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第28話 これから

3人が去った後のリビングで私は愛花に電話をかけていた。


「実はね。盗聴とGPS問題が解決したから累と付き合い続けることになったの」


『はあ!?私もヒモ飼ってる身だから大声出せないけど危なくないの!?』


「うん。良平と友達の栄さんって人が定期的に累のこと見張ってくれることになって。人に迷惑かけながらっていうのがちょっと申し訳ないけど、私、類さんのことが好きだからどうしても離れられなくて」


『そっか。でもまあ。好きになっちゃったら仕方ないよね。恋ってそう言うもんだもんね』


愛花はそう言うとカラカラ笑った。


「まあ、またGPS見つけたらいくらでも私のヒールで踏み壊してやるから安心してね。っと、そろそろヒモ君が帰ってくるから切るね」


「え?彼氏さん仕事始めたの?」


「うん。コンビニバイト。自立への一歩〜とか言ってるけど、どうせすぐ飽きるでしょ」


 愛花はまたカラカラと笑った。このたくましさ故にヒモを飼うことができるのだろう。

 結菜は愛花のその豪胆さが好きだった。


「じゃあヒモ君によろしくね。おやすみ」


『おやすみー』


 電話が終わったタイミングで累からLIMEが入った。


『今話せる?』


「はい。いいですよ」


するとLIMEの着信が入った。


『結菜、今日はごめんね』


「いえ、ちょっと驚きましたが、どうしてあんなことしたんですか?」


『不安だったんだ。結菜がどこかに行ってしまうんじゃないかって怖くて。でも反省してる。もう二度とあんなことしないって約束するから。今まで通り一緒にいてくれる?』


「はい…。もうしないって信じてますからね?」


『ありがとう結菜。信じてくれてありがとう。結菜の良い恋人になれるように、俺、頑張るよ』


 累は本心から自分の行動を悔いているようだった。だから私はもうこれ以上累を責めたくなかった。誰だって間違えることはある。累だってそうだ。ちょっと間違えてしまっただけ。

 私は深呼吸して言った。


「私累さんのこと好きです。大好き。だから、これからもずっと一緒にいてくださいね」


『俺もだよ。ずっと一緒だ』


 それを聞いた途端背中がぞわりとした。

(なんだろう?類の声が低かったからびっくりしたのかな?)

 よくわからない不安感をかにながらもその日はそこで通話を終えた。

(良かった。これで元通り。きっとまた累さんと笑い合える)

 私はそう思いながら眠りについた。


***

 通話が終わったLIMEの画面を眺めながら結菜の微笑みを思い出す。天使のように無垢で可愛らしい彼女。灰色だった俺の世界に色をつけてくれた救いの女神。結菜は誰にも渡さない。俺だけのものだ。俺だけの結菜だ。男も女もみんな…


「邪魔だな…」


***


 翌日はあいにくの雨。私は電車が遅れる可能性を考えていつもより早く家を出た。

 雨足があまりに激しいのでタクシーを呼ぶがどこも配車中で捕まらない。


「仕方ない。歩いて行くか」


 この様子だと会社に着く頃にはずぶ濡れになってしまいそうだったが仕方ない。するとするすると近づいてくる車が一台。私は少し警戒しながら歩いていると、車の窓が開いて累が顔を出した。


「え!?累さん?」


「雨がひどいから迎えに来たよ。会社まで送るから乗って」


私は驚きつつも累の運転する車の助手席に乗り込んだ。


「累さん車持ってたんですね」


「休日はこれに乗って釣りに出かけたりするからね。今度一緒に川か海に釣りに行かないか?」


「楽しそう!でも累さんの会社車で出社できるところなんですか?」


「ああ。言ってなかったけ?俺リモートワークだから時間に自由がきくんだよ」


「じゃあわざわざ私を送るために?」


「恋人として当然のことだよ。こんなひどい天気に歩かせるなんてできないからね」


 累は機嫌が良さそうに微笑むと車を発車させた。累の運転は丁寧で発車も停車も優しく、安心して乗っていることができた。

 フロントガラスは激しい雨に打たれて滝が流れるように水が滴り落ちている。

 こんな中で歩いて駅まで行くのは大変だから累に送ってもらえて本当に助かったと思った。

 一瞬どこかに連れて行かれるのではと警戒したが、累は素直に会社前に車を止めてくれたのだ。


「じゃあ終わる頃に迎えにくるから」


「そんな、申し訳ないです」


「俺は結菜の恋人だよ?お願い。甘えて」


「…はい。じゃあ今日は7時くらいには上がります」


「じゃあそれくらいにここに来るね」


 累はそう言うと車で走り去っていった。私も雨で濡れないように駆け足で会社の中に入っていった。

(あれ?そういえば私、累さんに会社の場所教えたっけ?)

 記憶にない。もしかしたらGPSをつけられていた時にチェックされていたのかもしれない。でももう許したことを蒸し返すのもなんとなく嫌だったので、細かいことは考えないようにして会社へと向かって歩き始めた。


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