「結菜と出会えてよかった。君がいたからこのずっと配信を頑張ることができたんだ。それくらい感謝しているんだよ」
「私、何も。感想をメッセージで送っていただけですから」
「だって覚えてる?初めてメッセージをくれたのは君なんだよ」
「え?私が初めてだったんですか?」
「うん。まだ、始めた頃、君は俺を見つけて配信を見てメッセージをくれた。それがすごく嬉しかったんだ。覚えてないか…」
「いえ、最初に送ったメッセージは今でも覚えています。でもそれが最初のメッセージだったなんて…」
最初に送ったメッセージは本当に簡単なものだった。配信を見てトークが上手だし、視聴者に配慮して色々と答えている丁寧な対応が素敵と言った内容をつらつらと書いて送ったのだ。
それのおかげて今こうして累と繋がれているなんて、本当に運命とは分からないものだ。
もし2番手、3番手だったら、ここまで気にかけてくれただろうか。それでも累は私を見つけてくれたのだろうか。考えても答えは出ない。それにこれを累に聞くのも無粋だろうと思って口を噤んだ。
「そろそろ移動しようか。気温も高いし、日陰でも体力を消耗するから、結菜には辛いよね」
そう言ってベンチから立ち上がると手を差し出して私を助け起こしてくれる。自然にそういったことをしてくれるのが嬉しい。
「累さんはすごく優しいですよね。誰にでも親切にしてそう…」
「そんなことないよ。俺は誰にでも優しい聖人じゃない。俺がしたいと思った人にしか手を貸さない。こうして手を差し出したのは結菜だからだよ」
累はそう言うと私の頭に手をのせて、その大きな手で私の頭を優しく撫でる。
「累さん…もしかして頭を撫でるの好きなのですか?」
「ん?特にそう言うわけではないけど、こうしたら結菜が嬉しそうにするから。つい…ね?」
気付かなかった。私は普段から顔に出やすいと言われているけど、ここまで筒抜けなのは流石に恥ずかしかった。でも累に頭を撫でてもらうことはすごく心地よくて落ち着いて大好きだから、やめて欲しくない。だから色々な言い訳を全て飲み込んで、気恥ずかしさから少し俯いて頭を撫でてもらった。
「あの…この後カフェでお茶しませんか?さっきのお礼も兼ねて…さっき美味しそうな喫茶店を見つけたんです。パンケーキが目玉商品らしくて、累さん、甘いものお好きだからどうかなって」
「いいね!俺パンケーキ大好きなんだ。シロップをたっぷりかけて、バターを溶かして食べるのも好きだし、アイスが添えてあって、甘いソースとフルーツで盛り付けてあるものも好きだな。じゃあそこに行こうか」
子供のようにはしゃぐ累が可愛くて私は思わず微笑んだ。かくゆう私もパンケーキは大好きなので食べるのが楽しみでワクワクしながら累と一緒にカフェに向かった。カフェは賑わっており、私と累は順番待ちのタブレットに入力をして列の最後尾に並んだ。
私は列に並ぶのは苦ではないタチなのだが、累はどうなのだろうと言うことが気になった。
「累さん、並ぶの平気ですか?もし並ぶのが苦痛だったら別のお店に…」
「そんなことないよ。むしろ好きかな。何を食べようかゆっくり選べるしね」
そう言った累の手にはメニュー表が握られていた。先ほど予約機の近くに置いてあったものを持ってきたらしい。私は累が広げたメニュー表を一緒に見せてもらうことにした。そこには色々なトッピングのパンケーキが並んでいた。私はそれも見るだけで心が躍った。累も同じようで、目を輝かせてメニュー表を見ている。
「私、トロピカルフルーツのパンケーキにしようかと思います。累さんは?」
「そうだね。このフレッシュベリーのパンケーキにしようかな。俺、ベリー系が大好きなんだ」
また新しい好きを知れた。それが嬉しかった。メニュー表に掲載されているフレッシュベリーのパンケーキはイチゴやブラックベリー、ラズベリーがたっぷり乗っていて、横にはいちごアイスが添えられていてとても美味しそうだった。
「わあ!美味しそう!」
その写真にはベリーが綺麗に盛り付けられていて、とても美味しそうで思わず声をあげてしまったが、これでは私が食いしん坊みたいで恥ずかしい。でも累はそんなことは気にしていないようで、優しく微笑む。
「じゃあ結菜のパンケーキと半分こにする?俺もトロピカルフルーツ興味あったから」
「え?いいんですか?嬉しいですけど無理しないでくださいね」
「ん。好きな子の好きなもの、一緒に食べられたら楽しいだろうなって思ってるから、気にしないで」
好きな子。その響きがくすぐったくて思わず赤面してしまったので、手で顔を隠した。するとその手は累に優しく解かれて背の高い累が腰をかがめて見つめてきた。
「累さん!どうしたんですか?」
「赤くなった結菜が見たかったから」
「なんだかずるいです。私ばかり累さんのことどんどん好きになっていってる気がします」
「ふふ。それならよかった。でも結菜のことをどんどん好きになっていってるのは同じだよ」
自分でぼけつを掘ってしまった。またさらに頬が熱くなる。きっと今の私は茹蛸みたいに真っ赤になっているだろう。
「可愛いね。結菜」
頭にまた手が乗った。そして優しく撫でられる。私はこの瞬間がとても好きになってしまっていた。
その時、名前を呼ばれたので店内に入って席についた。メニューは決めていたのでその場で注文し、しばし届くのを待つことになった。
「ねえ、紙ナプキンで鳥が作れるんだけどやって見せようか?」
累が唐突に言い出したので私は驚いたが、興味があったので、頷く。
「はい!見てみたいです」
「じゃあちょっと待ってて」
そう言うと累は紙ナプキンを1枚取ると広げて折りたたみ始めた。私はそれを興味深く観察する。するとどんどん一枚の紙だったものが鳥の形に変形していった。
大きくて無骨な手なのに、その手つきは繊細で、折りたたんでいく手を見るだけでも十分楽しかった。
「できた…どう?」
「すごい!本当に鳥になりましたね。可愛い…」
感嘆の声をあげると、累は私に尋ねてきた。
「喜んでもらえてよかった。折り紙は得意なんだ。これをあげて喜んでくれた人がいたから」
「それは?」
「ん。随分昔だよ。泣いているその子を励ましたくてなんとなく折ったものがスタートかな。それからはまって色々折っていたな」
「累さんは優しいですね。私は誰かを助けたり、そう言った経験がないから…尊敬します」
「そこは、また好きになった…とかの方が嬉しいかな」
累はイタズラっぽく微笑む。そこに丁度注文していたパンケーキが届いたので、あらかじめお願いして持ってきてもらっていた取り分け用のお皿にパンケーキを乗せた。累も同じようにパンケーキを半分こにするとお皿に綺麗に盛り付けてくれる。