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第46話 ハートの強い人

(田村さんは花ちゃんのことを好きなのかしら?)

 田村が花に向ける視線は慈愛に満ちており、罵倒も軽くスルーするスキルを持っているため、お似合いだと思うが、花の方は田村を毛嫌いしているようで田村の思いは成就しなさそうで気の毒だった。


「花ちゃん。あまりトゲトゲ言葉を使ったら田村さんがかわいそうよ」


「うっ…結菜お姉ちゃんがそう言うなら…我慢する」


(我慢って…)

 我慢しないと毒を吐かないようにできないくらい嫌われているらしく。過去一体何があったのか気になったがそこに踏み込むのはよくない気がしてとりあえず場を盛り上げるために田村に話しかけた。


「田村さんは累さんのテコンドー仲間なんですね。2人ともお強いんですか?」


「ああ。俺も結構強い方だけど累には全然かなわない。一回も勝てたことがないんだよ。それなのに普段はナヨナヨしてて舐められたりとかね。まあ。カツアゲしてこようとした奴ら返り討ちにしてた時はさすがって思ったよ」


「カツアゲ!?あ、じゃあもしかして中学生か高校生からの付き合いなんですか?」


「うん。中学からずっと一緒。あいつん家色々大変だったから昔はよく家に泊めたりしてたけど、家を出てからのびのび生活できててよかったよ」


 田村は懐かしそうに目を細め、子供の頃の2人を思い浮かべているようだった。

 花はそれを面白くなさそうに聞いていたが、ポツリとつぶやく。


「累は家にいたら息が詰まるからってよく外泊してたんだ。お母さんが累に興味がなくて、お父さんの娘ということで私ばかり可愛がるから、それが辛かったんだと思う。その時支えになってくれてたことだけは…コイツに感謝してるんだ」


 花はそういうと昔を懐かしむように目を閉じた。


「寂しかったこともあったかもしれないけど、累は私にすごく優しくて、私が困っていることがあったらすぐに手を貸してくれて、私の元彼と揉めた時も守ってくれて…本当にいいお兄ちゃんなの。大好き」


 花はポツリポツリと累への思いを打ち明けてくれた。どれだけ累を思っていたのか、その切実な口調から感じられて、花には累しか理解者がいないから執着して私にもひどい仕打ちをしたのだと理解できたから、ようやく花への恐怖心が払拭された。


「累はいいお兄ちゃんだったんだね」


「うん。だからお兄ちゃん以上の感情を持っちゃったんだけど、全然相手にされなくて、だから周りに当たり散らして…反省してる」


「あの花ちゃんが反省!?結菜ちゃんってやっぱりすごいね」


 いい感じに話していたのに田村が変な茶々を入れたので、花がイラつくのを感じた。

(ああ…嫌われるのがなんとなくわかる。この人…空気読めない人なんだ)

 私はちょっと引いた。

 静まり返る2人に田村はしまったという顔をする。


「あはは〜…。ごめんまたやっちゃった。俺つい空気読めない言動しちゃうからうざがられるんだよね。だからそういうの気にしない累が俺の唯一の親友なんだ。他は表面上の付き合いっていうか。知り合い?程度にしか仲良くなれなくてさ。だから花ちゃんにも嫌われてるんだよね」


「わかってるならなおせよ」


 花がイラついて言うと田村は困ったように“性分だから”と悲しそうに笑った。

(累の周りには色々抱えてる人が多いんだな。でも累自身も色々抱えてるから同じオーラ持った人が集まってくるのか)

 いわゆる類共なのだろう。何か抱えているもの同士引き合ってしまうのかもしれない。


「でもなんで今日は累一緒じゃないの?」


「累さんとは色々あって…今は距離を置いているんです」


「ああ。もしかして放置されて嫌気がさしちゃった?」


 今までの彼女がそうだったように私も同様の扱いを受けていると思ったのだろう。だがその逆ですとは言いずらかった。


「違うよ。累が執着しすぎて結菜お姉ちゃんを困らせたの。だから距離を置いているってわけ」


 言いにくかったことを花が代わりに言ってくれてほっとした。


「あの累が執着!?あの淡白な累が!?」


 田村は大袈裟に驚くと私を繁々と見つめてきた。


「あの…あまり見つめられるのは好きじゃないです」


 たまりかねて言うと田村はまたしまったという顔をした。


「ごめんね。あまりに以外で…そうか。あの累にも本気になれる彼女ができたのか…」


「今は距離置いてるけどね」


 花が田村を制する。



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