今日から我が家になる家に着くとすでに荷物は運び込まれ荷解きをしているところだった。
「結菜おかえり。今荷物は入れてもらったけどレイアウトは結菜に指定してもらおうと思って、業者さんお願いできますか?」
「はい。ベッドはどこに置きましょうか?」
「あ、それはこっちの隅に。チェストはここにお願いします」
私は手持ちで持ってきたスーツケース(下着が入っている)を部屋の隅に置くと荷解きされた荷物をウォークインクローゼットにしまい始めた。
「お荷物はこれで全てですね。ではこちらに完了のサインをいただけますか?」
「ありがとうございます。ではこれで…」
サラサラとサインをしてお礼を言うと業者さんは笑顔で梱包材などを抱えて帰って行った。
「結菜、ちょっと休憩しようか。コーヒー入れるし、引越し祝いにケーキを買ってあるから一緒に食べよう」
「わあ!嬉しい!じゃあこれだけしまっちゃうね」
そう言って私はベッドに並べられた服をクローゼットやチェストにしまってからリビングに向かう。本当は下着も片付けようかと思ったが累の前でするのは恥ずかしくて後回しにした。
リビングに着くと累はソファに私を座らせてからコーヒーを淹れに行ってしまう。手持ち無沙汰になってリビングテーブルに置かれたいた建築関連の雑誌を手に取ってパラパラとめくる。どれも素晴らしいデザインだが、そこに累のデザインした家も載っていた。温かみのある木造建築で、デザインが損なわれないギリギリのラインで生活がしやすいように設計されていた。
(いいなあ。いつかこういう家に住んでみたい)
「そのデザイン気に入った?俺もお気に入りなんだ」
お盆にコーヒーとケーキを乗せて運んできた累が雑誌を覗き込む。私はコクリと頷くと塁に質問した。
「累はデザイン重視じゃないんだね、この家もそうだけど、生活しやすそうで住み心地が良さそうな家。どうやって発想しているの?」
累はしばらく考えた後、違うページのデザインを見せてくれる。
「これもそうだけど、やっぱり依頼主の理想を現実に変えるために、その人の普段の生活を聞いて、重要視しているのはどこなのかを探るところから始めるんだよ。そうすると自然とイメージが湧くんだ。あとはそれを依頼主に見せて直したいところ。加えたいところとかを組み合わせて…そうやって出来上がるかな」
もう一度雑誌に視線を落とす。すごくいいデザインで私はため息を漏らす。ここで住む人のことを思いながら設計されているからこんなに暖かいデザインなのだと思うと心がポカポカした。
「累の設計した家。素敵だね。どのデザインも大好き」
「ありがとう。結菜にそう言ってもらえると仕事がもっと頑張れるよ」
累はソファに腰掛けると私の額にキスをした。
「それより、今は休憩しよう。ケーキはラズベリーが好きだったよね?ここのラズベリーのケーキが美味しいって評判だったから買ってきたんだ」
「わあ!綺麗だし美味しそう。累ありがとう」
累は私の前にラズベリーのケーキを置いて自分の前にはチーズケーキを置いてそれぞれ食べ始めた。ラズベリーのソースが甘酸っぱくて美味しい。累もチーズケーキが美味しかったみたいでニコニコしながら食べている。
(なんか、ちょっとしたことだけど幸せだな。こうやって一緒に美味しいもの食べて一緒に寝て。起きたらおはようと言えるのが…幸せ)
悩んだ結果ここまで来られたのが嬉しかった。これら先も悩みを抱えることもあるだろう。衝突やすれ違いも起こるだろう。それでも累となら乗り越えていけると確信があった。
(いずれはお父さんとお母さんみたいにずっと仲良しな夫婦になりたい)
左手の薬指を指でなぞる。ここにはもうすぐ累から贈られる婚約指輪がはめられる。それが楽しみで仕方なかった。
(初めてのお揃いが婚約指輪…ちょっと急展開だけど嬉しい。これで離れていても繋がってる感じがして…勇気がもてる)
「また考え事?」
累のほっぺをつつく。私はそれが可愛くてつい笑ってしまう。
「ふふ。累と私の今後について考えてたの」
「え…それって良い方に?悪い方に?」
「もちろん言良い方にだよ。いつかお父さんとお母さんみたいな関係になれたらいいな〜って」
「そうだね。そうなりたい」
累は少しせつなそうな表情で微笑んでコーヒーを飲んだ。