目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
受難

 そもさん! そもさん! そもさんそもさん!!!!

 はぁ、はぁ………………ふぅ。



「にゅ?」



 こほん。

 失礼致しました。持病の発作が出てしまったようで。お気になさらず。


 チェリーちゃんとアスカちゃんは歓楽街とは違う、綺麗に整備された大通りを泳いでいました。

 行き交う魚達も忙しそうです。さすがは都会ですね。



「チェリー君、迷子になっちゃダメだよ?」


「…………」


「チェリー君? ど、どうしたの?」



 アスカちゃんが振返ると、チェリーちゃんが青ざめた顔で震えていました。



「どうしたの、チェリー君? どこか、具合……悪い?」



 すれ違う魚並みの一点を、チェリーちゃんは凝視していました。

 なんでしょうか?



「……? チェリー君、あの女の人、知り合いなの?」


「にゅ……わ」



 あっ!

 間違いありません!

 あれはララベルちゃんです。

 ララベルちゃんはきっとタツノオトシゴの夫妻を見つけて、街に帰ってきていたのですね。

 よかった。チェリーちゃんを追いかけなくて。

 それにしても……



「……チェリー君、いこ?」


「…………にゅわ」


「隣、男の人、いるね……」


「……………………にゅわ」


「とっても幸せそう……だね」


「……………………………………にゅ」



 ララベルちゃんの隣には、オスのマグロが泳いでいました。

 ただ泳いでいるだけではありません。

 ララベルちゃんと寄り添って泳いでいます。

 アスカちゃんの言うようにとても幸せそうにしています。

 誰がどう見ても仲のいいカップルにしか見えません。

 ララベルちゃんの幸せそうな姿を見て、チェリーちゃんはとてもショックを受けているのですね。

 自分でお別れした女性に、新しい男性ができたと知ったらショックを受けるとか……

 …………ぷぷっ。



「チェリー君……」



 そのとき、チェリーちゃんの下をミノカサゴが忙しそうに泳いでいきました。

 チェリーちゃんの触手に、ミノカサゴの背びれが触れました。



「おっと、失礼! 急いでるもんで!」


「あ、ちょっと! ……行っちゃった。んもぅ! 都会の人ってなんだかみんな忙しそうだね、チェリー君。……チェリー君?」




「にゅわぁああああああああああああ!!!!!!!!」




 チェリーちゃんのいやらしい触手の先が赤くなっていました。

 あ……そういえばミノカサゴには毒がありましたね。

 これは大変ですね~。



「にゅわっ! にゅわっ! にゅわぁぁぁぁ!」


「チェ、チェリー君、どうしたの!? 大丈夫?」



 ふふっ……ミノカサゴの毒がどの程度のものか、私は知りませんが、多分大丈夫でしょう。

 ……あと二回ですね。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?