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親父からアイテムボックスを貰ったけど、とんでもねぇクソガチャだった件
ちぇり
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年08月14日
公開日
25,487文字
連載中
異世界転生者にして国の英雄である親父が死んだ。
そして死んだ親父から貰ったアイテムボックスは、好きな物が出せないし新たに物を入れることも不可能な上に、一日に出せる回数も限られてる壊れたアイテムボックスだった。
アイテムボックスから出てくるのは親父の恥ずかしい過去に関するものだったり、趣味に使うものだったり、とにかく碌なものが出てこない。
アイテムボックスから出てくる碌でもないものを見る度に、親父への敬意が薄らいでしまう……
しかし、せめて死因くらいは調べようと旅に出るのだった。

クソアイテムボックス

 親父が死んだ。

 国の英雄として名高く、年老いてもなお世界最強の男と言われた親父が死んだ。


 俺は英雄である親父を誇りに思っていたんだけど、平凡で才能もない息子としては肩身が狭かったわけで。

 成人してすぐに親元を離れて田舎で自給自足生活を送っていた。

 実家のある王都へは三年前にお袋が死んでから行ってない。親不孝者だと自分でも思う。


 俗世から隔離されてるような環境の田舎町に、親父の訃報は届いてない。

 じゃあなんで俺が親父が死んだことを知ってるのかっていうと──



『たはは……イオリ、すまん! ……ワシ、死んじゃった。すまんすまん』


「…………」



 さっきからずっと俺の目の前に半透明で浮かんでる親父がいるからなんだよな……



「……じゃあなんかのスキルじゃなくて、本当に死んじまって幽霊になってここにいるってことなんだな?」


『さっきからそう言っておるじゃろう……ちょっとは父親の言うことを信用せい』



 親父の強さはこの世の常識を軽く超えてしまっている。

 どんなスキルを持ってたって今更驚きはしない。

 しかし本人が死んだと言うならそうなんだろう、と俺は自分を納得させた。



「それで、なんで幽霊なんかになってんだよ。俺に最後に挨拶がしたかったのか?」


『いやぁ……まぁ……それはそうなんじゃがな……』



 なぜかさっきから態度がはっきりしない。

 だから親父が死んだって実感がいまいち沸かないんだよなぁ……



「っていうか何で死んだんだよ? 病気だったのか?」


『いや、うーん、病気ってわけじゃないんじゃけどな』


「……? なんだよ? 自分の死因が分からねえのかよ?」


『ん、まぁ、分かっとるっちゃー分かっとるんじゃけどな』



 俺は眉を寄せて大きなため息をついた。

 何しに来たんだよ……いや、死んで最後の挨拶に来たんだろう。何しにってことはないか。

 それにしても態度がフニャフニャしすぎてる。

 これは親父が悪いことを隠してるときにする態度だ。息子の俺には分かる。

 これ以上問い詰めても、もっとフニャフニャするだけなので別の質問をしてみることにするか。



「……んじゃあ、俺の手にあるこの袋はなんなんだよ? 親父がこっちに来る直前に、気付いたら手に持ってたんだけど?」



 それまでフニャフニャしていた親父だったが、話題が袋のことになったとたんにシャキっとしだした。



『そうそう! それじゃ! アイテムボックスのことで忠告しにきたんじゃ! それをせんと死んでも死にきれんと思ったら幽霊になっとたんじゃ!』


「ア、アイテムボックスぅ? あ、そっかこの袋、どっかで見たことあんなぁって思ったら親父が持ってたアイテムボックスか」



 その袋は、親父が神様から与えられたと昔に言っていたアイテムボックスだった。

 小さい頃に聞いたことがあったな。

 どんな大きさのものでも自由に出し入れできて、しかも袋の容量は無限だとか。

 最初は信じてなかったけど、こんな小さな袋から家が一軒出てきたこともあったな。

 ……もしかして親父が死んで、俺にアイテムボックスくれるって話かな?

 やった……! あ、いや、親父が死んでやったっていうのもアレだな。

 アレだけど、アイテムボックスが貰えるなら嬉しすぎるんだが!



