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第33話 会食

翌日の業務終了後、美しい相貌でプロポーションも抜群の美女が私が働いている部署にカツカツとピンヒールを鳴らしてやってきた。


「会長との面会のためお迎えにあがりました」


 その美女の言葉に部署内がざわつく。


「あ…ありがとうございます」


 私は慌てて帰り支度を整えると美女についてエスカレーターに乗り込んだ。

 途端美女は上から下まで私を眺めるとぷっと吹き出した。


「会長がお気に入りだと聞いていたけど、ただの芋娘じゃない。あんたいい気になるんじゃないわよ。黒沼さんは私こそ相応しいんだから」


嫉妬だった。それもかなり醜い。この人は見た目は美しいが中身がドロドロなのだろう。

(これは確かに黒沼君が嫌になるのわかるなあ)

 ちょっと黒沼に同情しつつ仕方ないのでその秘書について高級車に乗り込み、ついた場所は一見さんお断りの料亭だった。

 案内された席に着くと後から会長が入ってこられた。その顔には覚えがある。確かに私が助けたおじいさんだった。


「あの時はありがとうね。泉川さんがいなかったらワシはどうなっていたか。どうか今日はゆっくり食事を楽しんでくれ」


「あの…その前にお話が」


「何、諒のことだろう。あやつ振られたと言って泣きついてきおった。全く情けない」


「では諒さんとのことは破談に?」


「それはなあ。ワシとしてはやはり結菜さんに嫁に来て欲しいじゃよ。どうか考え直してくれまいか」


 会長は私のことをよっぽど気に入ってくれているらしくどうしても孫の

諒に結婚をさせたいらしい。しかもその諒が乗り気なのも後押ししてかなりやる気になっていた。


「私、お付き合いしている人がいるんです」


「知っておる。お前さんを尾行したり盗聴する卑劣な人間だろう?そんな男より、少し頼りないが諒の方がよほど誠実だ」


(やっぱり知ってるよね)

 元々会長が累の身辺調査をさせたのだろうから知っていて当然だ。私は身構えて言った。


「誰だって間違えを起こします。累さんは過去の傷からそうなってしまっただけの優しい人なんです、お願いですから累さんを悪く言わないでください」


思わず立ち上がって叫んでいたが、会長は優しい笑顔で座るように促した。


「何、とりあえずこの話は後にして食事を楽しもう。元々それが目的だからのう」


そうすると女将が挨拶に来て料理が次々と運ばれてきた。彩も綺麗でとても美味しそう。でも食べたら婚約させられそうで警戒していると、会長は笑って言った。


「これはわしを助けてくれた礼じゃ。婚約話は関係ないから安心して食べなさい」


「では…」


こんな美味しそうな料理を待てなどできるはずもなく、次から次へと口に運ぶ。それはどれも食べたことのない美味しさで私は目を輝かせながらぱくぱくと食べ切ってしまった。


「ははは。いい食べっぷりだの。そう言うところも好ましい」


「会長!」


「わかっている。仕方ないか、諒のことをもっと知ってもらってからでも遅くない。これから同じ部署でよろしく頼むよ」


(部署替えはないんだ)


 ちょと期待したけどそれはないらしい。累が嫉妬しなければいいけど。

 少し不安になりつつ会食は穏やかに終わった。

 家に着いてしばらくすると累から電話がかかてきた。


『今家の前にいる。家に入れてくれる?』


「え!もちろんいいよですよ。入ってきてください」


 慌てて部屋を片付けると累を部屋に招き入れる。


「累さんいつからいたんですか?」


「ん。結菜の部屋の明かりが見える公園があるから。そこで終業後にずっと」


すると会食をしていた数時間ずっと待ってくれていたのだろう。


だがよく考えたらそれてストーカーなのでは?とう考えが頭を掠めたが考えないようにした。


「会長さんとの会食って今日だったよね、どうだった?」


「美味しいものいっぱい食べさせえてもらっちゃっいました」


「婚約については何か言われなかった?」


「やっぱりできればして欲しいって…でもお断りしてきました」


 累はわたの言葉に安心したようだった。。


「あの…、そろそろ配信の時間では?大丈夫ですか?」


「今日は結菜の家で配信するから物音立てないようにしてね」


「ええ!ですが家具とかは…」


「ちょっと動かして背景を壁にするから。結菜は横で俺の配信みてて」


累は本気らしくソファを移動して背面が白い壁だけの空間を作り、カメラチェックなどをして配信に備えた。

 私は邪魔しないようにダイニングでそれを眺めていたが、自分も配信に入りたくて音声オフにして配信を視聴しはじめた。


「やあみんな、今日はどんな一日だったかな?俺は今日ちょっと落ち込んでいる。でも嬉しいこともあったんだ。みんなはどうかな?」


すると一気に自分はいい日だったとか、イマイチだったとかそういった内容のメッセージが流れてきた。私もコメントを入れたが累はすぐに気づいてくれた。


「nanaはいい事と悪こと両方あったんだね、俺と同じだ」


私は嬉しくて累に視線を送る。だが間の鋭い人はいるので、すぐにメッセージが飛んでくる。



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