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第30話 意外な事実

「えええ!累さんこんなイケメンなのに!?うっそー」


 愛花はあまりのことに衝撃を受けたらしく大声をあげて驚いていた。私も内心驚く。今までのスマートな行為で累はきっとモテたし、そういう行為だってあったのだろうと思っていたから。


「がっかりした?」


 累は少し寂しそうな声音で問いかけてきた。

 横顔を見ると少し緊張している様子が見える。きっと未経験なのを気にしているのだろう。


「それは…私も似たようなものですから。気にしません」


「そっか…よかった」


 累のこわばった表情が和らいで私はホッとした。打ち明けるのにきっと勇気がいっただろう。しかもよく知らない愛花の前で。

 愛花はまずいことを聞いてしまったことを反省してかさっきからダンマリになっている。


「あーなんかすみません。私かなり失礼なことを聞いてしまって」


「いや、俺がしたことについて結菜のこと心配してくれたんだよね?気にしないで」


 シンと車内に気まずい空気が流れる。ちょうどその時愛花のマンション近くになったので、愛花が道を累に教え始めたので変な空気は和らいだ。


「送っていただいてありがとうございました。あの…結菜は大切な友達なんです。どうか。大切にしてくださいね」


「ああ。もう心配をかけないようにするよ。」


 愛花は私に手を振ってマンションの中に消えていった。私も手を振り返して微笑む。心配しないでと言うように。


「結菜…さっきの話だけど。俺は今まで誰とも肌を合わせたことがないから。正直怖いんだ。結菜に痛い思いをさせるくらいならそういうことしない方がいいかなって。だから安心して結菜に無理強いは絶対しないから」


「…はい」


内心複雑だった。私も経験がないからそれが一体どれだけの痛みなのかはわからないけど、累さんに求められないのは正直寂しかった。

(累さんとならって思っていたけど。私そんなに魅力ないのかな)

累は私にGPSを仕掛けたり盗聴するくらい執着していたのに、私を求めることはしないという。そのチグハグさが私をモヤモヤさせた。

(累さんにとって私は一体どういう存在なのだろう)

 そのことについてぐるぐると考えを巡らしていた。確かに私は性的魅力には欠けるが、肌を合わせるとはお互いの愛情を確認する上で大切なことなのに…それを拒絶されて私は求められないことにショックを受けていた。


「結菜。君が悪いんじゃないんだ。俺の意気地が足りないだけなんだ。初めてだからきっと余裕がなくて結菜に無理させてしまうのが怖いんだ」


(累は私のためを思って我慢してくれてるの?それとも別の理由で?)

 私の気持ちが沈んでいることに気づいて累は慌ててフォローを入れる。


「この年になって恥ずかしいんだけど、実は手を握って歩くのも緊張するんだ。結菜の前では大人ぶって隠しているけどね。お子様なんだよ。俺は」


 前は前髪で顔を隠して黒マスクをしていた累を思い出した。あの姿を思い浮かべると手を繋ぐのが苦手だったり肌を重ねたことがないと言うのもなんとなく理解できる。


「俺はどちらかというと隠キャだけど…結菜の前では余裕のある大人でありたかったんだ」


 累は苦しそうな顔で苦しそうに告白する。その顔を見ると私は全て許してしまいそうになる。累の不遇な環境をしているから尚更。


「累…どうかもう苦しまないで…私がそばにいるから」


私がそう言うと累は苦しそうな顔をしてグッと何かを飲み込んだような顔をした。


「結菜はいつも俺に甘いよ。本当ならもう別れて二度と会ってもらえなくても当然なのに」


 そうだろう。普通ならそうあって当然とういか。そうすべきなのだ。それでも私は累の過去を知ってしまっているから放り出すことができなかった。今はこの恋が同情なのか愛なのかわからない。でも累から離れるという選択肢は出てこなかった。

 考えているうちに家の間に着くと累は私のほおを優しく撫でて頬に優しく口付けした。


「おやすみ。結菜。今週末空いてたら俺の家に来ない?」


「累さんのマンションですか?」


正直今はまだ彼のテリトリーに入るのは怖いが、思い切って答えた。


「わかりました。では、お昼頃伺ってもいいですか?」


 それを聞いが累はパッと顔を輝かせて微笑んだ。

 無邪気な笑顔に私はホッとした。断らなくてよかった。まだ少し怖さは残っているけど、累の無邪気に喜ぶ顔を見て私の心は高鳴った。


「じゃあ今度は俺が結菜に手料理をご馳走するね」


「ありがとうございます。楽しみにしていますね」


私はそう言うと車を降りて車が走り去っていくのを見ていた、

(悪い人ではない…と思いたい)

 やったことは最低だけどどうしても憎めないし怒れない。結局は惚れた方が負けなのだろう。結菜は累のことを考えると胸が高鳴るし、会いたいと思う。

(私本当にバカだな。今でも累さんこと好きだなんて…)

 本当は良平のような人を好きになった方が幸せになれるのはわかりきっていた。だけど、心が求めるのは累だった。良平は私のことが好きと言ってくれていたけれど、私はどうしても幼馴染にしか思えない。だが累のことは一緒にいるだけで胸が高鳴り、愛情が溢れてくる。

(好きなんだよね。累のこと)

 たとえどんなことがあってもそれだけは変わらないと思う。


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