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第19話 一緒に行きたい

「じゃあタクシーひろって行こうか。タクシーひろえるところまで少し歩くけど大丈夫?」


累は私の真新しい靴を見て心配そうに言った。

(新しい靴って馴染むまで靴擦れとかするから心配してくれているんだ。優しい)

 累の優しさにジンとしながら私は首をふる。


「このサンダルヒールが高くないから足も痛くないんです。心配していただいてありがとうございます」


「そっか。もし痛くなったらいつでも言ってね。その時は俺が抱えて歩くから」


 私は思わずその光景を想像してしまう。とても恥ずかしくて絶対に足を痛められないと思った。

私達はコーヒーを飲み終えると手を繋いで道を歩く。

 あんなに恥ずかしかった手を繋いで歩くことが、今では自然にできるようになっている。

(相手が累だからだろうな…。不思議と安心感があって手を繋いでも緊張しない)

 私はそう思いながら累の手をきゅっと握り直した。


「ん?どうしたの?」


 それが何かの合図と思ったらしい累が私に笑いかけてくれる。その表情は柔らかくて優しくて、わたしはまた恋に落ちる。


「いえ、累さんと手を繋いで歩けることが嬉しくて」


花との一件で、もうこうやって手を繋いで歩くこともできないと思っていたから私は尚更嬉しかったのだ。


「手、握るの好き?だったらずっとこうしていよう」


 累は私の手を持ち上げると、繋いだ手の甲にキスをしてまた歩き始めた。

(王子様みたい。自然にこんなことができるなんて。累さんはやっぱりすごい)

 私は王子様みたいな累に感激しながら一緒に歩く。歩幅は私に合わせてくれるので辛くなかったし、何より累と一緒に過ごせることが嬉しかった。

 駅前まで戻るとタクシーをひろって累おすすめのお店まで来た。そこは見た目からしてベトナムの雰囲気で私は入る前からワクワクが止まらなかった。


「すごい!ここだけベトナムに来たみたいで素敵です」


「喜んでくれて良かったよ。じゃあ入ろうか」


累に連れられて一歩店内に入ると、パクチーの香りで満たされた店内の独特の匂い。インテリアの可愛らしさに私は目を見張った。


「2名さまですね。窓際の席にどうぞ」


 日本語が流暢な店員さんが席に案内してくれる。窓際に座るとそこには小さな中庭があって、カエルの置物や小さな噴水が置いてあってとても落ち着く空間だった。


「気に入ってくれた?メニューだけど俺のおすすめを頼んでシェアするのでいいかな?」


「ありがとうございます。正直メニューだけではどんな食べ物か想像がつかないので助かります」


 そういうと累は微笑んで、店員さんを呼ぶと何点か注文をしてくれた。


「楽しみです。こういうお店、一人だと勇気がなくて入れないから累さんに連れてきてもらえて嬉しいです」


 累がいると私は新しい世界にどんどん飛び込める。食事屋さんにしても、そもそもネットのむこう側にいる顔も知らない相手と出会って恋をすること自体。すごいことだと思うのだが、それを可能にしてくれた累に感謝しかない。


