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第20話 映画

 映画館は割と近くにあって、そこに着くとタクシーを降りてサマーサマーの上映時間を確認する。ちょうど30分後に始まるらしいので、二人でポップコーンとドリンクを頼んで入り口付近で話しながら待つことにした。


「この映画の監督さんの作品は全部見たんですけど、どれも面白くて大好きなんです」


「俺も一通り見たよ。感動系だからちょっと泣けるし、今回も楽しみだね」


「はい!映画の好みが一緒ですごく嬉しいです」


「俺も嬉しかったよ。映画の好みが合うっていいね」


 累は我慢できなかったのかキャラメル味のポップコーンをつまんで口に運ぶ。


「ふふ。食べたくなっちゃいました?」


「あ!ごめん。ついつい。俺、キャラメル味のポップコーン好きで…」


 累は慌てて謝るが私は全く気にしていなかったのでくすくす笑う。


「私も好きです。甘くてお美味しいですよね。じゃあ私も食べようかな」


 一つ摘んで口に入れると甘い味が口いっぱいに広がって幸せな気分になる。


「ポップコーンがあると映画館にきた!っていう気がして嬉しいんだよね」


「私も同じですよ。今日は累さんのいろんな好きなものが知れて嬉しいです」


「ふふ。色々バレてしまったね。本当はスマートでかっこいい男になりたいけど、なかなか難しい。でも俺の素のままが好きって言ってくれる結菜のこと、俺はすごく好きなんだ」


 突然の告白に私は赤面する。すると累はそんな私の顔を覗き込んで赤くなったほっぺをツンツンとつついた。


「赤くなってるとこ。可愛い。ねえ、もっと見せて。結菜の可愛い姿」


「累さん!恥ずかしいからからかわないで」


(もう!累さん優しいのに時々意地悪言うから困っちゃう)

 私は手で頬の赤みを冷やしてなんとか平常に戻ったが累は追撃を緩めない。


「あれ?もう元に戻っちゃった?じゃあ…これはどう?」


そう言うと今度は頬にキスをしたのだ。


「!累さん!」


 私はすっかり動揺して手で顔を隠して深呼吸した。嬉しい。だけど恥ずかしい。その気持ちがないまぜになって私は顔を上げることができなかった。


「ごめんね。驚かせちゃって。だってすごく可愛いから。結菜が悪いんだよ?」


「もう!もう!私にも心の準備が必要なんです!急になんてひどい」


「じゃあ…俺がキスしてもいい?って聞いたら許してくれる?」


(昨日の別れ話のせいか今日の累はすごくグイグイくる…。大人で一歩引いた人だと思っていたけど本当の累はこんな感じなのかな?)

 そんなことを考えていると累はかがんで私のおでこに自分のおでこをくっつけてにこりと笑った。


「〜!!累さん!」


 私はびっくりして後ろに後ずさった。

 すると累は楽しそうにくすくすと笑う。

 私の反応を楽しむためにわざとそうしたのだろう。


「はは。結菜ちゃんの反応可愛い。ねえ。今、何されると思った?」


「それは…!えっと…その…」


(キスされると思ったなんて恥ずかしくて言えない…もう!累さんの意地悪)


「えっと、顔が近かったから驚いただけです」


「そっかあ。本当は結菜ちゃんが油断してたらキスしちゃおうと思ってたんだけどね」


「累さん!」


「ごめんごめん。もうしないよ。からかってごめんね」


 累はそう言うとまたポップコーンを口に放り込んだ。どこか楽しそうに、機嫌が良さそうに鼻歌を歌っている。

(あ…これ私が好きな曲。累さんもこの曲好きなんだ。なんだか嬉しい)

 ちょっとした共通点を見つけると嬉しくなる。累はどう思っているかわからないが、私は共通点が見つかるごとにますます累のことを好きになって言っていた。

(恋に上限なんてないから、これからどんどん累のこと好きになっていくんだわ)

 私はそう考えながらそっと類の横顔を盗み見た。するとすぐに累は私の視線に気づいて手を伸ばすと前髪をさらりと直してくれた。


「あ…前髪乱れてました」


「ん。ちょっとよれてたから直しただけ。変なわけじゃないから安心して。それに俺が結菜の髪に触れたいなって思ったからだよ」


「累さん…あの…累さんにならいつでも髪に触れられてもいいです。累さんのこと、好きなので…好きな人に触れられるのは嬉しいです」


累さんは食べかけていたポップコーンを床に落としてポカンとした。

(あれ?私変なこと言った?)

 ドキドキしながら累さんを観察していると落としたポップコーンを拾ってゴミ箱に捨てに行くと、戻ってきて耳元でそっと囁く。


「そんなこと言ったら。俺色々我慢できなくなちゃうから…ダメだよ?」


「色々…」


「そう。たとえば結菜のことを抱きしめたいとか、抱っこしたいとか。それ以上もしたいなとか。俺も男だから下心を持っているわけなのですよ。だからあまり煽らないでもらえたら嬉しいかな」


 私は言葉の意味がわからないほど子供ではない。私は赤面して俯いていった。


「すみません…私も累さんと一緒にいられるのが嬉しくて舞い上がってました。以後気をつけます」


 しょぼくれた私の頭を類の大きな手て優しく撫でてくれる。

 その時ふと花の顔が浮かんだ。私と同じように頭を撫でてもらっていた。しかも腕に絡みついて。私はそんな大胆なことできない。せっかく累が私の頭を撫でてくれているのに

私の内心は穏やかではなかった。


『お待たせいたしました。サマーサマー開演です』


 お知らせのアナウンスが流れて私と累は入場の列に並ぶ。累はチケットとポップコーンとドリンクのケースを持っていたので手がつなげなかったのが少し寂しかったけど私は後ろから累をじっくり観察する。背が高くて体は細マッチョ。髪は短く黒いのに華やかな顔のおかげで地味に見えず、誠実さが増してとてもかっこいい。こんな人が私の恋人だなんて、改めて考えても信じられないことだった。


「こっちこっち!5番スクリーンだって」


 累は私がちゃんとついて来ているか確認しながら先導して歩いてくれる。私はそんな累について歩いていく。どんな時も引っ張ってくれる累が頼もしくてつい甘えてしまうのが申し訳ない気がするが、私が引っ張って歩けるのかというと、正直自信がない。おとなしくついて歩くとようやくお目当ての5番スクリーンのカップルシートにたどり着いた。カップルシートは2席がくっついて一つのソファのような座席になっており、靴を脱いでリラックスできる素敵な席だった。


「わあ。カップルシートなんて初めてです」


「ん?以前カップルシートが必要な誰かと映画に来たことがあるのかな?」


 累はちょっとやきもちを焼いているかのように問いかけて来たので私は思わず笑ってしまった。過去の相手にも嫉妬する累がとても愛おしかった。


「いえいえ。私、付き合っても大体持って1ヶ月とか、何も触れ合わない間に分かれていますので、ご心配なく」


 そう。私の引っ込み思案のせいで付き合っても手すら握れないから本当に好きなのかわからないと、過去二人の男性に振られているのだ。

 だから累さんとは手を繋いだり、触れ合ったりできるのが本当に奇跡で、驚いている。

(私の恥ずかしがり、ちょっとは治ったのかな?もう学生時代みたいに振られたくないから、ちょっと恥ずかしくても…あれ?我慢っていう感じじゃないな。嫌なこともない。すごく自然に受け入れていて、もっと触れて欲しいって思ってる。なんだか不思議。やっぱり相手が累さんだからなのかな)

 そんなことを考えながら私はカップルシートに登って累と肩を並べてスクリーンを見上げた。


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