「にゅ~わわ」
大シャコガイから命からがら逃げ出したチェリーちゃんでしたが、うまく逃げ切ってようやく一息ついたようです。
しかし、夢中で逃げたのです。
チェリーちゃんはもう方向が良く分からなくなってしまっているのではないでしょうか。
とても心配ですね。
でも、心なしかさっきよりも、あたりが明るくなってきたような気がします。
もしかして、暗い海はもう終わるのかもしれません。
「にゅ~……」
かわいそうなチェリーちゃん。
さっきのことが余程トラウマになったのでしょう。元気のない様子でふわふわと泳いでいます。
「オ~ソ~レミ~ヨォ~」
あら?
なんだか近くで陽気な歌声が聞こえてきました。
「にゅ?」
どうやら男性の人魚がお風呂に入っているようです。
ララベルちゃんのように女性の人魚は下半身は魚ですが、男性の人魚は上半身が魚になっています。
その人魚が、熱水噴出孔の上に陣取って珊瑚のブラシで体をこすって、気持ちよさそうにお風呂に入っています。
その様子をチェリーちゃんは羨ましそうに眺めていました。
…………ちなみに、下半身は熱水噴出孔から上がっている煙で隠れていますよ?
「にゅ~……」
あらあら、きっとチェリーちゃんもお風呂に入りたいのでしょう。
熱水噴出孔は海底では珍しくはないものの、場所が限られていますからね。
チェリーちゃんが引き寄せられるように、近付こうとしたその時、丁度真下の海底から別の人の声が聞こえてきました。
「Yo! Yo! チン! チン! Yo!」
「にゅわ?」
なんだかとってもリズミカルな歌声ですね。
お風呂に気を取られていたチェリーちゃんも、よほど今の歌が気になったのか、ふわりと海底に降り立ちました。
歌声の主はチンアナゴでした。
「Yo! なんだYo! クラゲのガキかYo! チン! チン! イエッ!」
「にゅ~」
チンアナゴは自身の前にある岩をターンテーブルに見立ててビートを刻んでいました。
なんだか勝手に体が動きそうです。
チェリーちゃんも居ても立ってもいられなくなって、ターンテーブルに触手を置いてスクラッチを始めました。
チェリーちゃん、少しは元気が出せそうかしら?
「YoYoYoYoYo! なんだおめぇ!」
「にゅにゅにゅ! にゅわ! にゅわ!」
「Yo! やるじゃねぇか! You、ただのガキじゃねぇな? チン! Yo!」
「にゅにゅにゅにゅにゅ!」
「ノリノリだね~! そういうの、嫌いじゃねぇぜ!? ブッブッパッ! ブッブッパ!」
チンアナゴはチェリーちゃんのグルーヴにボイパで合わせてきました。
即興で刻みます。
「S! E! X! アンイエッ! ン、セックス! Yo! ッブッブッパ! ッブッブッパ!」
「にゅ! にゅ! にゅ! にゅわ!」
あ、ちょっとくだらないですね。
せっかくいいリズムだと思っていましたが台無しですね。
チェリーちゃん、早くこの場を去らないかしら。
「チン! イエッ! チン! Yo! Ho! チンッポ! イエッ」
……あーあ……言っちゃった。
「にゅわ! にゅ!」
その時です。
ノリノリの二人の頭上に影が落ちました。
一体なんでしょうか?
「あ~~~、ブラシどこだ? 俺ちゃんのブラシぃ~っとぉ」
勢いよくチェリーちゃんが鷲掴みにされました。
突然の出来事で逃げる間もありません。
掴んだのは先程お風呂に入っていた人魚です。
「んぁ? なんかやわらけぇな。……ま、いっか」
「にゅ! にゅ!! にゅわーー!」
「さて、最後はアソコを念入りに洗ってフィニッシュっとくらぁ~」
「にゅ!? にゅにゅにゅ! にゅわ! にゅにゅにゅ!」
た、大変! チェリーちゃんは煙の中へ連れ込まれてしまいました。
「オ~ママママ~! オ~ママママ~っと!」
「にゅわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
チェ、チェリーちゃん! ああ、も、もう見ていられません……ゴクリっ。
人魚は念入りに何度も何度も同じ場所を洗いました。
洗っては流し、洗っては流し、臭いが完全に取れるまで何度も何度も……
「お~、ちょっと洗いすぎたなぁ。さすがにひりひりするぜおい!」
「にょ……にょひっ……」
やっと開放されたチェリーちゃんは抜け殻のようになっていました。
なんてかわいそうなチェリーちゃん……
海底に風は吹かないけれど、風に吹かれるように、チェリーちゃんは海流に流されていきました。
「Yo! Yo! チン! Yo!」