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第16話 電話

「良平!先に帰っていたの?」


「ああ。お前、あいつと別れることにしたのは本当か?お前からのLIMEが届いてあいつが慌てて走っていってしまったから俺は先に帰ってきたんだけどひと足さきに着いていていたみたいだからここで待っていたんだ。


「あの…あれはね…」


「立ち話はなんだし。俺の部屋にこいよ。今日は母さんいる日だから母さんも喜ぶしさ」


「ありがとう。じゃあお邪魔させてもらおうかな」


 私は良平について彼の家にお邪魔させてもらうことにした。

 スマホの電源は怖いからまだ消したままだったが、気になってついなん度も画面を眺めてしまう。

 それを見ていた良平は苦い顔をして言う。


「いいのか?あいつのこと好きなんだろ?あのLIME、どうもお前らしくないから、あの花っていう妹の仕業なんじゃないか?」


 私は言い当てられてドキッとした。花さんに言わないと約束したので、本当のことを私は言えない。けど、その戸惑った態度が決定だになったらしくて良平は渋い顔をした。


「とりあえず、上がって、俺の部屋…はまずいからリビングで話そう」


「ありがとう。良平」


家に上がるとリビングには誰もいなかった。聞けば良平のお母さんは今締切ギリギリなので仕事部屋に缶詰らしい。


「絵本作家も大変なんだね」


「ああ。特に母さんは月刊誌の連載の仕事がきついらしくてね。まあ、お茶とお菓子を運んで挨拶してやって。きっといい気分転換になると思うから」


「わかった」


 私は良平からお茶とお菓子の乗ったお盆を受け取ると良平のお母さんの佐和子さんのいる部屋にいってドアをノックした。


「へ?良平?勝手位入っていいのにどうしたの?」


 中からは佐和子さんの声が聞こえたので私はそっと扉を開けて佐和子さんに挨拶する。


「こんにちは佐和子さん。ちょっとお邪魔させていただいています」


「え〜!結菜ちゃん!きてくれたの?嬉しい〜!でも今締め切りがね〜」


「はい、良平から聞きました。それでこれ、差し入れです。と言っても用意したのは良平なんですけどね」


 そう言って中に入ると持っていたお盆をテーブルの隅に置いた。


「嬉しい〜!もう結菜ちゃん相変わらず可愛いなあ。いつでおお嫁に来ていいんだからね」


「お嫁!?それは…ちょっと」


「あらあら〜いい籠るなんて何かあった?って言ってる場合じゃなかった。ごめんね、あとちょっとだからもし夕飯までいるようなら一緒に話しましょう」


 そう言って佐和子さんは仕事に戻ってしまったので私はリビングに戻った。


「良平、佐和子さん大変そうだったね」


「だろ?でも毎月月末になるとこうなんだ。もっと時間を余裕をみてやればいいのに、学習しないんだから」


 良平は呆れた様子で肩をすくめる。 


「じゃあ本題に入ろうか。今日のこと、色々整理したいからな」


「うん。私も聞いて欲しいかも」


 一見ふわふわして可愛い花さんが邪悪だということは良平なら信じてくれる気がして私は全てあったことを話した。

 あのLIMEも私のスマホを取り上げた花さんの仕業ということも全て。


「ああ〜やばい匂いがしてる子だとは思ったけどそこまでとはな。お前も災難だったな。まあ一番悪いのはそれを御すことができないあいつなんだけどなあ。しかしどうしたものか。あいつは妹のこと信じてそうだから…」


