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第13話 友人と

『この前はありがとう。結菜と過ごす時間が楽しくてあっという間に過ぎて寂しいよ。早速だけど、今週末時間あるかな?今度は映画を一緒に観に行かない?』


 仕事で疲れ切って帰る途中の電車の中で、累からLIMEが入った。

(また累さんに会える!しかも映画デートなんて素敵。早速返事を書かないと)


『是非お願いします。何を見るのですか?』


LIMEは間髪入れず即座に既読がついて返信が来た。

きっと累も私のようにLIMEを開いたままにして返信が来るのを待ってくれていたのだろう。


『今流行りのアニメだよ。サマーサマー』


『それ、観たかったものです!嬉しい!』


 私はウキウキした気持ちになって返信する。好きな人と観たいものの趣味が同じだと、こんなにも嬉しい気持ちになるのだと初めて知った。

(今度のデートの時には少し明るい色の服で行こうかな。累さん素敵だから、私も少しでも見合う女の子になりたい)

 仕事で疲れていたが、今日は定時にあがれたので、時間はある。駅ビルにある服屋で可愛い服がないか探してみようと思いたって、いつもは素通りするオシャレなショップが沢山入っている駅ビルのある駅で降りた。


「えっと確かこっちのビルの3階に色々あったはず」


 そう思いながらその通りに着くと早速尻込みしてしまう。周りは明るい照明でキラキラと輝いていて、どのショップもオシャレで地味な服の私が入っていくのは気が引けてしまったのだ。

(ダメだ。やっぱり帰ろう)

 そう思って通路を歩いていた時、知った声が聞こえてきた。


「結菜!こんなところで会うなんて珍しい!」


「え…ななみ?」


 それは学生の頃からの友人の五木ななみだった。

 彼女は確かどこかのアパレルの社員で、そういえばこの駅ビルにも出店していると話していたことを思い出した。


「どうしたの?何か探し物?」


「うん…実はね、綺麗な色の服が欲しかったんだけど、どのショップもあまりにもキラキラし過ぎてて地味な私には無理な空間だったから、もう帰ろうかと思って」


「男だね…」


「へ?」


「この結菜に綺麗な色の服が着たいなんて思わせるなんて、男の影響としか考えられないかない。しかも相当なイケメンと見た!どうだ!」


 ズバリ言い当てられて私は狼狽える。ななみはすごく鋭いのですぐにバレてしまうのだ。


「えええ〜!どうしてわかっちゃうの!?」


「いや、めっちゃ分かりやすいし」


 ななみはケラケラ笑うと私の手をとって1件のショップにずんずんと入って行った。

 そこは私が気になっていた店だったけど、ショーウィンドウがあまりに綺麗すぎて尻込みしていた店だった。


「私、今ここで働いてるんだぁ。販売じゃなくて企画部なんだけどね。今日はたまたま視察に来てたの。そしたら綺麗になりたくて困ってるサナギを見つけたから、これはもう私の腕で蝶に育て上げないといけないって使命感にかられちゃったわけよ」


 そう言うとななみは何点かの洋服を選び取ると私を更衣室に連れていく。


「これはこの服と合わせて、こっちのカットソーはこのスカートね。はい!着替えて」


「えっ!えっ!」


ななみの勢いに押されて私は言われるがまま服を着る。すると地味だった私がキラキラと輝いて見えた。


「どう…かな?」


 ななみは私を見て目を輝かせる。


「可愛い!結菜は素材はいいんだから似合って当たり前!なんだけど、やっぱり可愛い〜!じゃあ次はこっちの組み合わせも試してみて」


 そう言うとシャッとカーテンを閉められる。言われた通り私はもう一方の組み合わせに袖を通す。


「終わりました〜」


「おお!こっちもいいねえ。しかしどうしたものか…両方可愛い。ねえ、お相手が好きな色とかわからない?」


「ううん。それがわからなくて…」


「そっかあ…そっかあ…これどっちもおすすめだけど、使い回しがききやすいこっちのコーディネートの方がいいかもね。それでこれから少しずつトップスとボトムスを揃えていって…うん!それがいいかも」


