「私、このままでいいんでしょうか?せめて洋服だけでももっとオシャレに…」
「そんな必要ないよ。だって、そのワンピースすごく可愛い。俺のために選んでくれたんだよね?無理せず等身大の自分を隠さない結菜ちゃんのこと、すごくいいなって思うよ。だって、ありのままの結菜ちゃんのことが…」
そこまで言って累さんは口を閉ざした。
(私のことがなんだろう?でも聞かない方がいい気がするから黙っておこう)
私は気になることをグッと堪えてその話は終わりになった。
車窓からは相変わらず私と累の隣り合って座った姿が映っていたが、先ほどの劣等感は無くなっていた。累の言葉のおかげだろう。彼の言葉はいつでも私に勇気をくれる。配信だけじゃなく、こうして実際に会って話している時も、変わらず。
「そろそろ目的の駅に着くよ」
累が考え事をしていた私に優しく伝えてくれる。駅名を見ると前から気になっていたけど行ったこのない駅名だった。
(ここ、前から来てみたかった場所だ。ちょっとドキドキするけど嬉しい)
そこそこ混み合っていた電車から降りる際に私は人の波にのまれて累とはぐれそうになったが、素早く累は私の手を握って周りから守るように後ろから支えてくれた。
「累さん、ありがとうございます」
「どういたしまして、この人混みだから、結菜ちゃんみたいに小さい子はあっという間にのみこまれちゃうからね。俺が守るから。頼って」
私はその言葉に甘えて累さんに守ってもらう。背中に逞しい筋肉があたって安心感と逞しい体に守ってもらっているドキドキ感で改札を出るまでドキドキしっぱなしだった。
駅を出ると触れていた背中が離れて少し寂しかったけど、手は相変わらず繋いだままで、その温もりで心がポカポカした。
降り立った駅は駅前が高架になっていて、ショピングビルまで屋根付きの歩道橋を歩いて渡ることができた。私はその途中で立ち止まる。
「あ…ここからだと車が走っていくのが見えていいですね。私、歩道橋から流れるように走っていく車を見るのが好きなんです」
「へえ。一緒だね。俺もそうなんだ。特に夜は車のテールランプが流れるようにキラキラ輝いて綺麗だから時々見に来るんだよ」
累は子どものように少し声を弾ませる。その様子が可愛くて私は累と並んでしばらくの間車が走る様を見ていた。
「あ!そろそろ時間だから行こうか」
「今日の目的地ですか?」
「うん。早く行かないと人でいっぱいになっちゃうからね」
そう言うと累は私の手を引いてビルの中に入っていく。普段いかないような高級ショッピングモールには誰もが知っている高級ブランド店が立ち並んでいて、緊張してしまった。
「こっちこっち!一番上の階にあるんだ。行こう」
「一番上の階って展望台ですか?」
私は思いついたことを言ってみたが累は微笑むだけで何も言わない。
(目的地に着くまでは秘密って言っていたものね。楽しみだな…)
累も目的地が近づくにつれてワクワクしてきたのか、小さな声で鼻歌を歌い始めた。
(あ…これ、私の好きな曲…)
そう思って累を見上げると、累はコクリと頷いた。
(私のために歌ってくれてるんだ…嬉しい)
心が温かくなっていくのを感じる。累が私のことを考えてくれていることが嬉しかったのだ。
「そういえば、結構上の階に行くのにどうしてエレベーターを使わないんですか?」
「ああ。だってエスカレーターの方が楽しいから。登って行く途中にいろんな店が見えるのも楽しいし、下を見下ろして、こんな高さまで登ったんだーって思うのも楽しいから」
(可愛い。まるで子供みたい)
累はただ単純にエスカレーターが好きだから好んで乗っているという事実が可愛くて私は微笑んだ。
(ああ。こういうところ好きだなあ。配信中ではわからなかった累さんが沢山見れて嬉しい)
そう思いながら私も周りの景色を楽しむ。さまざまなお店、覗き込むと背筋がヒヤッとする高さにあるエスカレーターそのどちらも累が言うように楽しいものだった。
「そろそろ着くよ」
思案に耽っているうちにいつの間にかスカレーターは最上階まで到達していた。
「ここが目的地…え?屋内動物園ですか?」
「そう。ここってね。結構沢山種類がいて、しかも触れ合えるコーナーがあるから結構楽しいんだ、俺がアイデアに詰まったら時々ふらっと来て動物と触れ合って新しいアイデアをもらってる場所なんだよ」
「わあ。私、動物大好きなんです。楽しみ!」
思わず子供のようにはしゃいでしまう。二人はチケットを買って注意事項を聞いてから動物園の中に入って行った。
最初に向かったのはリスの檻。その中では小さなシマリスがちょこちょこと歩き回っていて可愛い。しかも餌をあげられたので、試しにあげてみたら、小さな手で餌を掴んでコリコリと齧る姿を見られて何とも幸せな気持ちになった。累も夢中になって餌をあげていた。
配信時の大人な雰囲気と違ってまるで子どものようなその姿は新鮮で思わず凝視してしまった。
「小さな手で餌を掴んで齧る姿とっても可愛いですね!あ、また新しい子が来た。ほらほら~。餌あげるから食べて食べて~」
私は夢中になって餌をあげていたがぱしゃっと音がして、振り向くと累さんが私の餌やり風景を撮影していた。
「累さん!恥ずかしいです。写真…どうして撮ったんですか?」
「えっとね。結菜ちゃんが生き生きしてたのもあるけど、記録に残しておきたかったんだ。俺の大切な場所に結菜ちゃんを連れてきたことを」
そう言うと今とった写真を私に見せてくれる。そこに映った私は自分で言うのも変だけど、すごく幸せそうですごくいい写真だった。