帰りの電車の中は少し混雑していたので田村は私と花を守るように立ってくれていた。
「田村さんありがとうございます。さっきのことがあったから守っていただけてるのすごく嬉しいです」
「うんうん。全くああいう男がいるから女の子が街中を安心して歩けないんだよな。同じ男として恥ずかしいよ」
「本当に!だから累以外の男は嫌い!もちろん英二もね」
「ショックー。俺は花ちゃんのこと大好きなのにー。ああ。思いが通じ合えるのはいつになるやら」
田村は見た目全くショックを受けているように見えない様子でそう言ったので、花はイラついた様子でまた田村を罵倒した。
「そいうとこムカつく。ショック受けてないでしょアンタ」
「あはは。バレた?これくらいハート強いの俺くらいだと思うからおすすめだよ?他の男だったらきっと花ちゃんの口撃に耐えられないけど、俺だったら罵倒し放題!おすすめだよー」
「あはは…田村さんってすごいですね」
私はあまりにもハートの強い田村に苦笑いをした。
「そういえば結菜ちゃんはどうやって累と知り合ったの?リアルじゃ繋がりがなさそうだけど」
確かに合コンにも参加しそうにない私と累の出会いは田村にとって不思議なことだったのだろう。
「えっと、最初は私が累さんのこと推してて、それで実際に会うことになってから、実は昔私が累さんを助けていたことがわかって、なんだかこうして話していると夢物語ですよね」
「ふーん。なんだか運命を感じるけど。結菜ちゃんは運命信じてない派?」
「そうですね。私はあまり。でも累との出会いには…確かに運命を感じました」
そう。累との出会いは本当に運命を感じていたのだ。それが累によって作られたものだとしても、それでも累と出会えたことは私の人生での大事件だった。
「今でも累のこと好き?」
田村はストレートに私に問いかける。デリカシーはないが真っ直ぐな人なのだろう。本当にこれで空気さえ読めれば花ちゃんと付き合ってほしい。むしろ結婚して欲しいと思ってしまうのに。勿体無い。
「はい…怒っていますけど、好きなことに変わりはないです」
「だったらさ、距離置くなんて面倒なことせずにもう思いっきり喧嘩してスッキリして再スタートしたら?」
「え…?」
「だって距離おくとか、まどろっこしいよ。いつまで待てばいいの?結菜さんはどうしたら満足なの?そんなのわからないからただお互い不安になって結局破局するだけだって。俺に任せて、今セッティングするから」
田村はそう言いながらスマホをポチポチと操作した。
「これから会おう!それで思いっきり腹の中に溜まってるもの出して仲直りしたらいい」
「そんな…急に困ります」
私は困惑した。つい数日前に距離を置く宣言をしたばかりなのにいきなりまた会うことになるなんて、あまりにも急すぎて戸惑ってしまった。
「結菜ちゃんが困惑する気持ちもわかるけど、距離おくのって全然解決にならないよ。ただ逃げてるだけだからね」
「逃げているだけ…」
ドキリとした。芯をつかれたから。
確かに私は逃げているだけだった。累との関係を終わらせるのが怖くて現実逃避の手段で距離を置口ことにしたのだ。
「うん。はっきりしか言えないタチだから言わせてもらうと、距離を置くって方法は正直卑怯だよ。相手を縛って自分は逃げて耳を塞いで。俺、そういうの好きじゃない」
田村が言うことは全て正しかった。花も同意見だったのだろう。珍しく田村に反論せずに大人しくことの成り行きを見守っていた。
「私も、ちょっとだけ英二に同意。距離をおくより話し合いが必要だと思う。2人共言葉が足りてないんだよ。お互いがお互いに期待しすぎてるんじゃないかな?」
花は気遣わしげに私の手を握りながら言った。
「そっか。そうだよね。必要なのは話し合うこと…向き合うこと。私、無意識に逃げてた。ありがとう。田村さん、花ちゃん。はっきり言ってくれたから自覚できたよ」
「わかってくれてよかった。今累呼び出してるから、途中で合流しよう」
「あ…じゃあ私の家にきていただけませんか?私と累さん2人きりになったらきっと冷静に話し合いなんてできないでしょうから。
2人に側にいてもらえたら助かります」
そう言うと田村も花も頷いてくれた。