タクシーが自宅前に着くとそこには類が立っていた。慌ててできたのだろう。ボサボサの髪で前髪で目が隠れて、服も部屋着のままだった。
「結菜…会いたかった…」
「累さん…とりあえず、家に行きましょう」
「わかった…」
4人は揃って私の部屋に向かう。部屋に入ると私は4人分のコーヒーの準備をしてリビングスペースに座っている3人にコーヒーを出した。
「じゃあ今日集まったのは累と結菜ちゃんの仲直りのための会だ。俺と花ちゃんは見守り役だから口出しはしない。2人で腹の底まで出し切って復縁してくれ」
田村がそう言うと累は猫背をグッと正して正座になると深く頭を下げた。
「最初に謝らせて欲しい。結菜は優しい子だから、距離を置きたいなんて、言いたくなかっただろうに、そんなことを言わせたこと、本当に申し訳なく思っている。本当にごめん…」
見ると累は少しやつれていた。
「累さん、夜ちゃんと眠れていましたか?ご飯は?」
心配になって尋ねると累は嬉しそうに言った。
「結菜は優しいね。うん…あまり…結菜のことを考えて過ごしていたし、配信も今はやってなかったから。食欲もなくて、あまり眠れていなかった」
目の下にはうっすらとクマができていた。私はそれを見ると心が傷んだ。
「結菜にずっと会いたかった。声が聞きたかった。今日また会えて嬉しい。英二、ありがとう…お前のおかげで結菜に再開できたから、感謝してる」
いきなり褒められたせいで田村はまた顔を赤くして照れてしまった。
「やめろよ。俺はただちょっとおせっかいしただけだからさ。照れ臭いからお礼とかいらないよ」
そう言って嬉しそうに微笑んだ。花はそんな田村をじっと眺めていた。どうも彼女も今回の件で田村を見直したようで、田村を見る目が毛虫を見る目から人間を見る目に変わっていることに気がついた。
「ねえ累さん。私、あなたのことが好きです。だけど、ストーカーみたいにつけられたりするのは怖いです。私は累と普通の幸せな恋愛がしたいんです」
「うん…。結菜、俺も結菜のことつけ回して追い込んだこと反省してる。自分がされたらすごく怖いことだって、冷静になって考えてわかったよ。本当にごめん」
累は本当に後悔しているようで、目が潤んでいた。私はそれを見て心がギュッと掴まれたようになった。
「どうしてストーカー行為をしようと思ったんですか?私が累さんのことを好きってもっとしっかりつたえていたら何か変わったのでしょうか」
「いいや。俺は結菜のことが好きすぎて、生活の全てを掌握したかった。だからいくら結菜が俺のことを好きと言ってくれていてもきっとストーカー行為はしていたと思う。俺は自分に自信がないから。捨てられるのが怖かったんだ。だから結菜の全てを把握して、結菜が欲しい言葉を返し、結菜の理想を把握したかったんだ」
「それであんなことを…」
累の思いの重さに私は押しつぶされそうになるのをグッと堪える。ここでまた逃げたらせっかく田村がくれた機会を逃してしまう。それだけは避けたかった。
「今度はどうしたいと思って言いますか?私は累さんと普通の恋人になりたいです」
「俺もそれは同じ気持ちだよ。後をつけるより隣を歩いて、盗聴するより会話して結菜の声をききたい」
累が決意を固くして私に寄り添おうとしてくれていることがわかって私は嬉しかった。
「嬉しいです。ちゃんと考えてくださったんですね。私も隣を歩いて累さんの声が聞きたいです」
「ふふ。まとまりそうだな。よかったよかった」
田村は嬉しそうに微笑む。まるで自分のことのように。