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第44話 約束

約束の日、土曜の空は晴天だった。

私はおしゃれな花ちゃんにあわせて精一杯のオシャレをして約束の駅に向かった。


「結菜こっち!」


「キョロキョロ探していると後ろから声が聞こえてきた」


「花ちゃん!今日は誘ってくれてありがとう」


 私がそう言うと花はふんと横を向いてしまった。


「別に!カフェに行きたかったからだし。塁が謹慎中で一緒に行けないからその代わりだし」


 そう言って私の手を取って歩き始めた。


「花ちゃん?」


「人が多いから逸れないようによ。結菜は鈍臭そうだから」


(優しいな、初めて会った時は恐ろしい女の子だと思ったけど、いわゆるツンデレなのかしら)

 私は花のキャラがイマイチ掴めなくて困惑しながら手を引かれて目的のお店まで歩いて行った。

 目的地は淡いブルーの塗装の可愛いカフェだった。


「ここ、パンケーキ美味しい店だから頼んだ方がいいよ」


「本当?私パンケーキ大好きだから楽しみ!」


「そっか…じゃあ私が違う味を頼んであげるからシェアしてあげてもいいよ」


「あはは…ありがとう」


(花ちゃん本当に変わったなあ。冷たい言い方だけどなんだか温かい)


 2人はテラス席に案内され、それぞれ気になるパンケーキと取り皿を注文した。

私はアイスティー、花はりんごジュースを飲みながらパンケーキを待ってると花がツンツンした口調で言ってきた。


「今、結菜と塁ってどうなってんの?1ヶ月の謹慎でしょ?会えないの?」


「あはは。実は累が約束破って会いにきちゃって…今距離をとってるところなの」


それを聞いた花は嬉しそうに言った。


「じゃあ邪魔者いないし口説き放題じゃん」


「うう。邪魔者…」


花の言葉はストレートで弱っている私の心にダメージを与えてきた。


「ねえ、じゃあ結菜は今フリーだよね?あの良平ってやつがいるけど…」


「良平は私と累が距離を置いている間は手を出さないって累と約束してるの」


それを聞いた花は急に機嫌が良くなって前のめりになって聞いてきた。


「ねえ、じゃあこれから口説きたいって人が現れたらどうする?」


 正直今は恋愛したい気分ではない。累をどうしたらいいのか、そのことで頭がいっぱいだったから。


「う〜ん。今は正直気持ちに余裕がないから無理かなあ」


 すると花はがっかりした顔になる。


「そっかあ。余裕なしかあ」


 花が累に対して邪魔者が消えたことを喜ぶのはわかるが、私に新たな恋愛する気力があるか気にするのが不思議だった。それこそ花にとってどうでもいいことのはずなのに。


「ねえ、だったらさ、恋愛じゃなくてお姉ちゃんだったどう?私のお姉ちゃんにしてあげてもいいよ」


「へ?」


 花の提案に私は絶句する。まさかお姉ちゃんに指名されるとは思っていなかったのだ。

 第一印象がアレなので何か罠があるかもと不審がっていると、花は慌てて言った。


「あ!純粋に!お姉ちゃんほしいなって思ったからだから。意地悪するつもりないから」


 その様子を見ていると本当に彼女はただお姉ちゃんに憧れていて、そういう対象に私を選んだのだと伝わってきた。


「うん。いいよ。じゃあ私は花ちゃんのお姉さんね」


「嬉しい!結菜お姉ちゃん!ねえねえそのいちご食べていい?」


 妹らしく早速おねだりしてきた。いちごのパンケーキの最後の苺を狙っていたようなのだ。


「ふふ。いいよ。花ちゃんが食べて」


「やったあ。結菜お姉ちゃん大好き!」


 そう言ってイチゴを口に放り込むとニコニコして急に機嫌がよくなった。

それに棘が取れて丸くなったので驚いた。

(この子はよくわからないけど、悪い子ではないみたいね)


「花ちゃんはどうして私のことお姉ちゃんにしてくれたの?」


 すると花はニコニコしながら言った。


「前にも話したけど、子供の頃に親切にしてくれたお姉さんに似てるの、それに隠れてみていた間、結菜お姉ちゃんはいつも親切で善良だった。そこがいいなって思ったの」


「そうかな?特別何かしてるわけじゃないけど」


「結菜お姉ちゃんは自覚してないところがいいの!だから詳しくは教えなーい」


そう言って残りのパンケーキを平らげてしまった。


「結菜お姉ちゃん、食べないなら食べちゃうよ?」


 ニコニコ微笑みながら結菜が言うので私は慌ててパンケーキにフォークを刺した。

 お店から出ると花は累にしていたように腕に巻きついて甘えてきた。この変わり身の速さはもはや驚きをこして恐ろしかった。

 ビクビクしていると花はくすくす笑いながら言った。


「結菜お姉ちゃんのこと好きだから意地悪はしないよ。私、好きな人にはとことん甘いから。その代わり嫌いな人には…ね?」


「そ…そうなんだあ…」


 結菜は楽しそうに私の腕に巻きついて頭をこてんと肩に預けてまるでカップルのようにして歩き始めた。


「次は可愛い雑貨屋さんがあって〜そこに行こうかと思ってるんだあ」


花は楽しそうに言うとウキウキと歩き始めた。すると数メートルもいかないうちに男の人達に呼び止められる。


「ねえねえ、君たちめちゃ可愛いね!よかったらこの後一緒しない?」


「お呼びじゃないで〜す。私にはこの人がいるんでえ」


そう言って花は私の手を恋人繋ぎにして見せつけた。


「え〜でも男もいいもんだよ?一回だけ試してみようよ」


「ちっしつこいなあ!一回鏡みてから声かけてこいよブサイク」


「ちょ…花ちゃん!」


あまりの言いように私は慌てて嗜めたが相手の男達はその言いようにキレてしまい、乱暴に花の手を取ろうとしたので咄嗟に庇って、その手がほおに当たって私は勢いで転んでしまった。


「ちょっと!女に手をあげるなんて最低!」


「いや…俺たちは…」


男達は周りがざわついてきたので流石にまずいと思ったのかその場から逃げ出してしまった。


その騒ぎに駆けつけてくれた人がいた。


「君大丈夫?って花ちゃん?」


痛い。と言うより誰だろう?また新たな人との出会いで混乱しっぱなしの私だった。


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