「この度はほんっとーにご迷惑をおかけしました」
マネージャーの合原は頭を下げて私と良平に平謝りだった。
「合原さんは悪くないですから。悪いのはこいつだけなんで」
良平はそういうと累を親指で指さした。
「目立つとよくないのでとりあえず車に…」
そういわれて4人は合原の車に乗り込んだ。
合原の運転は安定していて人柄がよく出ているなと思った。
「私も複数の担当をしているので、まさか目を離した隙に…やれやれです。結菜さんは大丈夫でしたか?」
「ええ。累さんがうまく変装してくれていたので大丈夫だと思います。そもそも顔出ししていないから変装なんて必要ないと思いますが」
「累は声が独特なのでわかる人にはわかってしまうんですよ、その上、累は顔がいいのでそこで理想の王子様だ〜って盛り上がっちゃう人が過去に数人いたので変装はした方がいいんです」
「大変なんですね…」
合原は苦笑いする。その反応に相当苦労していることが窺い知れた。
「他のマネージャーしてる子に比べたらおとなしい方だからまだましなんですけどね。結菜さんが絡むとおかしくなってしまうので。あ!結菜さんは悪くないですよ?」
すると良平が怒り声で言った。
「当たり前ですよ。こいつはただ巻き込まれただけの一般人なんだから。マネージャーさんももっとしっかり監視してもらわないと」
「良平!マネージャーさんも累さんだけにかかりきりになるわけにはいかないんだから仕方ないでしょ?」
そう。仕方ないことなのだ、実際合原は累のことで色々と苦労しているようだったので私は彼を責める気はなかった。
だが良平は違う。私を危険にさらせるかもしれない今回の行動を止められなかったことに腹を立てているようだった。
「返す言葉もありません。結菜さんのための1ヶ月の謹慎なのに…本当にこの人は…」
今回のことにはあまり怒らなそうな合原さんも腹を立てている様子だった。
「累。帰ったらお説教だからね」
「…」
私達が話している間、累は窓の外を眺めて終始無言だった。
マンションに着くと私と良平は合原に累のことをお願いして車から降りると良平と2人でマンションに向かって歩いた。強い視線を感じて振り向くと走り去る車から強い視線を向ける累が見えて私は咄嗟に恐怖を抱いてしまった。
「今日は大変だったな。どうする?なのはで癒されるか?」
「いいの?うれし〜。正直気持ちがごちゃごちゃだから癒しが必要だったの〜」
2人揃って良平の家に入るとなのはが尻尾を振りながら結菜のところに走ってきた、
「おい。そこは俺に最初に来るとこだろ?散歩だって連れていってるのに」
良平はなのはに抗議したがなのはは全く無視して私に頭を撫でろと頭をグイグイ押し付けてきた
「わあ!相変わらず可愛い」
蹲ってなのはを撫でていると自然と泣けてきた。ボロボロ泣きじゃくりながらなのはを撫でる。
なのはも心配したのか手をぺろぺろと舐めて慰めてくれる。
良平は頭をポンポンと叩いて落ち着くのを待ってくれていた。しばらくして涙が止まると、私は良平に言った。
「今日はやっぱり帰るね。こんな顔、佐和子さんに見せたら心配させちゃう」
「そっか。まあ、なのはで癒されるっていう目的が達成できたから今日は大丈夫だな。何かあったらすぐに連絡するんだぞ」
「ありがとう。おやすみ」
そう言って家の外に出ると私は家に帰った。
誰もいないリビングの明かりをつけると人の気配のする温かな良平の家と比べて寂しくてたまらなくなってしまった。
また蹲って泣き始める。
「累さん…」
自分が決めたことだけど、距離を置くのはすごく寂しかった。でも仕方がない。こうでもしないと共依存になってお互いダメになってしまっていただろうから。
私は累と対等な、普通の恋愛がしたかったのだ。
「私達どうなっちゃうんだろうね…」
答えてくれる人は誰もいない。自分で考えるしかないのだ。それを改めて実感して私はスッと立ち上がると涙をグイと拭うと風呂に向かった。
(私は自分に負けない。必ず累といい関係を築いてみせる)
そう決意した。
その時だ。花からLIMEが入った。
『今回のこと合原から聞いたよ。大変だっだね』
『うん。累さんと距離置くことになっちゃった』
『だったらさ、その間私が一緒にいてあげてもいいけど?』
私は驚いた。初対面で酷いことをした子と同一人物とは思えなかった。
『花ちゃんありがとう。じゃあ早速だけど今度一緒にお茶しない?』
『じゃあ今週土曜日の10時からでどう?店はおすすめがあるから駅で待ち合わせしよ』
(こんなに親切なのも逆に怖いけど、花ちゃんからは嫌な感じがしないんだよね)
結菜はちょっと複雑な気持ちになりながらも花と約束してLIMEを閉じた。
「今日は色々なことがあったな…疲れちゃった」
私はポツリと呟いて湯船にお湯をためるとゆっくりと浸かった。
お風呂から上がると久しぶりにビールを出すと一気に飲む。
「頑張ろう…私」
明日からは本当に累と離別した生活が始まる。
それに耐えられるか…わからなかった。