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第102話 会いたいきもち

 長かった渋滞を抜けてようやく家に着いた。累は別れがたい様子で頬を撫でて何度も触れるだけの優しいキスをした。


「名残惜しいけど、明日は仕事があるから行くね」


「うん。お仕事頑張ってね」


 私はシートベルトを外して車外に出る。途端、冬の寒さに身を震わせた。

累の車はゆっくりと走り去り、私は見えなくなるまで立って見送った。

(ああ。寂しいって感じてる。私の感情。ちゃんと機能してるみたい)

幸せを噛み締めていると後ろから声がした。


「結菜ちゃん?こんなところでどうしたの?」


「あ、栄さんこんばんは」


「今、累とデートして送ってもらったんです」


「ああ、なるほど。そういえば感情はどうなったの?愛花も心配しているよ」


 愛花と栄にも心配をかけていたことが申し訳なかった。だが今その心配は完全に払拭されている。そのことを伝えることにした。


「実は今日ちょっとした出来事があって感情が完全に戻ったんです」


「本当!?よかった!きっと愛花も喜ぶよ。LIMEしてあげて」


 栄は愛花を大切にしてくれていることが伝わってきてほっこりする。私はその場で愛花にLIMEで感情が戻ったことを伝える。するとすぐに返信が来て感情が戻ったことを喜んでくれた。

(いい友達を持ててよかった。こんなに喜んでもらえるなんて)

 栄にもその旨を伝えるとニコニコ笑ってもっていたビニール袋からお菓子を出して手渡してくれる。


「これは?」


「感情が戻ったお祝い…にしてはちょっとアレだけど嬉しかったから何か渡したかったんだ」


「ふふ。ありがとうございます」


 聞けばこれから良平と宅飲みするために買い出しに行っていたところだったそうで、それならば一緒に家の前まで行こうと二人で歩き始めた。良平のことが気になって少し尋ねてみると良平はぱっと見は元気そうだがやはり私のことを案じているそうだった。

(良平には悪いことばかりしているのにまだ私の心配をしてくれているんだ…優しいな)

 良平の思いに応えられないことをまた心苦しく思ったが考えても仕方ないことなので思考に蓋をした。


「じゃあまたね。結菜ちゃんまだ傷が完治したわけじゃないんだから無理は禁物だよ」


「はい!ではまた」


 栄は良平の家に消えていったので私は自分の家に戻る。相変わらず誰もいない家に寂しく思うが仕方のないことだった。またいつ感情が消えてしまうかわからないからしばらくは様子見で累とは距離をとって生活するのがいいというのが二人の結論だったからだ。


「う〜〜〜でも寂しい。なんか映画でも見ようかな」


 私は配信サービスの映画から前から気になっていた映画を見ることにした。それは切ない恋物語で私は何度も感動して涙と鼻水を垂らしてしまった。


「はあ…すごくよかった」


 この映画はハッピーエンドで幸せな気分になった。最後は二人とも両思いになり結婚するのだが、順調にいっていたら、私も累とこうなっていたのかもしれない音網と少し切なくなった。

(私のせいで婚約破棄しちゃったし、関係再構築、頑張らないと)

 私はLIMEを開いて累にメッセージを送った。


『今日はありがとう。すごく楽しかったし、感情が戻って累のこと愛せるようになって嬉しい』


 するとすぐに既読がついて返信が来た。


『丁度結菜にLIMEしようと思っていたから。びっくりしたよ。うん、今日は楽しかったね、それに結菜の感情がもどってよかった』


 累も私と同様に感情が戻ったことを喜んでくれていた。それが嬉しくて累に会いたくなってしまった。


『会いたいな。さっき別れたばかりなのにね』


 私が送るより速く累からLIMEが届く。

(同じこと考えてる…相思相愛っぽくて嬉しいな)

 さっき見た映画の影響で恋愛脳になっているようだった。


『私も会いたい。でも明日はお仕事だよね?だからちょっと我慢しよう』


『うん…次に会えるのは来週末だよね、1週間が長く感じるよ』


 確かに長い。途中で会えないか色々考えてみたが、そういえば蓮さんに挨拶にいっていないことを思い出した。

(挨拶ついでに軽く飲んで累と短時間でも会えたらいいな)


『累、来週時間がある日ある?一緒に蓮花に行かない?』


しばらく沈黙の後に返信が来る。


『木曜日の7時からなら空いてるから結菜はどうかな?』


『うん!私もその日だったら大丈夫じゃあお店で待ち合わせしよう』


(蓮さんに会えるのも楽しみだし、累に会えるのも楽しみだな)

 こんなお楽しみがあるのなら、来週1週間も頑張れそう。


『じゃあ明日早いからもう寝るね。おやすみ。愛してる』


 時計を見るともう10時だった。確かに早いならそろそろ眠らないといけない時間だった。寂しく思ったがわがままをいうのは良くない。

 私も累にLIMEする。


『お休みなさい。愛してる』


 そうして私はまだ冴えている頭を休ませるためにホットミルクを用意してはちみつを垂らしてコクリと飲んだ。これは両親と一緒に暮らしていた頃、眠れない私のために母がよく作ってくれていたのだ。


「ほっとする。これなら眠れそう」


私は歯磨きをしてベッドに潜り込むと目を閉じた。


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