戻ってきた店員の子は、チェリーちゃんの書いたメモを見てワナワナと震えていました。
こんないい加減なクラゲの言うことは信用するに値しませんが、書かれている内容が緊急性を要するものでした。
『胸にしこり有り。腫瘍の疑い濃厚につき至急検査されたし。』
「にゅ」
チェリーちゃんの声で、店員の子が我に返りました。
チェリーちゃんの言うことは本当なのでしょうか。
いつもよりも真剣な眼差しをしているような気がしますが……
「はっ……こ、これって……本当なの?」
「にゅわ」
「キ、キミ……見た目はそんなだけど子供じゃないのかな? こんなお店に入ってくるくらいだもんね……」
「にゅーにゅ!」
返事と共に店員の子の目線までひと泳ぎ。それは問いかけを肯定する動きでした。
チェリーちゃんは自分が本当は大人だということを、わざと秘密にしているわけではなかったのですね……
「……うーん……でも、この街には闇医者しかいないんだよね……」
「にゅ! にゅ! にゅわっ!」
チェリーちゃんは気が動転している店員の子の手を引っ張りました。
闇でもいいからすぐに医者に行くべきだということなのでしょう。
………………やだ、少し見直してる? いいえ、そんなことは断じてありません!
「わ、分かったよ。……実を言うとね、自分でも前からしこりがあるような気がしてたんだ……でもこういうことって検査でも凄く怖いから……えっと、クラゲさん、もしよかったらだけど……ついてきてくれるかな?」
「にゅーわっ!」
「アハハ、ありがと。あたしはタコ人魚のアスカだよ。えっとお兄さん? おじさん? 分かんないけど、君は……」
「にゅ!」
「そっか、喋れないんだね。えっと、あ! 後ろにさくらんぼみたいな痣があるね。決めた! あたしはお兄さんのこと、チェリー君って呼ばせてもらうね!」
「にゅーわ」
チェリーちゃんの後頭部の下のほうに、さくらんぼのような痣があります。
みんなこれを見てチェリーと呼んでいたのですね。
「そうと決まれば、さっそくついてきてくれるかな? あたし、お店に早退するって言ってくるね! ちょっとだけ待っててね!」
「にゅにゅにゅ!」
「そうだ、チェリー君! 大人だったら……その……もうブラジャーの中に入っちゃダメだからね! ウチ、そういうお店じゃないんだからね!」
「…………にゅ」
そう言えばそうでした!
あまりに自然にやっていたので忘れていましたが、女性の下着の中に入るなんて、犯罪行為以外のなにものでもありません!
少しでも見直した私が間違っていました!
「……………………にゅ」