 そう言ってななみは白い可愛らしいデザインのブラウスとネイビーのスカートを選んでくれた。寒さ対策で淡い水色のカーディガンと、服に合わせるために白のヒールが少しあるサンダルと、可愛いカバンも選んでくれたので、ななみトータルコーディネイトは結構な出費になった。

(まあ、普段あまりお金使わないし、たまにはこれくらい奮発しても、自分への普段の頑張りのご褒美ってことで)

 私はそう割り切ってお店を出た。本当はそのままカフェでお茶でもしたかったが、ななみは仕事が忙しいらしく、そこで別れることになった。

 私は少し疲れたのでルタバで季節のフラベチーノを頼んでなんとなく窓の外を見ていた。

 すると累が歩いているのを見かけたのだ。

(嘘!こんなところに累がいるなんて!)

 早速累にLIMEでここにいることを知らせようとしたところ、栗色の髪を柔らかく巻いて薄ピンクのかわいらしいワンピースを着た女の子が累の腕に巻きついて頭を肩に寄せて甘えていた。


「え…あれって…」


 一瞬見間違いかと思ったが、何度見ても間違いなく累だった。心臓の音がドクドクと頭に響く。私は動揺して持っていたスマホを床に落としてしまい、急いで拾おうとしたら、通りかかりの男の人が拾ってくれた。


「ありがとうございま…あれ?良平?」


 今日は偶然が重なる。そこにはお隣さんで幼い頃から仲の良い3歳年上のお兄さんの良平が立っていた。


「スマホ、画面割れてなくてよかった。顔色が悪いけどどうかした?あ、隣いい?」


「うん…」


 良平には申し訳ないけど、今は累のことが気になってしかたなかった。

 累は相変わらず私のことには気づかず、一緒にいる美少女に腕を組まれても嫌な顔をせず、それどころか頭を優しく撫でてあげていた。

(え…頭を撫でてもらえるのって…私だけじゃないの?)

 私は前のデートの時に撫でてもらった頭をそっと押さえた。手が震える。それくらい動揺していた。

 やがて二人は人混みの中に消えていったが、私の心臓はバクバクと早鐘をうち、手はわずかに震えていた。

 そんな私の様子を心配した良平が私の顔を覗き込んできてそっと背中をさすってくれた。


「大丈夫か?本当に悩みがあったら相談に乗るよ?」


 私は動揺していたので、幼い頃からずっと仲良しな良平にならと今までの経緯を話すことにした。


「実は前から話していた配信者と付き合うことになったんだけど、さっきね、その人、累さんって言うんだけど、すっごく可愛い女の子と腕を組んで歩いてるのを見かけて…私、怖くて累さんにLIMEすらできなくて…どうしたらいいのかな」


 思わずポロリと涙がこぼれ落ちる。良平は綺麗なハンカチを取り出すと私の涙を化粧が崩れないようにそっと拭き取ってくれる。


「だから言ったじゃないか。配信者、しかもマッチョな体しか映していない変な人に恋なんてしても不毛だって…」


「うん…だけど累さんは…累さんだけは違うって思って…だから…お付き合いすることになったのに…こんな早々に別の女の人と一緒にいるとこと見かけるなんて…」


言葉にすると現実味がおびてきて涙が止まらなくなった。


「結菜…大丈夫だ…もし今回のことがきっかけで別れることになっても…俺が」


「んっ…ぐす…良平がどうしたの?」


「いや、なんでもない」


良平は私の頭に手を伸ばしたが、私はサッと避ける。今私の頭に触れていいのは累だけだから。


「寂しいよ。昔は良平お兄ちゃんって慕って頭も撫でさせてくれていたのに…

今は頭に触れるのも拒否されるんだね」


「ごめんね、今は累さん以外に触ってほしくないの」


「でもその累ってやつは他の女と腕組んで歩いてたんだろ?結菜は遊ばれてただけなんじゃないか?」


 良平の言葉に思わず耳を塞ぐ。信じたくない。はじめて会った日、あんなに優しかった累が違う女の子。しかもとびきり美人な子と腕を組んで頭まで撫でてもらっていたなんて…。



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