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第101話 ハーレム

「あはは、正直な反応だな。俺素直な子大好き」


 由依はそう言うと私のことを繁々と観察し始めた。


「結菜ちゃんって本当に可愛いね。俺本気になっちゃった」


 友達の彼女を友達の前で口説く男に結菜は呆れを通り越して怒りが湧いてきた。


「あの…由依さんには助けていただいた恩がありますが、それ以前に人としてどうなんですか?累はあなたの友達なんですよね?友達の彼女に手を出そうとするなんてどうかしてる」


 結菜は本気で怒って累の手をぎゅっと握った。


「結菜ちゃんごめんね。でもさ。初めてなんだ。一目惚れって。いつも女の子の方から寄ってきてて、自分から好きになった事なくて…累の彼女なのはわかってたけど言わないでいられなかったんだ」


「雅之助…お前はいいやつだけど結菜だけは譲れないぞ。ハーレムの女の子たちだけで我慢しろ」


 すると雅之助はスマホを取り出すとハーレムのグループLIMEにハーレムを解散すること。今後はもう誰とも遊ばないことを送信した。


「おれの本気これでわかった?累には悪いけど俺は結菜ちゃんを諦めることができないんだ。俺は二番目でいいから俺にも愛を分けてくれ」


 結菜は怒りでカットなってしまった。


「私が浮気をする女に見えるんですか!?失礼にも程があります。私は累だけの彼女です。どんな時だって累だけを見て累だけを愛します」


「結菜…」


 嬉しそうな累は少し疑問に思ったようで私に耳打ちしてきた。


「結菜…さっきから怒っているけど、もしかして感情が?」


 言われて息がついた。さっきから感情が溢れてきて止まらない。きっかけは由依への怒りの感情だったが、今は親愛まで一緒にわいて出てきた。


「累…私…累のこと好き。大好き。」


 二人のやり取りの意味がわからない様子の由依はそれでも諦めずに私にアプローチをかけてきた。


「軽い女として見てるわけじゃないんだ。その逆だよ。ここまで欲しいと思った子、初めてで…どうか俺のことも見てくれないか」


 熱にうかされたように由依は言い寄ってくる。こちらも初めての恋ということらしく断るのが厄介だった。


「無理です。私は累を愛していますから」


「雅之助、諦めろ。俺と結菜は愛し合ってるからお前の入る隙はない」


 累はキッパリというと私にコーヒーを渡してくれた。


「今日はもう帰ろう。雅之助もまたな」


「そんな!せめて連絡先を…」


 必死に追い縋ってくる由依に累は言った。


「連絡先も交換する必要はない。行こう結菜」


 呆然と立ち尽くす由依を置いて私と累は車に向かって歩き始めた。


「ねえ結菜。今手を繋いだらドキドキする?」


「うん…わからないから繋いでみよう」


 私は緊張しながらそっと累の手に触れる。それだけで愛おしい気持ちが溢れてくる。

(ああ。そう。この感じ。私が累に抱いていた感情だ…)

 思い出した。相手を思う感情がどんなに素晴らしいものか。きっかけは良くなかったが由依には少し感謝しないといけないだろう。怒りで他の感情まで呼び覚まさせてくれたから。


「でも…累の友達は…その、個性的な人が多いんだね」


「ああ。俺自身が変人だから類友ってやつだよ」


(累って自分が変人って自覚あったんだ)

 失礼ながらも私は驚いた。てっきり普通の人と思って生きているのだと思っていたから。累自身自分が世間からずれていることの自覚があったからストーカーをした時も割とすんなり認めて反省してくれたのかもしれない。


 車に乗り込むと累はシートベルトを閉める前にそっと口付けをしてくれた。私が恋心を思い出すまで待ってくれていたようで、私は嬉しさと恥ずかしさで赤面した。


「結菜可愛い。キスだけで赤くなって…」


 累の細い長い指が私の赤くなったほおを撫でる。今まで外にいたせいでその指はひんやりと冷たく背筋がゾクゾクした。


「累…大好き。愛してる。私のこと諦めないでくれてありがとう」


 ポロポロと涙が溢れる。累はそんな私を優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。


「おかえり結菜。ずっと待っていたよ。愛してる…。結菜だけを愛してる」


 暖かな累の体温と柑橘系の匂いで落ち着く。涙が止まった頃そっと身を離すとスースーと寒く寂しかった。


「じゃあ行こうか」


 累と私はシートベルトを閉めて車を発車させた。帰り道は渋滞していて、私は累が集中して運転しているのをラジオを聴きながら眺めていた。


「そんなに見られたら恥ずかしいな」


「あ…ごめんなさい。愛しさを噛み締めてたの」


 今までなんで忘れていたのだろう。心の奥底から愛情が溢れ出てきて止まらない。触れたいけど今は運転中なので我慢する。


「ラジオ…好きなの?」


 累が尋ねると私は首を振った。


「ううん。ただ、渋滞情報が聞けるかなって思って。ごめんね。私が免許を持ってたら変わってあげられたのに」


「いいんだよ。運転好きだから。結菜を無事家に届けることも楽しいし。本当は家に連れて帰りたいけど、同居はもう少し先送りにしたほうがいいと思うから」


「そうだね。まだいつ元に戻っちゃうかわからないから。しばらく様子見が良さそうだよね」


 二人の間に沈黙が降りる。それは嫌な沈黙ではなかった。


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