「そうなの。私が何か言っても…きっと花さんを信じてしまうんじゃないかと思うと気が重くて」


「とりあえずスマホは電源入れろ。あいつ以外に緊急に用事がある人から連絡が入るかもしれないからな」


「わかった」


 良平に言われてスマホの電源を入れると、何件もの累からの通知が来ていた。


「あ…累からメッセージがきてる…」


「怖いのはわかるがきちんと確認しろよ」


 良平に言われてわたしはLIMEの画面を開く。

 そこには意外な文面があって驚いた。


『お前花だな。結菜のスマホでイタズラするんじゃない。きちんと結菜に謝りなさい』


『結菜。花のイタズラに巻子でごめん。話がしたいから今から会おう』


『頼むから俺の通知を見て。俺は今も変わらず結菜のこと好きだから』


 累はそのメッセージを見て涙が溢れてきた。累が私を信じてくれていることが嬉しかったのだ。


「よかったな。あいつ結構いいやつなんだな」


「うん…でもこんなに送ってもらって他の無視しちゃって…今どこを呆れて見限られているかも」


「大丈夫だよ。結菜がそんな子じゃないことくらいわかってると思う。悔しいけどあいつはいいやつみたいだからな」


 良平は悔しそうに言ってスマホを指でトントント叩いた。


「すぐに電話は難しいだろ?せめて文章で返信してやった方がいいよ」


「…!うん。そうする。でも自分の部屋で落ち着いて話したいtから帰るね」


「そっか…わかったよ。じゃあまたな。子犬が来たら累と遊びに来いよ」


 良平は優しい。どんな時にも気遣いを欠かさない。私はそれに甘えることにした。


「ありがとう良平。じゃあ子犬が来たら教えてね」


 良平は笑顔で軽く手を振った。早く帰れというジェスチャー。ちょっと寂しそうな笑顔が気になったけど、私は急いで佐和子さんに挨拶をして家に戻った。


 部屋に着くと私はLIMEをもう一度開く。すると同時に累からの着信がって、勢いでとってしまった。


『結菜!結菜!お願いだから切らないで』


 電話の向こう側からは悲痛な声が聞こえてきて私は申し訳ない気持ちになって答える。


「累…切らないよ。話し…したかった。」


『花がごめん…あいつ、昔から俺にべったりで、まさかあんなことするなんて…』


 累は心から申し訳なさそうに言った。


「いいの。私が花さんの大切なお兄さんと付き合うことになって寂しかったんだよ。きっと」


 そういうと累はグッと何かを飲み込むように押し黙った。そしてゆっくり話し始めた。


『花は義理の父の連れ子でね、初めて会ったのは花が幼稚園生のころだった。最初すごく内気でぜんぜん俺とも話してくれないし目も合わせてくれなかった。いつもひとりぼっちで母親を恋しがって泣いていたよ。俺の義父と母はパートナーを病気で亡くした人が集まる集団カウンセリングで出会ってね。花の母親も病気で亡くなってずっと寂しがっていた。俺も父親をガンで亡くしてたばかりで寂しかったのもあって、花と打ち解けようと努力して、次第になついてくれるのは嬉しかったけど、相変わらず周りには馴染めずに友達もいなくて…だからつい甘やかしてしまうんだ。』


累は苦しそうに絞り出すように私に話してくれた。きっと色々葛藤があって今の関係になれたのだろう。だからつい甘やかしてしまって今の彼女ができてしまったことを反省するような気配があった。


「そうだったんだ。花さん、累さんのことが本当に好きなんだね。ちょっと…びっくりしたけど、理由がわかったらなんとなく納得がいったよ。でも花さんは私と累さんの交際に反対らしいけど、大丈夫かな?せっかくできた信頼関係が壊れたりしない?」


私がそういうと累はキッパリと言った。


『俺と花はもう子供じゃないんだ。お互いそれぞれの人生がある。これからはずっと一緒にはいられないんだ。花には花の幸せを見つけてもらうしかない』


累は強くその意志を示して私を安心させようとしているようだった。

 花さんには申し訳ないが、私は累が自分を優先してくれることが嬉しかった。


「累さん…ありがとう。あの。私、まだ累さんのこと好きでいいですか?」


『もちろんだよ。でも、その前に確認。あの時一緒にいた幼馴染、本当にただの幼馴染なんだよね?』


 累は良平のことが気になっているようだった。その気持ちは分かる。私も花さんのことを見て不安になったから。


「うちと良平の家は隣同士で、良平は私が生まれる前からの知り合いなんです。私が生まれてからは良平は私のことを妹みたいに可愛がってくれて、ずっと守ってくれていたんです。でも年齢が上がるごとに学校が分かれたりして、隣に住んでいるのになかなか会わなくて、今日久々に話しました」


 私は正直に全てを話すと累はようやく安心したようで声音が柔らかくなった。


『ねえ。明日会えないかな?本当は今すぐ会いたいけど、遅い時間に外出させて何かあったら大変だからね。朝10時に上野駅前で待ち合わせしよう』


 嬉しいかった。あんなことがあったからきっと呆れられて私とはもう二度と会いたくないって言われてるとお思っていたから。


「明日、会えるの楽しみにしています。おやすみなさい」


 本当はもっと話していたかったけれど、胸がいっぱいでこれ以上は難しかった。


『うん。おやすみ』


 そういって通話は終わった。

(累さんがまだ私のこと好きでいてくれている。嬉しい。)

 そのことを思うだけで心がポカポカと暖かかった。明日会えるのも楽しみで、今日買った服を早速明日きていこうと思いながら、私は寝支度を整えて、就寝したのだった。


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