電車に揺られながら私は累への気持ちを整理する。
(今でも累のことは好き。でも私への異常な執着は…正直受け止め切れるかわからない。累はどうしたら落ち着いて私と向き合ってくれるようになるんだろう)
車窓から流れる景色を見ながらぼんやりと考えていた。それを見透かすように田村が話しかけてきた。
「結菜ちゃんは累のどこが不満?まずはそこからだよ。直して欲しいことがあったらはっきり言わないと、察してって言うのが一番良くない。エスパーじゃないんだから言わないとわからないよ」
「そうですね…やっぱり私に異常に執着している点でしょうか。他の人や物を排除して私だけがいればいいっていう姿勢が怖いんです」
田村がストレートに言ってくれるため、私もストレートに答えを導き出せた。そう。私は怖かったのだ。それでも好きだから一時は目を瞑ろうと思ったが、出来なかった。
「累は…今までずっと心から累のことを見てくれる人を求めていたから。そんな存在の結菜お姉ちゃんが現れてちょっとハイになっちゃっただけなんだよ。ストーカーまがいのことをしたりしたのも、今までまともに人付き合いをしたことがないからやり方を間違えちゃっただけなんだと思う」
花がそう言うと田村も頷く。
「あいつ…昔から不器用だったからな。恋愛だっていつも押されて流されるだけで、全然気持ちが入ってなかった。俺も言ったことあるんだよ。相手の子が可哀想だから気がないなら最初から付き合うなって」
「累さんはなんて?」
「断るのが怖い。って。累はいつも受け身だった。拒否されてきたから拒否するのが怖かったんだよ。あいつの育ちは大体知ってるからさ、その気持ちはわかるんだけど、俺もどうしてやったらいいのか…正直わからなかった。だから結菜ちゃんに累が執着してるって知って、嬉しかったんだ。初めて自分を曝け出せる相手が出来たこと」
田村は本当に累のことを心配している様子で、私以外に累を心配してくれる人がいることが嬉しかった。
「あ…次の駅で降ります。累はもう家についていますか?」
累と連絡を取り合っていた田村はスマホを確認するとコクリと頷いた。
「近所の公園で待ってるって」
「じゃあ急ぎましょう。本当に、田村さん、ありがとうございます。こんな風に道を正してくれる方に出会えて嬉しいです」
私が田村にお辞儀をすると田村は顔を真っ赤にして照れ始めた。
「いやあ、あはは。いやいや。なんか、感謝されるのって滅多にないから。うざがられるのには慣れているけど褒められるのは慣れてないから。やべえ照れる」
(可愛い人だな。この人も不器用なだけでいい人。花ちゃんもそう。私だって不器用。累の周りには不器用な人が集まっていたから人間関係がこんがらがってしまっているのね)
絡んだチェーンのように複雑に絡み合ってしまったその関係を今日なんとか解いてしまいたかった。
(今日はきっと大丈夫。だって、累のことが好きな花ちゃんと田村さんもいるもの。あとは私が感情的にならないようにすればきっと…うまくいくはず)
心の中に光がさすようだった。今まで暗かった気持ちが明るくなり、私はとにかく早く累に会いたくてたまらなくなった。
(ああ。なんて自分勝手なのだろう。自分から拒絶したくせに。こんなにも恋しいなんて。私こそバカだ。累の手を離して生きていられるわけがないのに。もう累は私の心の中心にいるのに。だから負けない。今度こそ、累とわかり合いたい)
そう決意してタクシーで自宅まで向かった。