世間はお正月です。
第一おさかなちゃんパラダイスから逃げるようにして流れ着いたこの街で、チェリーちゃんは物乞いをしていました。
正月早々、本当にろくでもない大人です……
「にゅ、にゅわ~!」
「なんだ、坊主! おら、引っ張るんじゃねぇ!」
「にゅわ、にゅわ!」
「なん……だよ。坊主、親はどうしたんだ?」
チェリーちゃんは内心、その言葉を待ってましたと考えているのでしょうが、物悲しそうな表情で
一方、チェリーちゃんにヒレを掴まれ、立ち去るに立ち去れなくなったサバの男は、ばつの悪そうな表情を浮かべています。
「はぁ……坊主、捨て子か? 正月だってのによぉ……ほれ、これをやるからうまい物でも食え。な?」
サバの男はエラから出した一万円札をチェリーちゃんに手渡しました。
「にゅ? にゅにゅ?」
「いいって。やるよ。お年玉だ。坊主、これから辛いことがたくさんあるかもしれないけれど、強く生きるんだぞ?」
「にゅ……にゅー!」
チェリーちゃんは嬉しそうにはしゃぎながら一万円札を懐にしまってその場を後にしました。
「まったく……俺も甘いな。まぁ、正月早々いいことしたってことで、いいか……」
チェリーちゃんは路地裏に入り、あたりに誰もいないことを確認してからもらったお金を取り出しました。
私は見ていました。
お金をくれたのはサバの男が初めてではありません。
かれこれ六人目です。
チェリーちゃんは触手で器用にお金を縦に持って、ぴしぴしと一枚ずつ勘定し始めました。
ぴしぴしぴしぴし……ああ、全部で十二枚ありますね。
一人平均二万円ですか……
今度はお札を扇のように広げで横で勘定しています。
あのいやらしい顔と言ったら……
「にゅひ……にゅひひっ」
はぁ……
あ、チェリーちゃんが動き始めました。
お金を懐にさっとしまったかと思うと、また大通りに出て行きました。
あの顔はまだ続けるつもりですね……
あんまり度が過ぎるようだったら止めないといけませんね。
しかし、これは犯罪にはならないのでしょうか?
詐欺だと思うのですが……