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はじめての……

「それじゃあ行こうか」



 次の日の朝、俺は親父の葬式に出るために旅立つことにした。

 もうトンネルになっちまった家には何の未練もないからな。

 ……っていうか、寝泊りも難しいからさっさとどっかの町の宿に泊まりたい、まであるな。



「まぁまぁ、イオリよ。そのように寂しがるでないわ。これからミミィと暖かい家庭を築けばよいではないか」


「ス、スゥ様! や、やめてください!」



 …………恥ずかしいことさらっと言うなよな。

 どう反応していいか分からん。

 ミミィの手前否定するわけにもいかないし……



「おぉ? イオリよ、そなた以外と冷静だの。そういうところもキミオとは大違いじゃわい」



 うるさいよ。そういう性分なんだよ。

 もういっそのこと、認めてしまったほうがいいな。

 親父の葬式の後にちゃんと話ができたらいいなと思ってたけど、この先もミミィとのことでいじられ続けたらたまらん。

 ミミィも可哀想だしな。

 あーあ、顔真っ赤にしてアワアワして……



「ミミィとのことは……ちゃんと考えるよ。幼馴染だけど、前からその……好意は持ってた。ミミィ、家がこんなことになっちまったから俺も街に住むことにするよ」


「イ、イオリ君……」


「だからさ、その……俺と恋人になってくれないか?」



 ミミィは顔を赤くしながら俺の言葉を聞き逃すまいと必死に聴いてくれている。

 そしてミミィの大きな瞳から涙が零れ落ちた。



「……はいっ!」



 もしかして、ミミィはずっと俺のことを待っててくれたのかな……待っててくれたんだろうな。

 田舎暮らしも楽しかったけど、これはもう本格的に田舎とおさらばだな……



「お、おおお、お、おぬしら、も、もうその辺でよかろっ! わらわもおるのじゃぞ!」



 自分からひやかしてきたくせに、なんでこの場の誰よりも照れてるんだよ。



「う、うるさいわい! わらわは長く生きとるけど、ピュアなのじゃ!」



 まぁ、親父に騙されてアイテムボックスに突っ込まれるほどにはピュアだよな。



「も、もうええから! そ、そうじゃ! イオリ! 今日の分のアイテムボックスを引くのじゃ! そうするのじゃ!」



 あー……ミミィのことで正直忘れてたな。

 まぁ、いいか。



「そうだな、いっちょ引いてみるか。旅に役立つものが出てくるかも知れないしな」


「イオリ君、アイテムボックスって昨日言ってた?」



 そっか、ミミィは初めてだな。

 …………そうか、ミミィは初めてか。

 なんか躊躇するな。

 ゲスいもんばっかり入ってるからなぁ……



「イオリよ、遅かれ早かれ分かるんじゃから気にせんでもええじゃろ。ミミィよ、お主もイオリと今後一緒に生活することを考えるのならば避けては通れぬ道じゃぞ?」


「え、スゥ様、そんなに大層なものが入っているのですか?」


「まぁまぁ、それは見てのお楽しみじゃ! それイオリ、早ぅ引くのじゃ!」



 ……人の気も知らないで……

 まぁ、遅かれ早かれってのは同意だ。

 毎日引くわけだからな。よし、気合入れてやってみるか。



「とりあえず二人とも離れててくれ。何が出てくるか分からんからな」


「了解じゃ」


「え、え、そんなに危険なものが出てくるんですか?」



 二人はトンネルがもうひとつ出ても大丈夫な距離まで離れていった。

 よし、じゃあ引くか。

 俺はアイテムボックスに手を入れてみた。


 ガサゴソ。


 ……うーん、これだ!


 今回は柔らかいものを掴んでみた。

 固いものはちょっと怖いからな。

 勢いよく掴んだ物を引っ張ってみる。



「こっ……これはっ!」



 おっぱい……じゃないか……!

 これは……なんだ、親父、何てもん入れてるんだ……


 俺が手にしていたものは、おっぱいだった。

 いや、もちろん作り物なんだけど、この感触……なんだ、おっぱいってこんな感触なのか?

 いやいや、違う、そうじゃなくて。



「……イオリ君、何が出たの?」



 ドッキー!

 必要以上に遠ざかっているミミィには分からないのか。

 良かった……良かったけど、取り出したものはアイテムボックスには入れられない。

 ど、どうする?

 ああ、ミミィが恐る恐る近づいてくる!



「ミミィ! 来ちゃダメだ!!」


「えっ!」


「なんじゃイオリ。今度は何を出し……ああっ! お、お主! な、なんと破廉恥な!」


「ええっ? スゥ様? イオリ君は何を出したんですか?」



 スゥが歩み寄ってくる途中で声を荒げている。

 そうか、スゥが心を読める条件って一定以上近寄らないとダメなんだな。

 い、いや、今はそれどころじゃない。

 こ、このおっぱいをどうにかしないと。



「す、捨てよ! そんなもの捨ててしまうんじゃ! ミミィというものがありながら何ということをしでかすのじゃ!」


「ちょ、俺のせいじゃない! これは親父のもので……」


「ではその手つきはなんじゃ!」



 …………えっ?

 俺……揉んで……


 自分でも無意識だった。

 あまりの衝撃でおっぱいを地面に落としてしまった。

 俺が落としたおっぱいを、ミミィが凝視して固まっている。



「イオリ君…………そ、それは旅の役には……立たないと思うよ」


「そうじゃそうじゃ! ミミィよ、もっと言ってやれ!」



 スゥの奴、笑いながら……あいつ、さっきからわざとあんな言い方して面白がってるのか……くっそ!



「ち、違う、ミミィ、聞いてくれ!」



 恋人同士になって五分も経ってないんだぞ! もう喧嘩とか……

 あ……ミミィ、あんなにほっぺた膨らまして。かわいいな。



「イオリよ、それはわらわも同意じゃ」


「イオリ君!」



 ミミィが声を荒げて俺の名前を呼んだ。

 こ、こんな大声出すミミィを見たことがないぞ……

 や、やっぱり怒られるのか?

 っていうかこれ、本当に俺が悪いのか……

 いや、ここは謝ったほうが丸くおさま──



「そ、そんな作り物なんかより! 私の……む、胸のほうが……その、大きいよ?」


「ミ、ミミィ?」


「も、もう恋人だもん……だから……ね?」



 た、確かにミミィの胸は大きい。半端ないと思う。身長と全然釣り合ってない。

 でも、なんだ。

 胸よりも何よりも、今のミミィの「ね?」ってやつ。

 上目遣いでかわいかった。

 どきっとしちゃったぜ。

 ちょっと会わない内に本当に女の子らしくなったな。

 だ、抱きしめるくらいはいいかな? いいよな? 恋人だもんな?



「お、おおおおお、お、おぬ、おぬ、おぬし、おぬしら!!!! も、もうその辺でやめよっっっ! わらわもおるのじゃぞ! 恥ずかしいのは耐えられぬ! 甘い雰囲気を作るでないわっっ!」


「ひゃ! ス、スゥ様……すみません……」


「……煽ってたのはお前だろうに……」



 ……ふと思ったけど、スゥも含めて三人とも恋愛経験がないから全然慣れてないんだろうなぁ。



「余計なお世話じゃ!!」



 すみません。

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