ニコニコと優しそうに微笑む花と呼ばれた少女は累にべったりくっつき、とてもじゃないけどただの妹には見えなかった。
「あのお。私の感想なんですけど、結菜さんとそっち良平さんの方がお似合いというか。幼馴染で恋人って素敵だと思うんですよね。累とは一時の気の迷いってことで結菜さんは良平さんと付き合った方が幸せになれると思いますよ」
ふわふわした可愛い声で残酷なことを告げる。確かに妹ではあるが累には花のような女の子の方が一緒にいる方が絵になる。
私は俯いてスカートをギュッと握りしめた。
私は地味なベージュのワンピース。花は綺麗な色のワンピース。容姿は圧倒的に花の方が上。私は完全に敗北している。
そんな花に言われると、まきこまれた良平に申し訳ないし、私も惨めな気持ちになった。
「お前らいい加減にしろよ。兄妹だかなんだか知らないが、妹に好き勝手言わせて結菜を傷つけておいてお前は勝手に怒るのか?随分身勝手な話だな」
それを聞いて累はハッとしたらしく花のことをやんわり遠ざけてから言った。
「花。お前が俺のことをいつも心配してくれているのは知っているが、結菜にも良平さんにも失礼だから謝りなさい」
すると花はウルウルと瞳を潤ませて累を上目遣いで見ながら言った。
「累。怖い。私何も悪いこと言ってないよ?本当にそう思ったから感想を言っただけなのに…ひどい」
すると花はほろりほろりと涙を流し始めた。
「花、お前を責めているわけじゃない。悪いことを言ったら謝る。当たり前のことだろう?泣かないでちゃんと謝りなさい」
累は花の涙を見慣れているのか動じることなく淡々と言い聞かせていた。
「私…悪気があって言ったんじゃないんです。本気でお似合いだと思ったから…ごめんなさい」
(最初はびっくりしたけど、根は素直な子なのかな?)
私はそう思って納得することにした。
良平をそっと盗み見ると怒りに満ちた表情で累たちを睨みつけていた。
「そうだ!ここは女の子チームと男の子チームで別れて一緒にウインドウショッピングするっていうのはどうかなあ?」
気まずい空気が漂っている中、花はとんでもない提案をしてきた。
(ええ!この気まずい空気の二人を一緒に!?花さんどういう思考をしているの!?)
私は心底驚いたが、意外に良平と累はその提案に同意した。
「話してみないとどんなやつなのかわからないから…俺は構わない」
良平が同意すると累もそれに応える。
「俺も良平さんのことを知りたいから…。花。結菜と仲良くできるな?」
「もちろんだよー。累の彼女さんだもん。仲良くなれるよ!きっとね…」
「結菜もそれでいい?」
私は累に聞かれて断るわけにもいかず頷いた。
「じゃあ1時間くらいゆっくりみて回って、そのあとは合流して夕食食べに行こうね!」
花はどこか楽しそうにいうと私の腕に手を回して甘えるように引っ張って二人からどんどん遠ざけていった。
「あの…花さん…」
「はぁ?気安く名前で呼ばないでよ。ムカつく」
「!!!」
累たちが見えなくなった瞬間腕に巻きついていた手は離れて私にいきなり悪態をついてきたので驚きすぎて固まってしまった。
「ムカつくなあ。これくらいで固まんなよ。不細工がますます不細工に見えるよ。ぷっ笑える。何そのワンピース。おばあちゃんのお下がり?」
花はどんどん私に悪態をついて私をたじろがせる。
「えっ…あの…その…」
「ああ〜もうはっきりしないなあ。ブスの上にコミュ障かよ。最悪」
私はもう会いた口が塞がらない。花は正真正銘の今どきの若者だった。しかもかなり性格に難のある。
(どうしよう。多分高校生くらいだよね?あまり大人気ない態度もとりたくないし、さっきカフェでお茶したばかりだけど、一緒に仲良くショッピングする雰囲気でもないからカフェでお茶に誘おうかな)
「あの…澤村さん、まだ時間があるから一緒にカフェでお茶でもしませんか?」
「は〜あ?なんで私があんたとカフェに入らないといけないの?わたしは一人でブラブラするからあんたは空気読んでさっさと帰りなよブス」
(これは…かなり難のある妹さんだ…)
取り尽くしまのない彼女に私はお手上げだった。だが彼女は本気で私を嫌っている様子だったので、私は大人しく帰ったほうがよさそうだと思い。良平と累に体調が優れないから帰ると連絡して帰宅することにした。
「沢村さん、じゃあ私はここで…」
「ちょっとあんた。さっさと累と別れなさいよ!あんたには累全然にあってないから。ブスのくせに生意気なのよ。累には私がいればそれでいいんだから」
「でもお兄さんももう大人だから自立をした方が…」
「くっ…あはは。ばっかじゃないの?私と累は血の繋がりはないの。親同士の再婚で兄妹になっただけだから。だから私にも累と恋人になるチャンスはあるのよ。私は世間体なんて気にしない。本気で累のこと思ってるんだから。ポッと出のあんたなんて累に全然釣り合わないんだから」
ひどい言われようだった。私と累だって少しずつ絆を深めて恋人になれたのに。それが義理の妹さんにここまで罵倒されるとは…
(でも花さんのいうことは正しい。累さんの隣には私より花さんが並ぶ方がずっと絵になる)
もう私は完全に花に白旗をあげてしまった。
「ねえ、ここで累に別れようってLIMEして!あんたしつこそうだし累の優しさにつけ込んでダラダラ付き合いを続けられたら不快なのよ」
「でも…累さんは私のこと…」
「それは累の気の迷いに決まってるでしょ!ほんっと図々しい!ちょっとかして」
そういうと花はLIMEを開いていた私のスマホを取り上げると素早く文章を打ち込み、送信ボタンを推した。
「ほら。私が代わりにLIME送ってあげたから」
「え!?一体何を?」
慌ててLI MEの画面を見て私の手は震えた。
『やっぱり良平が好きだから累とは別れる。もう連絡しないで』
私の手は震えてスマホを撮り落としそうになった。
「いい?どんな返信があっても絶対返信しないでよ。私と累の邪魔をこれ以上続けたら許さないから」
そういうと花は甘えた声を出して累に電話をしながら歩き去ってしまった。
「終わっちゃった…」
気づけば私は涙を流していた。どんな通知が来るのか怖くて私はすぐにスマホと電源を落とす。累はきっとあんな文章を読んだら腹を立てて私から離れてしまうだろう。
それを受け止められるほど私は強くなかった。
それからどうやって駅まで来たのか記憶があやふやだが、とにかく私は帰りの電車に乗って窓際で立って外の景色を見ていた。すると累が遠くから走ってきたのが見えて驚いた。
だがあと少し間に合わず、電車は扉を閉めて出発してしまう。累の顔には悲壮感が漂っていて、私は胸がギュッと苦しくなったが、花の言葉が胸に刺さっていて累の顔をまともに見ることができなかった。
(累…追いかけてきてくれたの?どうして?)
私はもう累との縁が切れてしまったんだ。あんなに好きだったのに。ようやく思いが通じたのに…。
私は車窓を眺めながら過ぎ去っていく景色を眺めた。
家に着くと先に家に着いたらしい良平が玄関前で待ち構えていた。