周囲からどよめきが起こる。知らない人達なのに私と累の婚約を喜んでくれていた。それはお父さんとお母さんも一緒で、2人とも瞳を潤ませて拍手してくれていた。
「累ありがとう。今日のこと。一生忘れない」
「俺もだよ。結菜…これで正式に婚約者になれたんだね。一生大切にする。結菜は俺の宝物だよ」
壊れ物を扱うようにそっと私を抱き上げるとお姫様にするように優しいキスをする。突然のことに私は頭の中がぐるぐる回る。また周囲から歓声が上がった。お父さんとお母さんもニコニコしながらその様子を眺めている。
「累!やりすぎよ。恥ずかしい‥」
「恥ずかしがる結菜もかわいいね。もう結婚まで決まったんだ。お父さんとお母さんも喜んでくれているし、問題ないよ」
(もう完全にたがが外れちゃってる…困ったなあ)
累は気分が高揚しているようでまたキスをしようとしたのでそれは手で防いで下ろしてもらう。残念そうにしていたがしつこくされるのを嫌う私の性質を知っているためか、それ以上は求めてこなかった。
「やだわあ。ラブラブじゃない。お母さん嬉しい」
「心中複雑だが、まあ。いい人と出会えて良かったな結菜。累君。私たちは遠い地に居を構えているからすぐに助けに行けないけど何かあったらいつでも頼りなさい」
力強い言葉に私と累は頷く。その後。手を繋いでお父さんとお母さんは邪魔になるからと先に家に帰ってしまい、残された私と累はまだざわめきが残るビーチを散歩することにした。
ブーケを持って程よい気候のビーチを散歩するのはたのしい。煌めく白い砂に素足で散歩するのは心地よかった。
途中のどが渇いたのでカフェに入るとそこはパンケーキが有名なお店らしく、閑散期の今は空いていてすぐに入ることができた。
「パンケーキ美味しそうだから3個た飲んでシェアする?」
累の申し出は嬉しかったけど、この後お母さんの手料理が待っていることを伝えると、逆に1個頼んでシェアしてドリンクを2つ注文することにした。
「お母さんの料理が食べられなくなるのは困る」
そう言って2人で吟味して結局一番シンプルなものを注文することにする。
店員に取り皿2枚とドリンクとパンケーキの注文をすると、パンケーキが有名だから1個で本当に大丈夫?と心配されたが。類がこの後彼女の母の手料理が待っているんですと説明すると、店員はなるほどと納得して注文を受けて厨房に戻って行った。
店員が持ってきたドリンクはとても綺麗で思わず写真におさめる。そしてそれを愛花とななみと花に送信して、累からプロポーズされたことも伝えた。
『え!同棲決まったばっかりだよね?早くない?』
ななみは驚いていたが、他の2人はやっとかという反応だった。
『ようやくだね。これで正式にお姉ちゃんになってくれて嬉しい!ねえねえ式では何かお手伝いさせてね』
花はもう結婚式のことを考えているし、愛花も喜んでくれた。
『ようやく落ち着いたね。いい着地点だと思うよ。愛が重たいのも緩和されたんでしょ?困ったことがあったら私が力になるし。頑張れ!』
私がスマホを見ながらニコニコしているのを見て累は不思議そうに質問してくる。
「何かいいことあった?」
「うん!累にプロポーズされたことを報告したらみんな喜んでくれて嬉しいいなって…あ…でも良平には言えてないや」
「良平君には俺が連絡するよ。安心して」
(良平は私のことを諦めないと言ってくれていたけど、私が婚約したとわかったら、流石にもう私のことは忘れて新しい道を歩んでくれるよね)
大好きなお兄ちゃんの良平が、いつまでも私に縛られることが悲しかったので、どうかこれで気持ちが変わりますようにと祈った。
しばらく待つとふわふわのパンケーキが運ばれてきた。それを2等分して類がお皿に取り分けてくれる。
「わあ!美味しそう!」
「うん。甘いけど美味しい!たまにはこういう舌が痺れそうなくらい甘いものもいいね」
「日本のものとは違うから新鮮だよね。累は家族になるからこれから時々はお母さんとお父さんに会いにこようね」
「家族…か。いい響きだね。結菜と出会った時には想像もしなかったよ。君を俺に縛り付けることばかり考えていた俺が、君のために我慢をすることを覚えて、こうして家族になれるようになるなんて。夢みたいだ」
「ふふ。それは私も同じだよ。最初は怖かったけど、今の累は全然怖くない。それどころか愛おしくてたまらないの」
手を伸ばして累の手を握る。できるだけ愛情が伝わるようにしっかりと。
累もそれに応えるように握り返してくれた。幸せでたまらない。この時間が永遠に続きますようにと祈った。