そうして過ごした2泊3日は楽しくて帰る時に私は涙が止まらなくなった。
「お母さん。お父さん。また必ず来るから。ちくわにもよろしく言っておいて」
ハンカチを差し出しながらお母さんは私の頭を優しく撫でる。
「もう。仕方のない子ね。お母さんまで泣いちゃいそう。これが一生の別れじゃないんだから。また必ず会えるのよ?だから元気出して」
私は頷きながら涙を必死に押し留める。それからお母さんに抱きついてぎゅっと抱きしめた。
累はそれを優しい眼差しで身モア持ってくれていた。
「結菜…俺が頑張って結菜の孤独を癒すから。もう泣かないで」
「累…」
そう。私はもう一人じゃない。累という頼もしい婚約者がいる。だからきっと大丈夫。もう泣くのはやめようと思って無理に笑顔を作ってお母さんとお父さんの方をむく。その笑顔がうまくいかなかったのか今度はお母さんが涙ぐむ。
「寂しい思いをさせていたのね、お父さんとお母さんのわがままで一人にしてしまったから。ねえ。結菜。どうか累さんと幸せになってね」
「必ず結菜さんを幸せにします。だからお任せください」
累は私を抱きしめ宣言すると手を強く握り締めた。私もそれに返して手を強く握る。もう離れることがないように。
ちょうどその時チェックインのアナウンスが流れた。
「じゃあいくね。次は日本にも遊びに来てね」
「もちろんだよ。困ったことがあったらすぐに連絡をよこしなさい。少し時間はかかるかけど駆けつけるから」
お父さんは私の頭を撫でる。昔に比べて小さく感じるその手の温かさは変わらなかった。
飛行機に乗り込むとようやく涙が止まって私は累のかたに頭をコテンと預ける。今は人の温もりが欲しかった。そんなセンチメンタルな心を理解してくれていたのか累は私の手に手を重ねて包み込む。その暖かさに心が癒された。
「無事に挨拶ができてよかったね。ただ。もう少し痛かったな。次は長期で休みをもらって一緒にお父さんとお母さんのところに遊びに行こう」
累はうちの両親のことが気に入ってくれたのもあるけど、私がもっといたかった気持ちを汲んでくれてそう提案してくれたのだろう。その気遣いが嬉しかった。
「ありがとう。でも累がいてくれるから。私は大丈夫だよ」
「そっか。じゃあ時間もあるし、今後のこと話し合わない?引越しの日程とか」
そういうとカバンから引越し業者のパンプレットを取り出して私に渡してくれた。
「問い合わせしたら、今は転勤とか新生活の季節じゃないから基本的には空いてるって。結菜は今住んでる家は残すんだよね?だったら単身パックで少し高いけど安心感もあるのはここじゃないかなって思ってるんだけど、どうかな?」
読み込んでくれたらしくパンフレットにはたくさんの付箋が貼られていた。その中の1社。動物印の単身パックのパンプレットを手渡される。荷物は少ないし、正直あまりこだわりがないので調べてもらっているのはありがたい。パラパラめくると梱包から搬入、荷解きまでしてくれるというサービスに惹かれてここがいいきがした。
「うん。手間が省けるし、引越しの後の段ボールも回収してくれるからここがいいな。いつ頃引っ越そう…」
「来月の連休はどうかな?3連休だから空いてるかわからないけど、日本に着いたら問い合わせしてみよう」
話しているうちにワクワクしてきた。ついに私は累との生活が始まる。そのために今考えることは、家事の分担と生活費の分担だろう。
「累。現実的な話になるけど生活費の分担と家事の分担を決めたいなって思うの。だ
「もちろん大丈夫だよ。まず生活費だけどこれは俺が100パーセント負担する。結菜には共同口座を作るから毎月そこに一定額を入れてもらって将来のために貯金して欲しいんだ。ちなみに自宅はローンも終っているから家賃もいらないよ」
「そっか…じゃあ今月から私のお給料から出して貯金するね。家事はどうする?」
「そうだなあ。俺は調理は得意で好きだけど実は片付けが苦手で…作るのは俺で片付けるのは結菜にお願いしてもいい?掃除と洗濯は交代でしよう」
「ふふ。累にも苦手なものがあったのね」
「はは。親を喜ばせようとしいて昔皿を割って逆効果になったことがあってから、トラウマなんだ」
(ああ。累の心はまだ過去に囚われているのね。私が少しでも癒してあげられたらいいいんだけど)
累の心の傷はかなり根深い。これを癒すには何年かかるだろうか。だがそれもいつかは私が癒してあげられたらいいなと思った。
「あ。私結構残業があるからそういう日はどうしようか?」
「そうだね。残業がある日は俺が代わりにやっておくよ。その代わり週末の家事をお願いできる?」
「了解です。ごめんね。最近少なくなったけどまだ定時に上がれることの方が少なくて。付き合いで会社の関係者との飲み会にも参加しないといけないし」
「…結菜は専業主婦になる気はないんだよね?」