「ねえ、許してやってくれないかな?累はさ…俺が言うのもアレだけどちょっとずれてるけど根はいい奴なんだよ。そこは長年付き合ってきた俺が保証する」
田村は累のことを本気で心配しているようだった。そんなにも思ってくれる友人がいがいたことに私は心のどこかで安堵する。
(よかった。私以外に累のことを支えてくれる人がいるのなら、大丈夫ね)
距離を置くと言ったとき、累が本当に一人になってしまうのではないかと心配していたが、杞憂だったようだ。
「いえ。ここで完全に許してしまっては距離を置いた意味がなくなってしまうので。私も累さんに会いたい気持ちはあるのですが、今はまだその時ではないと思うのです」
それを聞いた田村はうーんと唸ると困ったように笑った。
「そっか。じゃあ俺が結菜ちゃんの代わりに累と酒でも飲みにいくよ。だから安心して。累を一人にはしないから」
「田村さん…ありがとうございます」
それを横で聞いていた花が田村に向かって言った。
「へえ、あんた結構いい奴なんだね」
「お!いよいよ俺に惚れてくれた?」
「それはない」
バッサリと切り捨てられたのに田村は嬉しそうだった。
「出会ってから初めて褒めてもらえて嬉しいよ。これからこういうことをどんどん増やしていっていつかは花ちゃんと結婚したいなあ」
驚いた。まさか結婚まで考えているなんて。田村の思考の飛び方に驚愕する。
「バカじゃないの?するわけないでしょ。そもそも私アンタのこと嫌いだし」
「知ってる。でもいつかは振り向かせるよ。俺は粘り強い男だから」
「しつこいの間違いでしょ」
花ちゃんはため息をついて私の手をとると駅に向かって歩き出した。
「今日はもう帰ろう。結菜お姉ちゃんも家で休みたいでしょ?」
「花ちゃんありがとう。せっかく誘ってくれていたのにごめんね。この埋め合わせは今度させてもらうから」
「本当!?じゃあ今度は結菜お姉ちゃんの家に遊びに行っていい?」
「もちろんいいよ。ご飯作ってあげるね」
わだかまりが完全に解消されたら花はただ可愛い妹のような存在だった。その様子を田村が嬉しそうに眺めている。きっと花にも仲の良い人ができたことが嬉しかったのだろう。
(困った言動さえなければ田村さん推せるのになあ…。あの性格だからなかなか…)
田村は良い人だけど空気が読めなさすぎてきっと付き合ってもすぐに破局しちゃうことがわかりきっていたので協力するのは憚られた。
「英二、あんた護衛ね。結菜お姉ちゃんを家まで護衛して」
「花ちゃん!田村さんも用事があるだろうからそれは申し訳ないよ」
私が慌てて断ろうすると、田村はそれを手で制した。
「いや、あんなことがあった後だから一人で帰るの怖いでしょ?気にしないで」
(すごく優しい人なんだな。ああ。本当にこれで空気の読める人だったら最高なのに)
ものすごく失礼なことを考えている自覚はあるがそう思わずにいられえなかった。
「でも花ちゃんは?」
「私は累にお願いするから平気」
「そっか…なら大丈夫だね…」
(いいなあ。花ちゃん…累に普通に会えて。私も会いたいけど、今私が許したらきっと累のためにならない)
累に会いたい気持ちをグッと抑えて私は田村と花と3人で駅に向かった。