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第98話 迷子

 累と2人でモール内を散策すると、好きな食器メーカーのお店を見つけてそこに入ることにした。花柄やドット。可愛いモチーフの食器に心が踊る。食器の他にも雑貨が売っていて、その中で可愛いペンケースを見つけたのでそれを購入することにした。


「結菜はそれにしたの?食器は買わないでいい?」


「うん。買いすぎるとどんどん増えちゃうから。それにペンケースが古くなってて新しいものが欲しかったから丁度よかったんだ」


 会社用のペンケースはだいぶボロボロになっていたので、本当に丁度良かったのだ。

 お会計を済ませると累が反対側にあったスポーツメーカーの店が気になると言うので一緒に入る。もう配信はしないと言っていたが、身体は相変わらず鍛えているようで、トレーニングウエアを何着が購入していた。


「累はもう配信はしないの?」


「ああ。それがね。引退するかも〜って噂が流れてから、かなりの数のコメントが来て。配信日数を減らして継続することになったんだ」


「本当?良かった。累は配信楽しんでいたみたいだったから。私のせいでダメになっちゃっていたのがずっと引っかかっていたの」


 そう。あの炎上から累は配信からずっと遠ざかっていたのだが、久々に配信を再開するとかなりのファンが待ってくれていたらしい。きちんと謝って活動を再開してから、生活にハリが出たと累は言っているので、やはりやめるべきではなかったのだろう。私はとてもホッとした。


「良かった。累もちゃんと前に進めているみたいで、安心したよ」


「うん。いつまでも後ろ向きではいられないからね。あまりウジウジしていたら結菜に呆れられてしまうし」


 累とそんな話をしながらモール内を歩いていると目の前を女の子がぶつかってきて転んでしまった。


「あ!大丈夫?怪我はない?」


「うん…お姉ちゃんごめんなさい」


「お母さんは…?」


「いなくなっちゃった」


「そっか。じゃあお姉さんと一緒にお母さんを探してくれるところに行こうか」


 そう言って累に振り返る。


「迷子センターってここからだとどう行けばいいかな?」


「この道を戻って右に曲がったところにあるね。急ごう。もしかしたら親がもう先についてるかもしれない」


「うん。じゃあいこっか」


 そう言って歩き出そうとした時、その子は自然に手を繋いできた。あまり小さい子に触れ合うことがないのだが、その小さくて頼りない手が可愛くて私は頼りにされていることがとても嬉しかった。

 迷子センターに着くと、案の定親が待っていて、女の子は泣きながらお母さんに抱っこされていた。


「あの。連れてきていただいてありがとうございました」


「いえいえ。ちゃんと迷子だって言えて賢いお子さんですね」


「そんな…私がちょっと目を離した隙にいなくなって生きた心地がしなかったので。本当にありがとうございました」


「いえいえ。じゃあもう逸れちゃだめだよ?バイバイ」


「ありがとう。お姉ちゃん。バイバイ」


 その子は小さな手を振って私たちとは反対方向へ歩いて行った。


「結菜すごいね。俺一人だったらきっとどうしたらいいか分からずに困っていたと思う」


「私もこんなことは初めてだよ。あの子。お母さんに会うまで泣かないで偉かったよね」


「そうだね。強い子だった」


 累は去っていく後ろ姿を見ながら何か思っているのか目を伏せた。おそらく不和だったお母さんのことを思い出しているのだろう。私はたまらなくなって累の手を握った。


「今の私では…あまり役に立てないと思うけど。でも…それでも…累の味方だから」


 そう言って累を見上げると、彼は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう…いつか…親になる時が来たら、その隣にいるのが結菜であったらいいなと思ってる。婚約は解消したけど、結菜のことが好きなことは変わらないから。だからお願い。俺から離れないで」


 累はそう言って私の手を強く握った。


「うん…私もまた累に恋できるように頑張る」


 私もぎゅっと手を握り返す。


 そのまま2人で来た道をまた戻り始めた。途中で玩具屋さんがあったのだが、小さい子供達が楽しそうに遊んでいる姿を見て私は微笑ましくてじっと見つめてしまった。


「結菜は子供が欲しい?」


「うん。やっぱり、家族が欲しいなって思うよ。累は?」


「俺は…正直どうなのか分からない。ちゃんと愛せるのかなって思うと不安ではあるね」


(やっぱり子供に関しては後ろ向きなのね。まあ。仕方ないことだけど。子供が欲しい私と怖がってる累では結婚しても不和になりそう)


 だったら今の関係を続けるのがいいのではと思ってしまう、一度婚約を解消したのはいいことだったのかもしれない。子供の問題は避けて通れない重要な問題。これを解消しないことには結婚して一緒に暮らしていけない。

(いつか累も子供に対して前向きになってくれたらいいな)

 そう思いながら手を繋いで歩く。

累を見上げると何か考えているような顔をしていたので、累も子供に関することを考えてくれていたらいいなと思った。


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