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第12話 募る思い

「あ…そういえば写真撮ってなかったけどよかった?SNSにあげたりしないの?」


「大丈夫です。私、SNSは主に読む専なので、累さんは…プライベートは載せないから大丈夫でしたよね?」


「うん。いつもみてくれてるんだね。ありがとう。そう。俺は筋トレとか、プライベート以外のことしかあげてないから。大丈夫。それよりアイスが溶けるから食べようか」


 言われてみるとアイスはすでにとろけ始めていた。私は一口大に切り分けたパンケーキにアイスを添えて口元に運ぶ。ふわりと柔らかな味が広がってとても美味しい。

 次に累が取り分けてくれたベリーのパンケーキを食べるとそちらは少し甘酸っぱい味がして、トロピカルのパンケーキと全く違っていて美味しかった。

 累をそっと観察すると、一口が私の倍の大きさで、それがするりと口の中に吸い込まれていく。とても綺麗な食べ方に育ちの良さを感じた。

(私も急いで食べないと!累さんを待たせちゃう) 

 そう思うとパクパクと自分の分のパンケーキを食べ進める。急ぎながら、でも味わいつつ。夢中で食べていたらパンケーキはいつの間にか空になっていた。


「ふう。美味しかったです。累さん、お待たせしてすみません」


「急がなくてもよかったのに。俺と結菜とじゃ体格差もあるから、食べるスピードが違っても大丈夫なんだよ」


「いいえ、ちゃんと味わいながら食べましたから。すごく美味しかったです。また来たいなって思っちゃいました」


 アイスコーヒーを飲みながら私は言った。無糖のコーヒーの苦味がパンケーキの後味の甘さをさっぱりとした後味に変えてくれる。累も無糖のコーヒーを飲みながら、頬杖をついて私を見つめてくる。

(?もしかして私口周り汚れてる?)

 急いで紙ナプキンで口の周りを拭うが、累は相変わらず私の顔を眺めていた。


「累さん?」


「ああ。ごめんね。もうすぐデートが終わっちゃうんだと思うと名残惜しくて、次に会える時まで結菜不足にならないように見ておこうと思って」


 また会えるのも嬉しいけれど、私が不足しないように見つめてくれる。それだけ私のことを思ってくれていることがわかって嬉しかった。

 私は配信で累を感じることができるけど、累は私と会わないと私を感じることができないから。私は累が寂しくならないようにメッセージはこれまでと同じように送ろうと思っていたが、累がスマホを出すとLIMEのバーコード画面を出した。


「これからはメッセージじゃなくて、こっちで連絡取りたい。だめかな?」


「!はい。では…」


 私は慌ててスマホを取り出すとLIMEを選択してそのバーコードを読み取った。


「ありがとう。これで繋がれた。嬉しいよ。これからはいつでも結菜と連絡を取り合えるんだね」


「はい。私も嬉しいです。これから、おはようございますとか。おやすみなさいとか、そんな簡単なことでもLIMEしてもいいですか?」


「嬉しいよ。俺もそうする。それ以外でもなんでもいいから、寂しくなったらLIMEするよ」


 累も離れていると寂しいと感じてくれることが嬉しかった。私の一方通行な思いではなくて、お互い同じ思いを抱いていることがわかって心のそこから安心した。


「じゃあ、混んでるし食べ終わったからでようか」


「はい」


 二人揃って店を出ると駅に向かって歩き始めた。もうすぐ楽しかったデートが終わってしまう。本当はもっと一緒にいたかったけど、それをねだったらきっと際限なくなって帰りたくなくなってしまいそうだったから、私はその思いに蓋をした。

 累も心なしか元気がなく見える。累も同じように思ってくれているのかなと気になりながら私は累が心なしか強めに握ってくれている手を握り返した。


「じゃあここでお別れだね。結菜と俺は反対方向だから、また会える?」


「会えます。と言うより会いたいです。次のデート、楽しみにしていますね」


 私がそう言うと累は微笑んで私に一歩近づくとおでこに優しくキスをしてくれた。

(え…キス?えっ…えっ…どうしよう。恥ずかしいけど嬉しい)

 動揺しながら累がキスしてくれた場所をそっと指でなぞる。ここに累がキスしてくれたんだと思うと改めて恥ずかしくなって、また私は茹蛸みたいに赤くなってしまった。


「可愛いね。真っ赤」

「累さん…嬉しいですけど、恥ずかしいです」


「ごめんね。どうしても触れたくて。動揺してる結菜も可愛いよ」


 累は微笑んで私の頭を撫でる。 

 そうされたらまた離れがたくなってしまうのに。累は多分それをわかっているから頭を撫でるのだろう。1分1秒でも長く一緒にいたいから。


「これでおしまい。ずっとここに立っていても仕方ないからね」


「はい…寂しいですけど、今日が最後というわけではないですから」


「そうだね。次のデート、楽しみにしてる」


「また…」


「またね、結菜」


 そう言って私は累と別れて駅のホームに降りていった。反対側をみると、そこには累の姿があった手を振ると振りかえしてくれる。私と累を隔てる線路が私はもどかしかった。

 二人見つめあっていると、電車が駅に滑り込んでくる。それの乗り込むと、反対側にも同じく電車が止まった。私は少しでも累に近づきたくてドアの窓前に行くと、累も同じ気持ちだったようで同じくドアの窓前に来てくれた。手を窓につくと、重ねるように累も窓に手をついてくれた。

 だが電車は少しずつ動き出す。重なっていた手が少しずつ離れていって、やがて遠く離れてしまった。

(寂しい…でも、またきっと会えるから)

 私はそう思いながらそのままそこに立って車窓から流れる景色を見た。たくさんのビルがどんどん後ろに流れていくのをみると、累とどんどん離されていることを思い知らされるようで、思わず涙ぐむ。

 その時だ。ピロンと音がなってスマホを見ると累からLIMEが届いていた。


『泣いてない?俺は寂しいよ』


 優しい累。私のことを心配してLIMEしてくれたのだろう。私は即座に返信する。


『寂しいです。でも。また会えるから。我慢します』

『我慢か…結菜はえらいね。俺も見習わないと』


『見習う?』


『そう。俺も我慢しないとね。寂しいのを抑えるのは大変だけど、結菜を困らせるのは良くないから。できるだけ早く次のデート、考えるね』


『ありがとうございます!でも私も一緒に考えてもいいですか?累さんに会えること、私も楽しみなので』


『じゃあ一緒に考えよう。ありがとう結菜』


 そのやりとりをしているうちに降りる駅に着いたので、私はLIMEを閉じる。

 これからはこうやっていつでも累を感じることができるのが嬉しかった。目を閉じて累のことを思い浮かべる。その優しい微笑みを。それだけで私は少ししょんぼりしていた気持ちが上向きになる。

 そう。これで終わりではないのだ。これからきっと沢山累と会って話してどんどん累のことを好きになり続けるのだろう。

 それが嬉しくて私はスマホを握りしめる。駅から出ると見慣れたいつもの街並みが広がっていたが、不思議と今までと違ってキラキラと輝いて見えた。

(累さんと出会えたから…世界が綺麗に見える)

 私はそれが嬉しくてLIMEをもう一度見てから家に向かって歩き始めた。


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