『それな……うーん、使わないで欲しいんじゃ』


「……は?」


『いやぁ、なんというかな、殺されて意識を失う直前にアイテムボックスの管理者を急いでイオリにしようとしたんじゃが……設定が中途半端なままで終わってしもうた上に、私物を処分しきれんかったんじゃ……なんせ数秒しかなかったもんでな……たはは』


「え!? ちょっと! たははじゃねぇよ! 親父、誰かに殺されたのかよ!!」


『あ! いや、うん、その話はまぁええんじゃ。それよりなイオリ』


「全然よくねぇって! 親父を殺せるような人間なんているのか? っていうか誰だよそいつ! 絶対許せねぇ!!」


『ちょ、ちょっとイオリ! 嬉しいが落ち着くんじゃ! まぁワシも悪かったし? それはもう済んだ話じゃからええんじゃ』



 冗談じゃねぇ。親を殺されて黙ってられるかって!

 ……興奮する俺を宥めようと、親父が俺の肩に触れようとしてるけど、半透明な幽霊だから触れずに空中で手をスカスカさせている。

 …………なんだよ、相変わらず親父は緊張感ねぇな…………くそ、ちょっと冷静になっちまった。



『それよりもアイテムボックスじゃ! いいかイオリ、そのアイテムボックスからアイテムを出してはいかん!』


「え? なんでだよ。俺の手にあるってことはくれたんじゃないのかよ?」


『いや、それはそうなんじゃが……つまりじゃな、まだワシの私物の整理が終わっとらんのじゃ』


「早い話が、見られたくないもんもあるから見て欲しくないってことか?」


『さすがワシの息子じゃ。そのとおりじゃ』


「じゃあ見ねぇよ。そんな趣味はねぇからな」



 それだけ言って俺はアイテムボックスに手を突っ込んだ。

 殺された云々の話は後できっちり聞きだすとして、まずはアイテムボックスを確認することにした。

 嫌がる親父から話を聞きだすのは時間がかかるんだ。とりあえず話が早そうなアイテムボックスからだ。



『こ、こらっ! いかんと言っておろうにっ!』



 アイテムボックスに手を入れた瞬間、脳裏に何かリストのようなものが表示された。

 な、なんだこれ……なんの映像だよ……すげぇな。神様から貰ったってのも本当なのか……

 俺はそのまま意識をリストに集中させる。



「なんだこれ……全部真っ黒に塗りつぶされてる……?」



 アイテムボックスのリストに並ぶ文字は全て黒く塗りつぶされてしまっていた。

 何が書いてあるのか全然分からねぇな……



『ほっ……いや、さっきも言ったように設定が中途半端でな。管理者の譲渡ができんかったんじゃ。その真っ黒になってるリストには本来アイテムボックスの中に入ってるアイテム名が出てくるんじゃ』



 ……中の物の名前が分からなかったから安心してるんだな。

 全く、何入れてたんだか。



『死ぬ直前にイオリに遺産を遺してやろうと思ってな。管理者権限の譲渡とか、詳細設定をする画面があるんじゃ。そこをいじっておったんじゃが……いじっとるときに私物の破棄をしとらんことを思い出して、急いで処分しようとしたらその前に事切れてしもうたんじゃ』


「んじゃ今やれよ」


『それができるならもうやっとるわい。ワシ、死んだからの。管理者はワシでイオリには使用許可が限定的に出ている状態なんじゃけど、ワシが死んだから自動的にイオリの手に渡ったというわけじゃな』


「そうだったのか……それにしても遺産って……ありがとうな、親父」


『ん? おお。まぁ、な。神から貰った武器や防具、それに国が買えるくらいの金も入っとるぞ』



 それを聞くとどうしても笑顔がこぼれちまった。

 いや、親父が死んで嬉しいわけじゃないんだ。

 むしろ殺されたって聞いて、まだ納得がいってねぇ。

 それでもまぁ、それとこれとは話が別なのか。ダメだと思っても嬉しいものは嬉しい。



「親父本当にありがとう。じゃあさっそく取り出すぞ?」


『ちょーーーーーーーーーーい! ちょいちょい! ちょっと待つのじゃ! 取り出してはいかんってば!』


「……だからなんでだよ? 遺産なんだろ?」


『話を最後まで聞かんか!』



 幽霊の癖に、肩で息してやがるな……本当に死んだのかよ。



『仕方ないから説明するが……今のお前はそのアイテムボックスに物を入れることはできんし、取り出せる物もお前の意思で出せんのじゃ。つまり何が出るか分からん状態じゃ。それに取り出せるのは一日三回までじゃ』


