それから再度精密検査をして日常生活に支障がない程度に回復した私は、累と一緒に新居へとかえることになった。両親も私たちのことが心配だが、ハワイの家を長く開けることができないらしく、名残惜しそうにハワイに帰って行った。
「荷物、持ってくれてありがとう」
「いいんだよ。結菜は怪我人なんだから」
そう。退院したからと言ってすぐに日常に戻れるわけではない。自宅療養を2週間してようやく会社にも復帰できることになっていた。
「あのね。リハビリも兼ねて、しばらくは私が家事をしたいんだけどいいかな?」
「でも病み上がりだし、簡単な掃除とかから始めてみようか。料理は俺が全部作るから。お風呂掃除も…まだ体に負担がかかりそうだな。トイレ掃除なら大丈夫かな」
累はあれこれ考えている様子だったが考えがまとまったらしく私にその内容を教えてくれた。
「料理と洗濯と風呂掃除は俺が担当。部屋の掃除とトイレ掃除は結菜の担当。それでどうかな?」
「それだと累に負担が掛かっちゃうよ」
「う〜ん。じゃあ洗濯は干して取り込むところまでやって、畳んで片付けるのを結菜にしてもらうのでどうかな?」
「うん!ありがとう。じゃあ。これから改めてよろしくお願いします!」
私は累に手を差し出すと彼は嬉しそうに微笑むとその手をとって口元に寄せるとキスをした。
「えっ!!累さん!!」
赤面すると累は嬉しそうに微笑む。
「ちょっとはドキッとしてくれたかな?これからは結菜に好きになってもらうために卑怯なことでもなんでもどんどんやっていくからね」
笑顔でちょっと怖いことを言う累に呆れていたが、私は累に言われてソファに座った。その隣に腰掛ける累はいつの間にか持ってきたのかポテチの袋を持っていた。
「とりあえず今日はさ、映画でも見ようよ。結菜が身違ってた新作が配信サービスで配信が始まったんだよ」
「え!本当に?みたい!」
累はリモコンを操作して映画のスタートボタンを押した。すると即座に映画が始まり、2人でそれに見入った。これはゾンビが世界に蔓延して残り少ない人間たちが必死にピンチを切り抜けていく映画。怖いのだが主人公たちがいつでも希望と捨てず、ピンチを切り抜けていくのが痛快でシリーズ全作見ているくらいお気に入りの映画なのだ。
「う〜ん。何度見てもリアルに作られてて怖いね、結菜は平気なの?」
「うん。日本のお化けは現実味があって怖いけど、ゾンビは何故か平気なの」
「その理論よくわからない」
苦笑いしてエンドロールを見終わると伸びをした。久しぶりに活動したせいか眠気に襲われてウトウトしてしまう。
「ああ!結菜こんなところで寝ちゃダメだよ。お風呂用意するからちょっとだけまって」
「うん…」
返事はしたもののやはり眠い。うつらうつらしている時に累が肩を優しくゆすって起こしてくれた。
「お待たせ。お湯にはまだ疲れないだろうから、足湯ができるだけ貯めてあるからね」
累からは甘く清潔感のある香りが漂ってきた。おそらく入浴剤も入れてくれたのだろう。累の家のお風呂は始めてなので軽く説明をしてもらった。
「ここがタオル。こっちが備蓄品。シャンプーとかは結菜が使っているものを置いてあるからね」
「ありがとう。じゃあお風呂いただきます」
私は累が脱衣所で服を脱ぐとシャワーを浴びた。傷跡にまだしみるけど、ようやくお風呂に自由に入れるようになって嬉しい。
「う〜ん。やっぱり気持ちいいなあ」
(病院ではなかなかシャワーできなかったから毎日浴びれるのが嬉しい)
私は久々のシャワーを楽しみお風呂から上がると累がいれてくれた冷たい麦茶を飲み干した。
「なんだか累が奥さんみたい、私が欲しいもの全部わかってる」
「好きだからだよ。結菜の好みはなるべく把握しようとして今では結菜以上に好きなものを知っていると思う」
その言葉に私は軽く引く。それを感じたようで累はしょげてしまった。
「やっぱり気持ち悪いかな。ごめんね」
「そんなことないよ!私のこと好きでいてくれるんだなって伝わってきて」
必死に言い訳するが累の落ち込みは止まらなかった。
「うん、ストーカー気質だから。お風呂も実は脱衣所の前で待ってた。結菜の入ってるシャワーの音聞いて、今結菜がシャワー浴びてるんだ、お湯が止まったから身体を洗ってるのかなって想像しながら」
私は絶句する。あまりに重たい愛で私は押しつぶされそうになる。でもそれもわかった上で好きになると決めたのだから。今後はやめてほしいと言うことを伝えてその場はおさめた。
(これは…なかなか大変なことになってしまった、私本当にまた累に恋できるのかな)
不安になりながらもベッドに潜り込み目を閉じた。なかなか寝付けずにいると累がお風呂から上がってベッドに来ると、まだ眠っていない私をみて微笑む。
「慣れてないから眠れないよね。こっちにおいで」
布団を少しめくって私を腕枕してから布団を肩までかけてくれた。
「重くない?」
「全然。でも嬉しいな。こうして結菜と一緒の布団で眠れるなんて」
累は心底嬉しそうに私に微笑んだ。