃん、分かるやろ? んん?」



 アワビは触手を伸ばし、チェリーちゃんの頬をペシペシと叩きました。

 その触手を、軽く払いのけ、アワビを睨みつけました。



「にゅ……」


「…………はんっ! お~こわっ。まぁ、今日のところはこれで許しといたる。近々また寄させてもらうわぁ。まぁ、クラゲとよぉ喋って考えとけや」



 アワビは踵を返して店を出て行きました。


 再び店内に静寂が戻りました。



「……シャングリラさん」


「にゅ?」


「…………ごめんなさい…………」


「にゅわ」



 チェリーちゃんは、女将の元まで泳ぎました。

 海中なのでよく分かりませんが、女将は涙を流しているのでしょう。

 瞳を赤くしていました。



「…………本当に……何もお聞きにならないのね」


「……」


「あの人の言ったこと……全部本当。…………それだけじゃない。あれだけ酷いことをしたのにまだ……あの人を忘れられないでいるの。私、本当に──っっぷ!?」



 は……はぁぁぁっっ!?

 チェ、チェ、チェリー…………ちゃん……


 あ、いえ、その……チェリーちゃんは、女将さんに……その、突然口付けを……

 さ、最初は抵抗した女将さんですが徐々に力が……ああぁ……


 どうしましょう……どうしましょう……私こんなシーンのナレーションなんてしたことが……いえ、あの、えっと……

 皆さん、きょ、今日は、ダメな大人を三人も見れましたね。



 ……いやぁ、そうじゃなくてその、えっと……じ、次回に続きます!

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