「とにかく上がって!今お茶用意するから」
戸惑いつつ3人を家にあげると4人分のレモンティーを用意してダイニングテーブルに置いた。
「ねえ花さん、一体どういうことなの?」
「…」
花は俯いて何も言わない。栄が助け舟を出すように話し始めた。
「君。もしかして累くんのために結菜ちゃんのこと見張ってたんじゃないの?」
「っ!累は関係ない!私が勝手にやったことよ」
また沈黙、花は何か葛藤している様子だった。
「花さん、私怒らないから、どうしてこんなことをしたのか教えてくれる?それにね、女の子の独り歩きは危ないからもうしちゃダメよ」
私がそう言うと花は俯いて手をぎゅっと握ってまた黙ってしまった。
「君がこういうことをしていることは累に伝えるぞ」
良平が怒って言う。
「待って、花ちゃんは累さんのこと好きだから、知らせないであげて」
私が良平に言うと、花が突然叫んだ。
「そういうとこ!私、累が結菜のせいで謹慎になってから、腹が立ってアラを探して累に告げ口してやろうと思って、結菜のこと付け始めたの。でも、結菜はいつも人に優しくて、困っている人には息をするように親切にするし、迷子を助けてあげてるし」
「ああ、見てたの?お母さん見つかってよかったよ〜」
先日ショッピングモールで迷子の女の子を保護したのだ。一人で蹲っていたのが気になって声をかけると途端に泣き出してお母さんと逸れたと教えてくれたのだ。“今まで泣かずに我慢して偉かったね”そう言ってその子の頭を撫でるとスンスンとはなを鳴らして泣き止むと、不安からか私の手を握って迷子センターまで歩いてくれた。そこには既に母親がいて、女の子は泣きながらお母さんに抱っこされていた。
その姿を見てホッとした後私は深々とお礼をする母親にお礼をさせてほしいと言われのを断って、女の子にバイバイして別れたのだ。
「私も…同じくらいの時、迷子になったの。周りには体の大きな大人がいっぱいで知らない場所にたった一人で怖かった時に助けてくれたお姉さんがいたの。あの時つないでくれた手の暖かさ忘れられない、その人に結菜がかさなって。もっと結菜のこと知りたくなって、気づいたらずっと結菜のことつけ回してた…」
また黙る。花は私に対して悪意があってストーキングをしていたわけではなかったらしい。それにホッとした。だが同時に不安になった。大学生の女の子の夜の独り歩きが危ないので、もうしないでほしいと思った。
「ねえ、花ちゃん。だったら友達になりましょう。LIME交換していつでも連絡取れるようになったら私のことつけなくて済むでしょ?女の子の夜の独り歩きすごく心配だから。ね?」
「え?こんなことしたのに許してくれるの?正気?」
花は私に嫌われるのを覚悟していたらしい。だが私は花を嫌いにはなれなかった。
最初こそ悪意があったのだろうが、途中からそれも無くなったということは、私にもう花を遠ざける理由がない。
「もちろんだよ。あ!でもこのことは累さんには内緒ね?累さんだって心配するだろうし」
「ふん、勝手にしたら」
2人の様子を静かに見守っていた栄が声を上げた。
「とにかく2人の仲違いがおさまってよかったよ。でも、結菜ちゃんはもうちょっと自分の魅力に気をつけた方がいいよ、こういうこと、結構あるけど気づいてないだけっぽいから」
栄はどうも私から同類の匂いを感じたらしい。
「うう。確かに何かあっても気づかなかったかも。今回はたまたま気づいたけど、本当は今までもあったのかも」
「多分そいつらはガタイの良い良平が一緒だったから手を出す前に身を引いていたんだよ。戦っても勝てないってね」
「うう。良平に感謝だよ」
今まで会話に参加していなかった良平が口を開く。
「いや、実は俺何人かボコったことあるんだよ。結菜が怖がると思って内緒にしてただけで」
驚きの事実に私は開いた口が塞がらなかった。
今までもストーキングされていた上に、良平が知らない間に守ってくれていたなんて。
「私ずっと守られていたんだね。ありがとう。良平」
「別に、好きな女守るのは男の仕事だからな」
良平は少し照れた様子だったが、“好きな女”ということろを強調して言っていたので、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「その言い方だと自分の女みたいに聞こえるんですけど?」
なぜか花がそれに対して噛みついていった。
(花さんにとっては私が良平の女の方が都合がいいはずなのになんでだろ?)
私はわずかな違和感に頭を捻った。
「お前には関係ないだろ?累とくっつかない方がお前にとっては都合がいいだろうが」
良平もそれは同じだったようで、私と同じ違和感を感じているようだった。
「くっ、こんな幼馴染がいるとか…だけど負けないから」
花は良平となんの勝負をするのだろう。そんなことをぼーっと考えながら2人を見つめていた。