「な、なんだよそれ。どんな縛りだよ!」


『ワシも縛るつもりなどなかったわい! さっきから言っておるように、設定が中途半端で終わってしまったんじゃ。おまけにワシが死んで設定をいじれる人間もおらんようになってしまってな』


「ええ……神様からもらったアイテムを壊したのかよ……じゃあ俺が武器が欲しいと思って取り出しても関係ないものが出るかもしれないってこと?」


『んーーーまぁそうじゃな。全体数から言えば武器なんて0.0001%にも満たんじゃろうからな。偶然取り出せる確率は果てしなく低いな』



 はぁーーーーーと俺はため息をついてしまう。

 ……いや、これは形見だ。

 分かってる。頭では分かってるけど……がっかりしてしまった。



「……親父が処分しようとした私物がほとんどなのか?」


『まぁそうじゃな。こっちに転生してから色んなもんを入れたな。整理する必要もないから六十年分のガラクタと、転生前にこっちに持ってこれた物と、大量に入っとるな』



 ん?

 なんか今おかしなことを言わなかったか?



「なんだよ、転生って?」


『ああ、うむ。それもこの際言うておこうかなぁと思っとったんじゃ。ワシ、実はこの世界の人間じゃないんじゃ。日本という別の世界で生まれてな。そっちの世界で死んでしもうて、神様に色んな技能と、アイテムボックスを貰ってこっちに転生してきたんじゃ』



 ふーん、と思った。

 まぁ親父のことは昔から驚くことばかりで今更転生って言われても正直そんな感想だ。

 長年謎だった神様と知り合いになった経緯がやっとはっきりしたなって感じだな。



「まぁ……とりあえず試しで使ってみていいか? 親父の私物ならそれはそれで形見だしな」


『ちょ、おま、話聞いとったんか! いかんと言うておるじゃろ! あ、やめ、やめんか!』



 再び俺はアイテムボックスに手を入れた。

 何かを掴んだ感触を覚え手を引き出す。

 引き出した瞬間に脳裏にあったリストにノイズが走った。



「これは……手紙?」



 アイテムボックスから抜いた手に握られていたものは、便箋だった。



『ちょ、うわーーーー! それはっ! それはいかん! それはいかんって!』



 親父が突然暴れだした。

 さすがは英雄、世界最強の男。動きが目で追えない。

 しかし幽霊なので何にも触れられず、音も立てずに右往左往している。

 俺は便箋に目を通してみた。



『きぃくんへ


昨日はすっごく気持ちよかったよ♡♡ ウチら相性バッチリだね♡♡♡♡♡

きぃくんはとってもスゴイ人でウチなんて相手にされないと思ってた。

でも愛してるって何度も何度も言ってくれて、すっごい安心したヨ♡♡♡♡

今はまだ、奥さん(って呼びたくないけど)がいるけど、きぃくんのヨメはウチだからね♡

絶対絶対結婚しようね?♡♡

ウチ、ずっときぃくんのこと待ってるよ♡♡♡

信じてる♡ちゅ♡


♡♡♡ヒーストレアより♡♡♡』



「…………」


『…………』


「なんだよこれ……」


『いや……の、なんじゃろの……そう、昔。昔、若い頃に……の?』


「いや、日付五年前だけど……」


『……ワシ、そろそろ成仏するわ。イオリ、元気での』


「おーーーーーーーーいっ! 親父っ!」



 親父の体がふわりと天井へ向かって浮かび上がった。

 そのまま天井を通り抜けて行ってしまう。

 こんなしょうもないアイテムボックスを残して、自分の死因もはっきり言わないままに。



「親父! 戻って来いって! おいっ!」

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