大通りの陰、普通に歩いていたら絶対に誰も気付かないような場所に、細い脇道がありました。
ただでさえ分かりづらいのに、いかがわしい看板で入り口が塞がれています。
チェリーちゃんは、そんな細い道を泳いでいくアスカちゃんの後についていきました。
辿り着いた場所は看板も何もかかっていない、普通の一軒家でした。
「にゅにゅ?」
「うん……ここがこの街唯一のお医者がいる家なの。闇なんだけどね、結構みんな知ってるんだよ?」
「にゅ?」
「あたしは初めてだよ。前に友達の付き添いで来たことはあるけど、中に入るのは初めて……」
チェリーちゃんはアスカちゃんの震える手を握ってやりました。
んまっ……下心があるのでしょうか。
「にゅーにゅー!」
「あ、待って! チェリー君」
チェリーちゃんは、決心のつかないアスカちゃんの手を引いて中へ入っていきました。
「オケ! 次、アスカ! 入るがいいオゥイェ!」
しばらく待って通された診察室の中央には、大きなイソギンチャクがいました。
青紫色の触手がゆらゆらと揺れていました。
イソギンチャクがお医者様なのでしょうか?
「それで、どうした? ン、ン! 怪我か? 風邪か? 両方か? イエッ! ワントゥ!」
「えっと……その……」
「なんだ? 俺はワルイヤツハダイタイトモダチ! 元気ならゴーホーム! ウォンチュ!」
アスカちゃんは切り出しにくそうです。
それもそうでしょう。
それにしても、このお医者様の話し方はなんなのでしょうか。
触手を突き出してラップを刻んでいます。
最近海ではラップが流行っているのでしょうか……
「にゅ!」
「う、うん……せっかくここまで来たんだもんね……ありがと、チェリー君」
お医者様の態度はともかく、アスカちゃんは決心をしたようです。
「じ、実はあたし……その……胸にしこりがあるみたいです」
「……………………んぁ? ナンダッテ?」
「いえ、その、だから、胸にしこりがあって……乳ガンじゃないかって思って……」
診察室が沈黙に支配されました。
……このお医者様、大丈夫なのでしょうか?
「フーーーーーーー…………そりゃまた…………ヘヴィだな……つまりパイオツの元気がないってことか?」
「えっと、そうじゃなくて、しこりがあるんです……それで、乳ガンかどうか調べてほしいんです……」
「………………フーーーーーー…………」
「…………? あの…………?」
本当にこの医者……大丈夫なの?
「そりゃもう、マンモしかねぇな……オケ」
「えっと……マンモ……? ですか?」
「イエース、ザッツライッ! マンモ! マンモ! セィマンモ!」
「え……マ、マンモ」
「イエーア! M! A! N! M! O! マンモ! イエッ! アンッアンッ! マンモ! オゥ、マンモ! イエッ!」
本当に医者なのでしょうか……この人……
「あ、あの、先生! お願いですから検査してください!」
「マンモ! マンモ! マ──え? なに? 検査? …………あーーーーーーーー…………まぁ、挟むっきゃねぇだろうな……カモッ」
「は、挟むんですか?」
「アーハー、それがザッツマンモよ。モンモオブザイヤッ! ハァッ! ハァッ!」
チェリーちゃんとアスカちゃんは互いに顔を見合わせました。
こればかりは二人の気持ちが良く分かります。
「にゅ……にゅ!」
「じゃ、じゃあそれでお願いします! あたし、自分が大丈夫かどうか知りたいんです!」
「オケ……じゃあブラはずしてみよっか……」
「え!? いや……そうだよね、検査なら必要だよね……」
「にゅひっ! にゅ~!」
こうして怪しい自称医者による検査が始まりました。
……アスカちゃん、無事ならいいのですが……色んな意味で。