「お待たせしましたー」


 そんなことを考えているとどんどん料理が運ばれてきて、机の上にいっぱい並べられた。その量は二人分にしては多くて私が怯んでいると、累はクスリと笑った。


「結菜ちゃんは自分が食べたいだけ食べたらいいんだよ?俺、こう見えて大食漢だからこれくらい頼まないと足りなくてさ。もしかしたら追加で注文するかもしれないよ」


 結構な量なのに追加で注文。私は心底驚いた。累さんは筋肉がうりの配信者なので食べるものには気をつけているのかと思ったけど、そうでもないらしい。


「ストレスを溜めないように食べたいものは我慢しないようにしているんだ。その分トレーニングで消費しようってね」


「なるほど。確かに食べたいもの我慢するのって辛いですもんね」


「そうそう。いい配信をするためには心の栄養も必要だからね」


そう言って累はバインセオという薄焼き卵きに具を挟んだような料理を私の皿に盛ってくれた。


「これが俺の一押し!食べてみて」


「いただきます!…!!美味しい!!」


見た目はシンプルな料理なのに色々な味が融合していてとても美味しい。私は夢中で盛ってもらった分を食べ尽くしてしまった。


「美味しいでしょ?以前ベトナムに旅行に行って食べてから気に入っていてここにきたら必ず注文するんだ」


言いながら累もあっという間に感触してしまった。

次は定番の生春巻き、中にエビが入ってパクチーもたっぷりで美味しそうだった。

ソースにつけて食べると少しピリッとして美味しい。次々にみたことも聞いたこともない料理をとりわけ皿に盛ってもらって食べていると、もうお腹がいっぱいになったのに、累は相変わらず食べるスピードが変わらず、しめにフォーまで頼んでいた。


「待たせてごめんね。やっぱりフォー食べないとしまらなくて」


 美味しそうに頬張りながら累が私に謝るが、美味しそうに食べる人を見るのは気持ちがいい。私はメニュー表を見ながらその種類の多さに驚いていた。


「そういえばベトナムに旅行に行かれたことがあるんですか?」


「ああ、学生の時にね。友達と卒業旅行で行ったんだけど、すごく良かったんだよ。今度は結菜と一緒に行きたいな」


 幸せだった時間に自分を組み込もうとしてくれていることが嬉しくて私は微笑んだ。

 累と旅行するのはきっと楽しいだろう。ベトナムだけじゃなくて、色んな国に行ってみたかった。


「素敵ですね。行ってみたいです。ベトナム」


「ふふ。じゃあいつか必ず一緒に行こうね」


 累はフォーを食べ終えると席を立つ。

 私も後に続くとお会計は累が全部盛ってくれることになってしまった。

 花の無礼を詫びる意味もあるからと言われて、私も払うと強くいえなかった。

(うう。確かに花さんのことは…正直不快だったからなあ)


 累には申し訳ないけれど、できれば今後はあまり会いたくなかった。それくらい強烈だったのだ。

 お店から出ると冷房の聞いていた室内から急に蒸し暑い外に出て少しくらりと立ちくらみがした。それに気づいた累が私をそっと抱き寄せてくれた。


「気温差で立ちくらみがした?大丈夫?」


 累は私のことを全て把握しているかのようにタイミングよく助けてくれる。どうしてこんなにいつもタイミングがいいのか不思議に思って聞いてみた。


「累さんはいつも私を助けてくれますけど。どうして気づいてしまうんですか?」


 累は少し考えていたが、言葉を選んでゆっくりと答えてくれた。


「いつもみてるから…かな。結菜が可愛いからずっと見てる。ちょっとした仕草も見逃したくなくてね」


 私は驚いた。そんなに見られていることに気づいていなかったから。

(累さん私のことそんなに気にしてくれていたんだ…)

 私は累が私のことを思ってくれていることが嬉しくて心がポカポカした。

 その気持ちを伝えたくて手をとって累がしてくれたように手の甲にキスをした。


「お返しです。私も累さんのこと。大好きです」


 そういうと累は嬉しそうに微笑み、私をぎゅっと抱きしめた。ふわりと柑橘系の体臭がする。私はその匂いにクラクラした。


「累さん…大好きです。もうずっと離れたくないです。私も強くなりますから。ずっとそばにいてください」


「もちろんだよ。俺はずっと一緒にいる。結菜が離れそうとしても、もう逃さない」


 累はそういうと私の額にキスをすると身を離して手を繋いで歩き始めた。 

 私は累の香りで頭がクラクラしていたので、ぼーっとしながら手を引かれて歩く。


「この後だけど、今日こそサマーサマーを見に行かない?


 累は提案してくれて私は嬉しかった。ずっと見たかった映画だったから。それに累と映画館デートができるのも嬉しかった。


「はい!行きたいです。この近くだと…どこがいいんでしょうか」


「ちょうどタクシーが来たし乗ろうか。近くの映画館もタクシーの運転手さんに聞こう」


 そう言って累はタクシーを止めると一緒に乗り込んだ。


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