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第45話 怪我

「英二じゃん。遅いよ!結菜お姉ちゃん大丈夫?」


たらりと鼻から何か垂れている感じがすると手が血まみれだった。


「鼻血出てる!ティッシュ!」


 花は慌ててテイッシュを出すと私の鼻を押さえてくれた。

 私は花からティッシュを受け取ると駆け寄ってくれた男の人に挨拶した。


「どうも、泉川結菜です。花ちゃんの友達です」


「田村英二です累は知ってるかな?あいつのテコンドー仲間。花ちゃんのことも知ってるよ。でもびっくりだよ。花ちゃんに付き合えるなんて君なかなか胆力があるんだね」


 田村はどうやら花の素の姿を知っているらしい。彼は爽やかな切長な目、短髪で髪色をオレンジ色に染めていた。女の子にモテそうな様相をしているが花は彼に対しても辛辣だった。


「英二が来るのが遅いから結菜お姉ちゃん鼻血出ちゃったじゃん!洋服も汚れちゃったしどうしてくれんの!?」


 花はまるでこの事態を田村が悪いと言う勢いで罵った。


「花ちゃん、これは田村さんには関係ないよ?ダメだよ。八つ当たりしたら」


 私が嗜めると花はシュンとして黙りこくった。すると誰かが通報してくれたのか警察官が走り寄ってきた。


「君が殴られた子?鼻血出てるね、救急車呼ぼうか?」


「いえ。ただの鼻血なので」


「そうか。災難だったね。屯所が近くにあるから休む場所も提供できるけど、どうする?」


「いえ。ここで大丈夫です」


 それから警察官は犯人の様相を聞き込みしていたが犯人はおそらく捕まらないだろうことも告げられた。


「気の毒だけどできることはないんだ。この後自分で帰れる?」


「はい。お気遣いありがとうございます」


 それを聞いて警察官達はようやく引き上げていった、気づくと周りに人がきができていてので私と花と田村は場所を変えるために人がきをぬって出てしばらく歩いた場所にあったベンチに座った。その頃には私も鼻血が止まっていたので改めて田村に向き直った。


「あの、声をかけてくださってありがとうございました。あの人たちがまた戻ってきたら怖いなって思っていたので、すごく心強かったです」


 すると田村は目が飛び出すかと言うほど目を見開いて驚いていた。


「花ちゃんの友達なのにまともな人だ」


「ちょっとそれどう言う意味よ!」


 花が臨戦体制に入ったので私は慌てて止める。


「もう喧嘩はダメよ花ちゃん。トゲトゲ言葉って人を傷づけちゃうんだから。ね?」


「はあい。結菜お姉ちゃんが言うなら聞く」


 それをみて田村はほおと驚いた顔をした。


「君って猛獣を手懐けるオーラでも持ってるの?」


 花はさっき私に怒られたばかりなのでギリギリと怒りを噛み締めながら田村を睨んでいた。


「あはは。そんなことは…花ちゃんとは最近和解したばかりなんです」


「あはは。それまでは累関係でひっどい扱い受けたんでしょ?」


 ドンピシャだった。おそらく今までも似たようなことが何度もあったのであろうことが窺い知れる。花の気性の荒さは気に入ったごく一部の人間以外にはいかんなく発揮されていたのだろう。


「俺はそんな花ちゃんのエキセントリックなとこ好きだけど、花ちゃんは累しか興味ないから脈なしなのが悲しー」


 田村はサラッと流れるように花に告白したが、花はそんな田村がどうも嫌いらしく忌々しげに言った。


「うるさい。いつも心にもないこと言って。人の恋路をいつも邪魔する害虫が!」


(花ちゃんのキレっぷりがすごい…こんなこと言われたら私だったら泣いちゃうかも)


だけど田村は明るい笑顔でそんな花をぽんぽんと撫でると快活に微笑んだ。


「花ちゃんの罵倒はもう慣れたからなあ。どんとこいだよ」


「ちっ。この変態M男。変態がうつるから近寄るな」


 あまりにひどい言いようにハラハラしたが、田村はかなりハートが強いようで全くダメージを受けていなかった。

(私も田村さんみたいな鋼のハートが欲しい)


「ところで累は?花ちゃんがいるってことは類もいるんだよね?」


「いえ、今日は私と花ちゃん2人で遊びにきていたんです」


「マジで!?あの花ちゃんが累抜きでお出かけ!?」


 田村はかなり驚いたようで私のことを凝視した。すると花が田村の視界を遮る。


「結菜お姉ちゃんをジロジロ見るな変態」


「ああ!ごめんね。ちょっと驚いて、それよりお姉ちゃんて?」


「ああ、花ちゃんが私のこと慕ってくれて、お姉さんみたいに思ってくれてるらしいんです」


「ふーん。姉ねえ…」


 田村は何か思うところがあるらしく訝しげな顔で花を見ていた。


「余計なこと言うなよ!結菜お姉ちゃんは純粋なんだから!」


「OK。じゃあお姉ちゃんってことにしとくね」


 何か含みがある言い方だけど花と田村の間には何か秘密があるみたいだった。


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