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第10話 昔から

「あなた達、すごく仲がいいんだね。恋人同士お互い尊重しあってる感じがすごくいいね。そうだ、少し鯉に餌をあげ見るかい?私はここの公園の管理人なんだけど、できれば全体満遍なくあげてくれたら助かるな」


 管理人さんの言葉に驚いたが、私は鯉に餌をあげられるのが嬉しくて即座に答えた。


「ありがとうございます。では少しだけ…」


 管理人さんから餌を受け取ると私はそれを水面へと放った。途端、鯉たちがまた口を開けて私がまいた餌をぱくぱくと食べてしまう。累も同様に受け取った餌を水面に放って自分のまいた餌を食べる様を楽しそうに眺めていた。


「今日も暑いねえ、あなた達も熱中症には気をつけてくださいね」


「ありがとうございます。管理人さんもお気をつけて」


 そこで私達は管理人さんから離れると再び公園を歩き始めた。のんびり歩いたため、公園に入ってすでに30分程経っていた。


「暑いですし、あの木陰のベンチで休もうか」


「はい…ちょっと疲れていたのでありがたいです」


 私達は木陰のベンチに座って静かに池を眺めた。ふと上を見ると木漏れ日がキラキラ輝きとても美しかったので、累にも教えてあげたいと思い、隣を見ると累も木漏れ日を見て目を細めていた。


「上、綺麗ですね。今の時期しか見られない景色。日本はいいですね。こうして四季折々の美しい姿が見られる」


「ええ。私も自国なのもありますが日本がとても好きです。こういった景色が見られるから」


 二人揃って上を見上げてサワサワと風で揺れるたびに光が揺れる木漏れ日を楽しむと今度は目の前の池を見つめた。丁度鴨が2羽仲良く泳いでいて、私はそれを見て微笑ましくて微笑んだ。


「ああ。鴨がいるんですね。あれは番かな?仲良くていいね。見ていて微笑ましくなる」


「そうですね。鴨って一度番になったらずっと一緒にいるって聞いたことがあります。羨ましい。私もそんなふうに…」


 言っていてしまったと思った。累への返事もまだなのに、番に憧れているなんて言ってしまってよかったのだろうか。恐る恐る累を見ると彼はそんなこと気にしていない風に鴨を眺めていた。

(よかった。特に気にしていないみたい。私も口にすることは気をつけないと)


「番か…本当にそんな風になれたらいいのにね」


 累はどこか寂しげにそう言うと私の方に向き直って言った。


「さっきはね、自信がなかったから答えは先でいいって言ったけど、今の気持ちを聞かせてもらってもいいかな。もちろんまだ気持ちがはっきりしないから配信者とリスナーでいたいって言ってもらってもいいんだよ。俺は諦めないし、いつまでも待つから」


「累さん…私、まだ出会って間もないのに、ずっとメッセージでやり取りしていたせいもあって、累さんの内面もお会いした姿も好きです。異性として。意識しています。大切なことだから今日ずっと考えていました。でも、累さんのこと見ていて、好きだなって気持ちがどんどん湧いてきて、これからも一緒に時を過ごしたいと思ったんです」


 私はついに今日温めていた気持ちを伝えることができた。累はわたしの答えを聞いて目を見開くとふっと優しい表情になって、そっと手を握ってくれた。


「じゃあ、今日から結菜ちゃんは俺の正式な彼女って言うことでいいのかな?」


「はい。そして累さんが私の正式な彼氏さんです」


 私と累は手を握って見つめ合う。サワサワと涼しげな風が吹いて木の葉を揺らしながら二人を祝福するかのように木漏れ日が揺れた。この心地よさはきっと累と一緒だからだろう。今までグレーだった世界が色彩が溢れて美しい世界に変わっていった。

(ああ。累さんと一緒だとこんなにも世界は美しいんだ)

 私は累と出会えて幸運だった。ここまで強い感情をもって誰かを思ったことがなかったから。多少の戸惑いはあるけれど、累に強い感情を持つのは悪くない気分だった。


「ねえ、結菜ちゃん、これからは結菜って呼んでもいい?」


「はい。私は…やっぱり累さんって呼ばせていただきたいのですが…」


「いいよ、それで、なれたら累って呼んでね。それから敬語も。なんだか他人行儀だからそのうち普通に喋ってくれたら嬉しいな」


「はい…ちょっと難しいけど、頑張ります」


 累は優しい。自分の考えを押し付けない。私ができるようになるまで待ってくれるという。その優しさが私は嬉しかった。

 今まで付き合ってきた人達は自分の考えを押し付けて、”もっと見栄えの良い服を着てくれ””敬語やめろよ””化粧もっとしっかりしろよ”等、自分好みの女の子に私を作り変えようとしてきたため、累の全て受け止めてくれる器の大きさに心が救われたのだ。

 私は自分で思っている以上に我が強いようで、自分のよしとしていることを指摘されると意固地になってしまう。今までの彼氏とはそれで別れてしまった。だかこそ、累は私のありのままの姿を愛してくれているのが嬉しい。

 地味でも特技がなくてもいいって言ってもらえて嬉しかった。でも、私はそれでいいのか少し不安になる。累の優しさに甘えて自分磨きを怠ってしまってはいけないのではないかと…。


「累さんは私に何も強要しませんよね。どうしてなのですか?」


「だって、そのままで十分可愛いから。何も変える必要はないよ」


「なんだか甘やかされている気分です」


「ふふ。甘やかしてるよ。結菜はいつも頑張ってるから、俺と一緒の時くらいワガママを言って甘えてくれたら嬉しいな」


「累さん…」


 どこまでも優しい累に私は癒される。日頃仕事の疲れで疲弊し切っている精神が累といることで回復してくのがわかった。

 だけど私は累の癒しに慣れているのだろうか。私が一方的に累に癒されているのではないか。それが不安だった。


「あの…累さん、私に何かできることがあったらなんでも言ってくださいね。私ができることならなんでも…」


「結菜は隣にいてくれるだけでいいんだよ。普段、配信で気を張ってるから、結菜がいてくれるだけで心が安らぐんだ。やっぱり随分長くメッセージで繋がっていたから、こうして実際に会って話しても全然違和感がなくて、ずっと昔から一緒にいたような気がするんだ」


「それ…!私も同じきもちです。累さんとは今日初めて会ったきがしなくて。嬉しい。累さんと同じ気持ちだったんですね」


 そう。驚くほど自然に累と一緒にいることに馴染んだのだ。こんなこと今まで生きていて初めての体験だった。

 辛い時も嬉しい時もメッセージで累と繋がっていた。だからお互いの内面をよく理解して、お互いが同じ思いを抱いたのだろう。




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