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第5話 いいなと思ったから

顔が発熱したのかと思うほど暑くなって私は累さんから思わず視線を逸らした。(今可愛いって言ってくれた!どうしよう…嬉しいけど…言われ慣れてなくてどんな反応をしたらいいのかわからない)

 累は私が軽いパニックを起こしてあわあわしているのを見て、優しく微笑んでいた。その思考は読めない。累は感情をあまり顔に出さないタイプらしい。

(累さんは大人だな。私なんてもう23なのにいつまで経っても子どもみたい)

 累とは2つしか違わないのにその差がとても遠く感じた。


「ほら、行こうか結菜ちゃん。またちょっと悩んでいた?そんな時こそ可愛い動物に癒してもらおう」


 累は私の手を取るとゆっくりと歩き始めた。私もそれに着いていく。

 ふれあいコーナーは小さい子供から私たちよのうな大人のカップルで混み合っていた。でもひよこコーナーはちょっと空いていたので私はしゃがみ込んでひよこの前にそっと手を置いた。すると小さな黄色いふわふわが私の手のひらに飛び乗る。


「累さん!ひよこが私の手に乗ってくレました!」


 嬉しくて累の方を見上げると累はとても優しくて穏やかな顔で私を見つめていた。まるで愛おしいものを愛でるように。


「ああ。可愛いね。手のひらに乗るのか。俺もしてみようかな」


 累はそういうと私の隣にしゃがんで手のひらをひよこの囲いの中に入れる。するとあっという間に累の大きな手のひらはひよこでいっぱいになった。


「ふふ。累さんの手のひらがひよこで埋もれちゃいましたね。私のところには1羽だけなのに、累さん人気者ですね」


「ああ。いつもこうなんだ。もしかしたら飼育員の人が男の人なのかもしれないね。だから大きな手が入ってきたらひよこ達が勘違いして乗ってくれるのかも」


 累はひよこを驚かさないようにそっと手を引いてスマホを取り出すと私とひよこのツーショットを撮った。


「あ…累さん」


「勝手にごめんね。微笑ましい図だったから、疲れた時に見たら癒されるかなって」


「癒される?それならひよこだけ撮った方が…」


「ふふ。結菜ちゃんの優しい顔も一緒に見た方が癒されるんだよ。ね?」


 私が累の癒しになる。そのことに驚きと喜びでいっぱいになった。私の存在が累の心を癒すことができることが嬉しくてたまらない。力になれることがあるなんて、思ってもみなかったから。


「累さんは…いえ、なんでもありません」


 聞いてみたかった。私のことをどう思っているのか。だけどそれを聞いて二人の関係が変わってしまうのが怖くて続きがどうしても言葉にできなかった。

 累は立ち上がるとわたいの手を引いて立ち上がらせると枝に止まっているインコのところに行くと指を差し出してインコが累の指に止まったのを見せてくれた。


「俺は結菜ちゃんのことが好ましいと思ったから今回デートに誘ったんだ。結菜ちゃんも俺のこと、いいなと思って来てくれたんだよね?実際にあったら結菜ちゃんのことさらに好ましく感じたんだ。だから、結菜ちゃんがよかったら、俺達、付き合わない?」


 今日のご飯は何食べる?というふうにさらりと告白を受けて私は面食らった。

(付き合う?私と累さんが…)

 軽くパニックを起こしながら、なんとか冷静になれるように私は深呼吸をして答えを伝えようとしたが、累にそれを制される。


「答えるのは少し待ってほしい。すぐに決めるのって難しいからね。それに、俺も心の準備ができないと、答えを受け止められられないから」


 累はインコを私の方へ寄せて来たので私を出してそっと近づけるとインコは私の指に飛び乗った。


「可愛い…わかりました。私、よく考えてみます」


「ありがとう…」


 累はそういうと優しく微笑んだ。

(ああ。この表情好きだな…出会ったばかりだけど、私、累さんに惹かれてるのかもしれない)

 その気持ちが私の中でどんどん大きくなっていった。だが答えは待って欲しいと言われたいるから、私は心の中でその気持ちをあたためようと思った。


「ねえ、お腹すかない?下の階にレストラン街があるから行ってみようか」


「え?私フードコートでもいいですよ?」


「フードコートは席を探すのが大変でしょ?それに初デートだから…ね?」


 そう言えば今日はデートでここに来ていた。そのことをすっかり失念していた。


「じゃあ言ってみましょうか」


「うん。動物たちが可愛いから、ちょっと名残惜しいけどいつかまた一緒に来ようね」


「はい!」


 思わず元気よく返事をしてしまった。子供みたいかな?と少し恥ずかしくなったが、累はそんなこと気にしない様子だった。

 階段を降りると出口前にお土産屋さんがあり、私は今日の記念に何か買って帰りたくて累を呼び止める。


「累さん、お土産見てもいいですか?」


「いいよ。可愛いの見つかるといいね」


 累はそういうと私の横を着いて歩きながらぬいぐるみやステーショナリーをゆっくり眺めた。そのうちで、私は梟のぬいぐるみが気に入ったのでそれを購入することにした。


「累さん、私お会計してくるのでここで待っていてください」


「だーめ。今日はデートだからプレゼントさせて」


 累はそう言うと私からぬいぐるみをひょいと取り上げると素早く会計を済ませて梟のぬいぐるみが入った袋を手渡してくれた。


「あの…ありがとうございます。この子。大切にしますね」


「ありがとう。喜んでもらえて嬉しいよ」


 レジの女性からぬいぐるみの入った袋を受け取ると私は嬉しさのあまり自然に累の手を握ってしまった。



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